【車屋四六】NSUプリンツ

コラム・特集 車屋四六

今回は、ドイツの美しいクーペ、NSUプリンツ…撮影したのは晴海の東京国際貿易センター常設展示場前で、足場が見えるから開場寸前だったのかもしれない。多分59年頃だろう。

車には港区の仮ナンバーが。当時の輸入元・中央モータースが東京都港区車町一番地だから、仮ナンで新車だということが判る。
仮ナンで試乗など、今なら大目玉だが、当時は全ていい加減で、ディーラーナンバーでの試乗も度々だった。

ヨーロッパでも老舗のNSUの出発は二輪で、34万3000台を生産した56年頃は世界最大の二輪メーカーだった。そして四輪生産も再開して、58年に登場したのがプリンツだった。

えらく姿が良いと感心したのも道理、カロッツェリア・ベルトーネの作だった。誕生時583ccは62年に598ccへと強化、65年には斬新なディスクブレーキを前輪に装備する。

プリンツの後姿:ベルトーネ工房作だけに美しい

混乱した戦後経済も落ち着きを取り戻し、プリンツはスポーツカーファンや裕福層のセカンドカー、また女性に人気があり、68年に消えるまでに2万831台を生産した。
ちなみに69年になると、NSU社はアウディとの合併で、アウディNSUアウトウニオンAG社になる。

NSUはバンケルエンジン/日本名ロータリーエンジンの実用化に成功してことで知られ、その1ローター1497ccをプリンツに搭載、63~67年にかけバンケルスパイダーの名で発売している。

ちなみに583ccといえば欧州では軽自動車=バブルカーだが、戦勝国敗戦国共に欧州再興経済の中、まだ元気に活躍していた時代で、BMW700、DKWウニオール740cc、ロイト590cc、ゴッゴモービル584cc、オースチンセブン848cc、フォードアングリア997cc、トライアンフヘラルド948cc、フィアット600、モレッティ750cc、パナール851cc、ルノー4CV、サーブ960ccなどが活躍していた。

プリンツにRE搭載のNSUバンケルスパイダー:独逸ランゲンブルグ自動車博物館で

さてプリンツは、全長3560㎜全幅1540㎜全高1220㎜、WB2000㎜。車重556kg。RR型式・直二OHC583cc30馬力・4MT・四輪コイル独立懸架・タイヤ440-12・最高速度120㎞・燃費25km/ℓ。
私が試乗した実用燃費は15km/ℓほどで、満タン25ℓで名古屋辺りまで行くことが出来た。

余談になるが、私がホンダS600でヒルクライムやジムカーナを走っていた頃、ライバルはSCCJ会員のプリンツ、そして環境庁長官になる中村正三郎のMG―TDと競い合ったのを想い出す。

1892年/明治25年以来からのNSUのエンブレムは、ドイツのネッカー河のほとり、ネッカースウルムで創業にちなんで生まれたものだが、20世紀末この工場はアウディの高級モデルの生産拠点として活動していた。