東京工芸大学 杉並アニメーションミュージアム
五感を使ってアニメを知り、体験できる場所
エレベーターの扉が開くと、取材者が小学生の頃、毎週腹を抱えて笑ったテレビアニメの“あのキャラクター”の等身大(?)フィギュアがお出迎え。取材=仕事だけれども、久しぶりに会えた“あのキャラクター”に思わず頬が緩んでしまう。さぁ仕事モードに切り替えて……。
ファンなら周知のことだが、東京都杉並区はアニメのまちなのである。全国に622社あるといわれる日本のアニメ制作会社のうち、実に138社が杉並区内にあるという(2016年、一般社団法人日本動画協会調べ)。もちろん、この数字は全国の市区町村別では最多。そのアニメのまちに2005年、開設されたのが「東京工芸大学 杉並アニメーションミュージアム」だ。
ここでは、日本のアニメの歴史(誕生は古く大正初期の1917年から現代まで)にはじまり、フィルムが誕生する前からあったアニメの原理や、セル画からデジタルのデータへと変わったアニメ制作過程の紹介とその一部の体験、さらに、これからの日本のアニメへの提言など、日本のアニメーションをあらゆる角度から知ることができる。また、年に3~4回一つの作品やテーマを深く掘り下げ、制作に関する資料等を展示する企画展も開催されるほか、150インチのスクリーンと5.1chサラウンドシステムを持つシアターでの作品上映、豊富な映像や書籍等資料を有するライブラリーもある。
まず、訪れたなら受付カウンターの背後にある太い円柱にも注目。ここを訪れたクリエーターの皆さんの直筆サインが所狭しと並んでいる。お気に入りのクリエーターのサイン(中にはキャラクターも)があるかもしれない。
その背後に広がるのは、日本におけるアニメーションの歴史。冒頭でも触れたとおり始まりは大正初期と古い。映画(無声映画~トーキー映画)を経て1953年の国内テレビ放映開始以降は、1963年の「鉄腕アトム」をはじまりとした1話=30分の“テレビアニメ”として数多くの作品が誕生した。テレビアニメ黎明期を直接体験した世代には、大いに懐かしさを感じられるはず。その後、アニメ制作の勢いは2000年代以降にさらに加速、このコーナーでは表示しきれないほど。近年の歴史はタブレット端末で知ることができる。
歴史コーナーと並ぶようにある3卓のデスクは、アニメ制作現場を再現したもの。監督、作画監督、美術監督というアニメ制作の中核を担う人のデスク(2005年頃)という。ペンと紙に囲まれた監督、作画監督に対し、美術監督のデスクにはパソコン用モニターとキーボードが置かれ幾分すっきりとした感じ。すでにこの頃から美術監督職はデジタルに移行しつつあったことが伺える。
声優からアニメーターまで、アニメができる過程を体験
そして、様々な体験コーナーも用意されている。その中人気コーナーの一つがアフレコ(声優)体験。タッチパネルで言語、作品を選び、サンプルのムービーが流れ自分の声を録音することができる(録音データはここで聞くだけ)。
もう一つがアニメーターの体験。現在主流となっているデジタル制作の一端を体験できるほか、従来の手法だったアナログ制作も体験できる。デジタルのアニメはパソコンを使ってサンプルの絵を選び、輪郭の中を塗り分ける。細かいところは拡大して塗る。そして、背景を選び、自分が色を付けたキャラクターが動き出す…というもの。
一方、アナログのアニメはトレース台の上に紙を置いて作業する。アニメの基本は1枚を描いて少しずつずらし2枚めを描く。重ねて絵を透かすことが基本。何枚か描くと動きが生まれる。完成した“パラパラ漫画”を1枚ずつ撮影し、つなげたものを再生することもできる。
ここで作れるのはわずか数秒の作品だが、日頃何気なく見ている30分もののテレビアニメ、あるいは上映1時間を超すアニメ映画ともなると、その作業は相当膨大な量になるはず。多くの人の手を経て作り上げられたアニメの見方も少し変わってくるはずだ。