【アーカイブ】トヨタ・初代エスティマ試乗記(週刊Car&レジャー・1990年6月掲載)

週刊Car&レジャー アーカイブ

個性的なスタイルで人気を集めたトヨタ・エスティマだが、ついに今年10月で生産を終えることとなった。背の高いミニバンが主流となる中で、その独特のフォルムは他にない魅力を放っていただけに残念なところである。そこで今回は1990年に登場した初代エスティマの試乗記を紹介しよう。

 

<週刊Car&レジャー 平成2年6月30日発行号掲載>
トヨタ エスティマ試乗記

アメリカで人気急上昇中のエスティマが、日本でも発売された。今までの1BOXスタイルとはちょっと違ったそれが目を引く。フラットなボックスシャシーに、タマゴを載せたようなシンプルでしかも明快なイメージをアピールしている。全長が4750mm、全幅1800mmのボディサイズから見ても、小型車枠を超えた伸びやかなフォルムを生み出しているのだ。

一歩キャビンに入ると、大きなボディから生み出されたその広さに驚かされる。2,2,3のシート配列で、各シートとも余裕が感じられる。フラットな床が今までにないほどの、快適さをもたらしている。“ニューコンセプトサルーン”と名付けられているが、これらの余裕と快適さはサルーンの名にふさわしい。。そして、とても使いやすいという点からも好感がもてる。おまけに、セカンドシートが回転式なので、いろんな使い方ができる親切設計なのだ。

さて、このフラットな床が実現したのはエンジンレイアウトのおかげ。エンジン本体を75度傾斜させてマウントさせたからだ。オルタネーターなどの補機類はフロントノーズに配置してドライブシャフトで駆動させるという画期的なシステム。このおかげでフラットな床はもちろんのこと、前後の理想的な重量配分が完成されたのだ。

エンジンは新開発の直列4気筒2438ccのハイメカツインカム。トヨタの他のハイメカツインカムと同様に、トルクがフラットで、特に中・低速域がとても使いやすいエンジン。ECTとのマッチングがとてもよく感じられた。車重が1730~1820kgもあるのに、重さを感じさせない力強さがあり、加速性能もまずまず。ただ、若干疑問が残るのは、4人とか6人で乗った場合どうなのかという点だけ。

静粛性に関しては、エンジンがフロント(助手席)シートの下にマウントされているから、かなりエンジン音が気になるかもしれない。普通の1BOX車とそう差はないように感じられた点は残念だ。だが、セカンドシートに乗ってみると、そこは静かなキャビンが確保されているのには驚いた。

ところで、サスペンションもフラットな床を実現するために、いろいろと工夫されている。乗り心地はソフトで乗り心地重視のサスセッティングなのだが、意外とコーナーなどでは踏ん張りをみせてくれる。アイポイントが高いためにロールは大きく感じるが、重心が低いためにすんなりとコーナーをクリアする。ボディ剛性が高いということもあるが、意外なほどコーナリング性能は高いようだ。ステアリングの応答性もなかなかいい。それに、大きなボディながら、それを感じさせない取り回しのよさには感心。

エスティマは、広くて快適なキャビン、使いやすいエンジンなどをうまくマッチングさせた全く新しいクルマだ。

 

登場時のキャッチコピーは「突然、エスティマ」。 有名な「TOYOTAの天才タマゴ」は後期型から

 

<解説>
初代エスティマが発売されたのは90年だが、先行してまず北米でデビューし、続いて5月に国内でデビューした。記事の冒頭で触れているのはそのことで、トヨタとしては日米両市場で売りたかったことがわかる。ちなみに当時の国内ではまだ「ミニバン」という言葉はなく、「新世代マルチサルーン」としてアピールしている。

試乗記ではまずフラットな床が高く評価されている。当時の1BOXはタウンエースも日産バネットコーチ(セレナの前身)も駆動方式がFR(後輪駆動)で床の中央にはフロアトンネルがあったから、エスティマのフロアは新鮮に映った。またそれらに比べて低い重心高も、運動性能の高さにつながっていると評価されている。

一方で、エンジンのパワーについては、デビュー当初からやや物足らなかったようだ。記事では多人数乗車時は疑問としているが、要するにパワーに余裕が感じられなかったのだろう。これを解消するために後にスーパーチャージャーが装備されることになるのだが、今度は燃費の悪化に苦しむこととなった。

さて注目を集めて登場した初代エスティマだったが、当時の国内市場ではボディサイズが大きすぎ、販売は苦戦。特に全幅1800mmは持て余す大きさだった。このためボディを短縮して5ナンバーサイズに収めた「エスティマエミーナ」、「エスティマルシーダ」を販売し、こちらはヒットモデルとなった。なお北米では非力さで敬遠され、こちらも苦戦。結局、北米では1代限りで終了している。

国内では20000年に2代目にフルモデルチェンジ。通常のFF駆動となり、初代エスティマの特徴であったミッドシップレイアウトは失われたが、商業的には大成功となった。2000年には国内販売台数で第3位という大ヒットになり、初代の雪辱を果たした。

Tagged