過度な奇抜さは影を潜めつつも、スタイルや乗り味の独自性は健在
セダン、ステーションワゴン、SUVの強みを合わせた独創的なフラッグシップモデル――シトロエン自らがキャラクターをそう紹介する最新のモデル、『C5X』をテストドライブした。
本国では2021年の4月に初公開されたこのモデルは、日本ではこの10月からの発売予定。ちなみに、欧州では2種のガソリン・エンジンとプラグイン・ハイブリッド仕様が設定をされているが、日本ではこの内の高出力仕様のガソリン・エンジンを搭載するモデルと、プラグイン・ハイブリッド仕様という2タイプの導入が発表されている。
ブランドの前身が歯車メーカーであったことから生まれた、山型の歯車をモチーフとした”ダブルシェブロン”のエンブレムをフードに食い込ませるカタチで中央部に置き、そこから薄いグリルを左右に伸ばしてランニングライトに繋げながら、ヘッドライトは敢えて目立たせないというモチーフによる顔つきは、昨今のシトロエン車に共通する表現方法。一方、ボディ全体の造形はある種セダン風でもありワゴン風でもありSUV風でもあると、まさに”クロスオーバー”というフレーズがピタリと決まりそうな印象の仕上がりだ。
全長は4.8mを超え全幅も1.8m台の後半と実はなかなかに大柄でありながら、押し出し感は余り強くなくむしろ実際よりも引き締まって見えるあたりが、このモデルなりのデザインの妙ということになりそう。インテリアはモダンで合理的なデザインで、極幅広のステアリング・スポークに往年の一部モデルが採用していた1本スポーク・ステリアングの名残りが感じられたりもするものの、もはやシトロエン車といえど過度な奇抜さは影を潜めた印象だ。
特筆に値するほど上質という仕上がりではないものの、チープな感触は皆無。それでも、シートバックやドアトリムの刺繍ラインには前出”ダブルシェブロン”をモチーフとしたデザインが採用されるなど、遊び心を発見することも可能だ。
テストドライブできたのは純エンジン・モデル。8速ステップATとの組み合わせで搭載されるのは1.6リッターのターボ付き直噴4気筒エンジンだが、絶対的な加速力としては十二分。ただし、1.5トンを超える重量に対しては、ある程度ターボブーストが立ち上がってくれないなとちょっと力不足という感触はアリ。アイドリング・ストップ状態からの再始動時や変速時のショックに関しても、「フラッグシップを謳うモデルであればあと一歩洗練して欲しい」という印象を受けることになった。
”ダンパー・イン・ダンパー”ともいうべき構造を採用したダンパーを備えたサスペンションがもたらすフットワークのテイストは、往年のハイドロニューマチック・サスペンションを採用していたモデルとまでは行かないまでも、フラット感の高いふんわり優しい乗り味が持ち味。なかなか高い静粛性には、テスト車がサイド面にも複層構造の”ラミネーテッド・ガラス”を採用する上級グレードの『シャインパック』であったことも関係をしているかも知れない。
(河村 康彦)
(車両本体価格:484万円~636万円)