スズキ・初代ジムニー試乗記 【アーカイブ】

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ハスラー、タフト、ヤリスクロス、ロッキー/ライズ等々、軽自動車も含めてコンパクトSUVが人気を集めている。扱いやすく経済的なボディサイズであることに加え、悪路走破性の高さをイメージさせるスタイルもその人気の理由といえそうだ。

そんなコンパクトSUVの中で、孤高の存在といえるのがジムニーだろう。頑丈なラダーフレームにパートタイム式4WDを組み合わせ、小型ながら本格クロカン4WDとしてその悪路走破性は本物だ。4代目となる現行モデルが登場したのは18年だが、未だに人気は変わらず、納期は約1年と他の軽自動車では考えられないほどである。

さて、そんなジムニーの初代モデルが登場したのは1970年。今から半世紀も前のことになる。今回はその初代モデルの試乗記を紹介しよう。

 

週刊Car&レジャー 1970年(昭和45年)5月31日掲載
スズキ・ジムニー試乗記

 


・軽とは思えぬ実力

正直なところ、試乗前に抱いていた軽視は吹き飛んでしまい、360ccとはいえ、砂浜、山中での四輪駆動車の実力には、すっかり脱帽させられてしまった。

スズキ・ジムニー。空冷、リードバルブを採用した2ストローク2気筒の359ccエンジンはスズキ・キャリイ用を改良したもので、25ps/6000回転、最大トルク3.4kgm/5000回転のパワーをもっている。

スタイルはミニ・ジープとでもいうべきタイプで、エンジンをかけるまでは、とても軽自動車とは思えない、なかなかカッコいいデザインだ。運転席は120キロまで刻んだスピードメーターと、フューエルメーター、オイル計、チャージランプのコンビネーションメーターの二つのみで、実にあっさりしており、プロテクトバーをはめると、短いトランスファ(副変速機)、長い四速フルシンクロのシフトレバーがジープに乗っているという感を満足させてくれる。

もっとも、これもエンジンをかけると、軽特有のバタバタがはじまり、いささかガックリとする。

最高速度は75km/h。トランスファを後輪駆動の普通走行にシフトして走ると、楽々と65km/hから70km/hは出せるし、60km/hなら、エンジンも軽々とした音だ。ジープ・タイプなので、乗用車なみに飛ばせるものではないし、オープン・タイプなので、のんびりと走る手だ。

浜松市郊外の米津浜に乗り入れ、ここから中田島砂丘にかけて砂丘を乗り越え、かけ登り、はせ降りて、大いに飛ばす。砂丘の入口で追い越していった乗用車がストップし、歩いていくのを尻目に、トランスファを四輪駆動のLにシフトし、悠々と砂浜に乗り入れる。羨ましそうな顔を見ると、途端に優越感が胸にあふれ、思わず顔もほころんでしまう。

ジムニーのトランスファはH・N・Lとあって、四輪駆動でも高速用と低速用の二段変速。ケースによって、どちらでも使えるようになっている。米津浜でも、平坦な砂地ではHにシフトしておくと、サードで概ね50km/h程度、Lにシフトすると35km/hから40km/hがいっぱい。

柔らかい砂地で急カーブをきって加速すると、ぐっと深く砂をえぐってターンするが、さすがにブリヂストンの6.00-16×6PRの16インチタイヤのグリップはよく、トレッドパターンは崩れもみせずに、刻印を押している。

海の中に吹き寄せられた砂洲の上でも、波しぶきをあげて、みごとに走り去る。車両重量は600キロもあるのだが、海中の砂にもぐっているタイヤは僅か1.5cmだけ。

砂丘の登りは、さすがにきつかった。登坂能力は27.5度と普通の軽乗用車の能力15度~17度を凌駕しているが、砂丘では砂の柔らかさによって相当な差が出てくる。砂が固ければLとローギアでしゃにむに登ってしまうが、柔らかいとタイヤのグリップ力が弱まり、アウト。しかし、大抵の砂浜は舗装道路と全く変わりない走りっぷりだ。

米津浜から汐見坂の鈴木自工オートランドのモトクロス場に入る。

赤土のラフ・ロードだ。オートバイがウナリをあげて必死にあがる長い急斜面がある。早速、挑戦だ。四輪駆動をLにシフトし、ミッションをローにシフト。それっと掛け声をかけて一気に駆け上がる。

角度にして30度近い斜面。恐らくジムニーの登坂能力ぎりぎりのところではなかったか。25馬力という低馬力?にもかかわらず、パワー的には余力がある。アクセルは踏み込み加減だが、フルには踏んでいない。

これに自信を得て、モトクロス場をぐるぐるまわる。急な降り斜面も、登りも平気なものだ。凹凸の激しいところでは、左足で床を押さえ、ステアリング・ハンドルの両手で身体を支え、腰をシートから浮かすと、振動も激しくなく乗り切れる。このへんはオートバイの要領でよい。ジムニーには初めて乗ったが、要領が分かると楽なものだ。

ずぶりとタイヤがもぐり込む泥濘地でも。四輪駆動の強みはますます発揮される。市街地では冴えないが、砂浜やオフロードとなると、水を得た魚のように、クルマ自身が生き生きとしてくる感じをはっきりと受け取れるから不思議だ。

ロードクリアランスは235mm。かなりの凸地でも楽々と乗り越える。ジーピングの面白さは未踏の荒地にワダチのあとをつけること。奥日光・戦場ヶ原、信州・八ヶ岳麓などには、ジーピングに適したところが多い。このあたりは、乗用車では入った途端に、タイヤをとられてしまう。ジープならではのオフロードだ。

軽自動車唯一の四輪駆動車だが、オフロードには抜群に強い。若者向きのジーピングが楽しめる唯一の車ともいえよう。軽のジープ・タイプなんて…と、試乗する前まではいささか馬鹿にしていたが、試乗を終えたあとは、ウーン、こいつはイカスぜ、とすっかりイメージが変わってしまったことは否めない事実だった。

試乗したD君も「日本がアメリカに負けたのも当然だね」。

 

発売当初の広告。「男の相棒」「自然に挑戦する男のくるま」とワイルドすぎる超硬派なコピーが連発。今なら女性ユーザーに怒られそうだ

<解説>

初代ジムニーが登場した当時はアウトドアレジャーが盛んになった時期でもあるが、それまで4WD車といえばトヨタ・ランドクルーザー、日産・パトロール、三菱・ジープといった大型モデルのみであり、四輪駆動車への憧れはあっても、価格的にもサイズ的にも庶民には敷居が高い存在であった。このため手頃な価格で購入できるジムニーは、発売と同時に注目を集めることとなった。

試乗では砂浜や砂丘、オフロードコースを走破。360ccのエンジンは非力ではあったが、軽量なボディを活かし、予想以上の走破性を見せていたことが試乗記からは伝わってくる。舗装路での走りも、この種の車としては許容範囲として評価されている。

発売時は空冷エンジンと幌タイプのみであったが、2年後には水冷エンジンに変更し、バンタイプも追加。これにより雪国でも活用が可能になり作業車としても実用性が向上、さらに人気を高める結果となった。

 

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