【スズキ・アルト試乗】気軽な存在だが、実はかなりの実力派

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「日常生活の足」という軽自動車本来の立ち位置にいるのが軽セダン。その代表がスズキ・アルトだ。1979年の初代発売以来、累計販売台数は526万台を数え、スズキを代表する看板車種として君臨し続けている。

このアルトが21年12月にフルモデルチェンジ。9代目となった新型アルトは、親しみやすいデザインに加え、低燃費を実現するマイルドハイブリッドを搭載したのが大きな特徴。最新の安全装備も採用し、ベーシックながら充実した内容を備えている。というわけで、今回はその実力をチェックしてみた。

9代目アルトはラパン寄り?実用的かつ優しいスタイルになった

室内空間の拡大で快適性が向上

まず新型アルトで嬉しいのは、室内空間が拡大されたこと。先代アルトに対して全高が50mm高くなり、室内高も45mm拡大。室内幅も25mm拡大している。実際に運転席に座って見ると頭上空間に余裕があり、それに前方視界の良さも加わって数値以上にゆとりを感じる。またフロントドアの開口高も20mm拡大されたことで、乗り降りもしやすくなった。アルトは短時間で乗り降りを繰り返すことが多いクルマだけに、そこでストレスを感じないことは大切だ。

室内空間はシンプルで機能本位といったところ。ただしエクステリアと共通する楕円形を採り入れたインパネや、デニム調のシート表皮を採用するなど細部は凝っていて、安っぽさは感じさせない。試乗車はナビがまだ未装着だったので、その使い勝手や視認性、見た目などが確認できなかったのは残念だが、少なくともインテリアの質感でがっかりすることはないだろう。

インパネ周りはシンプルだが、安っぽさはない。

シートは前席がバックレスト一体型、後席が一体可倒式。シートはソフトだが厚みが薄いタイプで、座り心地そのものは悪くないが、どちらかといえば短距離向き。この辺りは長距離ドライブも視野に入れるスーパーハイトワゴンとの差が出る部分だが、短時間で乗ったり降りたりするアルトの使い方を考えると、こちらで十分といえるだろう。後席の足元空間も広く、使い勝手という面では不満はない。

シート表皮はデニム風で、手触りも良好
後席は一体可倒式。ワンタッチで倒し広い荷室空間としても使える

街中を走るのに最適なマイルドハイブリッド

搭載するパワーユニットはマイルドハイブリッドと通常のガソリンの2種類。今回試乗したマイルドハイブリッド車はR06D型エンジン+WA04C型モーターの組み合わせで、これはワゴンRやワゴンRスマイル、ハスラーのマイルドハイブリッド車と同じ。従ってパワーユニットの出力も49ps+モーター2.6psで同値となる。

しかし、重量がかさむスライドドアを装備したワゴンRスマイルをスムーズに走らせるパワーユニットと、軽量なボディの組み合わせだから、新型アルトの走りは軽快。ちなみに同パワーユニットを搭載する車種と比べると、新型アルトはワゴンRスマイルより150kg、ハスラーより110kg、ワゴンRより60kgも軽い。大人1人~2人分も重量が違うのだから、パワーに余裕があるのも当然といえるだろう。もちろんターボのような力強さはないが、モーターのアシストで発進時からスムーズに必要なパワーが出てくるので、街中をキビキビと走行することが可能だ。ターボのようなタイムラグがないのも気持ちよい。トランスミッションも全車CVTとなったので、先代アルトのAGS車のようにアクセルの踏み加減に気を使う必要がなくなったのもポイントといえる。

一方で、走行時の静粛性は少し割り切ったところだ。風切音やロードノイズはかなり抑え込まれていて気にならないが、アクセルを踏み込んだ際のエンジン音は大き目。この辺りはファミリーカー的な使い方も視野に入れ、遮音材をふんだんに使っているスペーシアやハスラーとの大きな違いといえるだろう。もちろんアルトでも、より静粛性を高めることは技術的には可能だけれど、それにはコストも掛かる。そもそもアルトは家族みんなで長距離ドライブを楽しむ、という性格の車ではないし、安価なこともアルトに課せられた命題だから、必要以上に静粛性を追求する必要はない。決して静かなクルマとは言えないけれど、十分許容範囲だ。

乗り心地はこのクラスとしては良好で、大き目の段差もスムーズにいなす。剛性の高いしっかりとしたボディに、滑らかな足回りの組み合わせで適度にマイルドな乗り心地だ。スタビライザーを装着していないこともありロールはそれなりに出るが、その出方が自然なので運転しやすい。街中を走るのに最適な足回りといえるだろう。

ステアリングは全体に軽め。特にセンター付近は遊びが大きく取られており、過敏に反応することもないので余計な気を使わず、ゆったりと運転することができる。ただコーナーでステアリングを回していくと、しっかりとした手応えとなり安心感が高い。全域でとにかく軽いというのではなく、正確な操舵感が欲しいところとそうでないところでメリハリがあるので、運転していて疲れにくいセッティングである。

乗り心地も不満はない。タウンユースに最適だ

ベーシックカーとして満足できる

N-BOXやスペーシアなど人気のスーパーハイトを筆頭に、今ではファーストカー、ファミリーカーとしても十分な実力や装備を持つ軽自動車が多い。がしかし、その代わりに価格は上昇。200万円オーバーも当たり前という状況で、必ずしも「軽自動車=手軽」とは言えないのが実情だ。

だが、通勤・通学や近所への買い物がメインとなるなら、そこまで高級(?)な軽自動車はオーバースペックといえるだろう。新型アルトはそこにポイントを絞り、本当に必要とされる資質を突き詰めたモデルといえる。結果として高い実力と手頃な価格を両立しており、ベーシックカーとして満足できる内容だ。本当の意味で「日常の足」を求めるユーザーにオススメしたいモデルである。(鞍智誉章)

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