内外装デザインが進化した5代目モデル
ジープ・グランドチェロキーに、新たに2列シートモデルが加わった。先行して2月に発売されていた3列シートのグランドチェロキーLとともに、ジープのフラッグシップを形成。1993年の初登場以来、5世代目モデルとなるが、高級感にいっそう磨きをかけている。
グランドチェロキーの全長は、「L」の5200mmに対し、4900mmで300mm短い。ホイールベースも3090mmに対し、2965mmとなっている。車重は同じリミテッドで比べると100kg軽い2070kg。パワーユニットはLが3.6リッターV6のところ、2リッターの直4ターボを搭載。ほかに、プラグインハイブリッドの4xeも設定される。
5代目グランドチェロキーは、内外装のデザインが進化したのが印象的。とくにフロントマスクは、1963年に登場した初の高級志向SUVというべき初代ワゴニアを思わせる逆スラントノーズを採用。力強さが感じられる面がまえだ。ボディサイドはシンプルな直線基調のデザインで、タフでありながらも上質感が漂う。
内装も上質だ。水平基調のダッシュボードパネルには、質感の高い素材が使われ、高級感を醸し出す。いよいよジープもプレミアムSUVとして文句ないクルマになってきたようだ。世界のどのメーカーもがSUVをつくる状況で、存在感のあるプレミアムモデルも多い。SUVの元祖ジープといえども、ゴツさ、タフさだけを売りものにしてはいられず、時代をキャッチアップしているのだろう。もちろんジープらしさは考えられていて、内装の素材選びや色などにこだわっている。ジープの故郷アメリカの雄大な景色に合うような雰囲気が、どこかにあるようだ。
洗練された滑らかな乗り味
先代モデルは、かつて同じグループだったメルセデスと共用するプラットフォームだったが、新たにステランティス・グループのアルファロメオなどと共用のものになった。グランドチェロキーの縦置エンジン4WD駆動系システムでは、フロントアクスルが通常はエンジン下を通るのに対し、オイルパンを貫通するレイアウトをとっている。エンジン搭載位置が下がって重心が低くなり、剛性向上や軽量化にも効果があるといい、走りの質感向上に貢献していそうだ。もちろん、ジープが譲ることのできないオフロード走破性についても、万全と思われる。
さて最初に乗ったのは、標準ボディのグランドチェロキー。直列4気筒搭載のリミテッドに試乗した。内外装から、ジープという言葉を裏切るような上質感を感じたが、走った印象はある意味それ以上だった。街中を走っただけではあるが、足さばきは洗練されている。ホテルの敷地内の荒い石畳路面を、なめらかに抜けていく。街中を走り出しても、スムーズで快適。横断歩道部分を盛り上げた段差でも、不快なショックなく乗り越える。
車体のサイズはさすがに大きく、全長4900mmに加えて全幅が1980mmあるので、狭い地下駐車場内などではとりまわしに気をつかう。とはいえその後、長いLでも問題なかったし、見きりがよいので、料金支払い口でも寄せやすい。
エンジンは、このクルマはV6だったかと思ったくらいで、なかなかスムーズ。ストレスなく回る。アメリカの大柄なクルマで豪快なV8でないのはやはり少し拍子抜けではあるが、このスムーズさは、その洗練された内外装や走りにふさわしいといえそう。スペックとしては272ps/400Nmあるが、車体が重いのもあり、それほどパワフルには感じない。とくに高級SUVでは法外な馬力を誇るクルマも多いから感覚がおかしくなるが、基本的に必要十分なパワーだ。
センターコンソールのシフトレバーは、ダイヤル式。高級感のあるデザインで、操作性も良好だ。MT操作はステアリングパドルで行い、パドルを1回操作するとMTモードに切り替わり、右側パドルを長押しして解除するまでは、ずっとキープし続ける。
ステアリングはなめらかな革巻きで、質感がよい。シートにもレザーが使われており、上質感がある。あんこが比較的硬めなのは、やはりタフなクルマとしての資質なのだろう。
高級SUVとして十分な実力。価格も良心的
次にグランドチェロキーLに乗った。全長は5mを超え、標準ボディよりもなお堂々とした佇まいだが、無用な威圧感はなく、シンプルな水平ラインがボディサイドに長く伸びて、スマートだ。試乗したのはやはりリミテッドなので、6人ではなく7人乗りだが、3列目シートは余裕があり、下位のコマンダーよりもリラックスして座れる。
走り出すと、距離を走った広報車で酷使されたせいもあるのか、意外にも、乗り味の洗練度は標準ボディほどではないと感じたが、大きな差ではない。Lでは高速も走った。完璧にスムーズではないが、高級SUVとして十分に上質な乗り味で、落ち着かない揺れや、硬くつっぱるような傾向も感じられない。操縦性は安定しており、長距離でも不満、不安なく走れそうだ。
エンジンは、今度はさっきと同じ直4かと思ってしまったが、V6である。ふつうにスムーズだ。出力は286psで4気筒を上回るが、トルクはノンターボのため344Nmで、4気筒を下回る。車重は100kg重い2170kgなので、パワー感はそれなりだが、やはり必要十分と感じる。SPORTモードを選べば、高回転を保って積極的に走ることもできる。
グランドチェロキーは、これがジープかと思うくらい、洗練されて上質だ。しかしジープらしい世界観は大事にされているようだ。すべてにおいてオーソドックスで、世界の名だたるブランドの高級SUVがひしめく中では、最大公約数的ともいえるが、それでも埋没することがないのは、SUVの元祖ブランド、ジープという重みがあるからなのだろう。SUVで、しかもアメリカ車なのに、趣味のよさが感じられ、価格も、世の高級SUVに比べれば良心的。高級車であっても、そこがジープのポイントなのかもしれない。(武田 隆)