年中暑い常夏国のことは知らないが、現在は少なくとも寒暖ある国の自動車ならヒーターの装備当たり前の時代になった。
近頃ではエアコンだって付いていて当たり前である。
が、昭和20年代にはヒーターのない車が売られていた。輸入車ならともかく、日本製なら無いのが当たり前で、昭和30年代に入ると、ヒーター標準装備と表示する車が出てきた。(トップ写真、.初代スカイラインに装備されていた暖房装置。標準かオプションかは不明)
もっともWWⅡ以前の金満家御用達時代の車にはヒーターが付いていた。昭和時代の古いビルや学校の部屋の隅に蛇がとぐろを巻いたようなラジェーターを覚えているだろうか。銀色の管状の中に蒸気が通り、冬など弁当を載せておけば昼には温かかった。
それと原理は同じ、後席下足元のフィン付きの銀色の管の中に、エンジンからの温水が通る仕掛けになっていた。
さて昭和20年敗戦後、進駐軍兵士が持ち込んだシボレーやフォードなどの大衆車、欧州車の廉価版には暖房無く、もちろん国産のダットサンやトヨペット、オータなどに暖房装置など皆無と云って良かった。
敗戦貧乏時代はそれで良かったが、昭和30年代に入り質実剛健のパブリカが読みを誤ったように、国民に贅沢願望が目を覚ますと「この寒さ何とかならないか」とは当然の成り行きだった。
で、輸入新車また国産高級車には標準装備されるようになる。が、相変わらず廉価乗用車、もちろんバスやトラックは無装備。そんなころ、直接持ち込まれた暖房無しの廉価版ベンツのダッシュボード下に変わった丸い装置が付いているのを見つけた。
それはボッシュ製の後付け暖房装置で、気をつけてみると、欧州車、特にドイツ製廉価車に時々見られた。
昭和時代の韓国、現在の中国と同じように、当時の日本も、良い物、売れる物があれば、あっという間にコピーが生まれる。
で、沢山のボッシュそっくりな装置が用品市場に出回るようになる。もっとも、デンソーやヂーゼル機器などは大企業だからライセンス生産だったのかも知れない。
この丸形ヒーターは、あっという間に普及するが、デンソーのカタログでも判るように多種タイプが生産されて、乗用車ばかりか、バスやトラックなどにも普及していった。
やがて、国産化されたルノー・ヒルマン・オースチン、またブルーバード、コロナなど人気車種には専用キットも登場する。
その頃になると、クラウンやセドリックなどの国産高級車では、暖房標準装備と自慢するようになる。
昭和40年代に入ると、標準装備車が増えて、後付け暖房装置は消えていくが、次ぎに来たのが後付け冷房装置だった。
大型車用はトランクに装置を積むトランク型、小型車には助手席ダッシュボード下のアンダーダッシュ型の二種があった。
劇的進化を遂げた昭和時代が終わる頃には、軽自動車でさえ標準装備になって、車のユーザーは買っても走っても、嬉しくもなく感謝することもない時代になった。これが良いことか寂しいことか、とにかく車は単なる運搬用具で、親しい友でなくなったことは確かである。