2001年に日本に初参入した際の乗用車事業からは、わずかに8年ほどで撤退。しかし、その際に得た知見などを生かしつつ、今度は取り扱いモデルを多くの日本車とバッティングしないピュアEVと燃料電池車に絞り、販売方法もディーラーネットワークを構築しないオンラインでの取り扱いに限定。大胆で興味深い取り組みを見せるのが、かつてのヒュンダイから「ヒョンデ」へと呼称をグローバルで統一化しつつ、2022年に再参入を果たしたこのブランド。今回取り上げる「コナ」は、すでに発売済みの「アイオニック5」に次ぐ2台目のピュアEVとなる。
全長×全幅が4355×1825mmというSUV型ボディのサイズは、見た目以上に大柄なアイオニック5に対して明確に小さく、2660mmというホイールベースも340mmも短い。2WD仕様のみだがアイオニック5と異なりその駆動輪が前輪なのは、仕向け地によっては純エンジン仕様やハイブリッド仕様も設定しながら、室内にプロペラシャフトを通すトンネルの張り出しを設けず、フラットフロアのデザインを成立させたい事によるためと推測が出来る。
日本仕様を突き詰めた高水準のローカライズ
乗り込むとSUVらしくアイポイントがやや高めな一方で、EVにありがちなヒール段差(フロアから着座点までの高低差)が不自然に小さいという印象が皆無なのは、フロント部分を薄くした独特な形状のバッテリーパックを採用したメリットと考えられる部分。
ウインカーレバーは右側に移設されディスプレイ内の表示も完全な日本語対応。さらに、搭載される取扱説明書も日本車のそれに遜色のない完璧さである上、実はドライブモードも日本の走行環境に合わせて専用のチューニングが図られるなど、既存の様々な輸入車と比べてもそのローカライズの水準は特筆のレベルにある。
前出ドライブモードのセレクターがセンターパネル下部にダイヤル式で配されるなど、昨今のEVの中にあってはダッシュボード周りの物理スイッチ数が多めとも感じられるが、スイッチ数の削減に奔走したと思える一部ライバル車がまずは説明を受けてからでないと各種装備の扱いに大いに難儀するのに比べると、何の“予習”をしなくても大半の機能を問題なく使えるこのモデルは何とも扱いやすく、例えばレンタカーとして採用される際の親和性なども高そう。
加えて、ウインカーを出すとその後方側方の映像がメーターに割り込み表示され、トンネルに進入すると空調が自動で内気循環に切り替わるなど、いかにも「走行実験を重ねながら作り込んだ」と思わせる“真のおもてなし”が実感出来るユーザーインターフェースの秀逸さには驚かされることとなった。
コストパフォーマンスの高いコンパクトピュアEV
加速感はピュアEVらしく静かで滑らかで、絶対的な加速の能力も実用上十二分。ただし、フル加速シーンではわずかにトルクステアが現れるなど操舵感がやや滑らかさを失ってしまうのは、前輪駆動とせざるを得なかったウイークポイントかも知れない。
また、高速クルージング時のフラット感はまずまずである一方、街乗りシーンで荒れた路面に差し掛かるとタイヤ踏面が突っ張り気味という印象で乗り味が硬めなのは、今回のテスト車が235/45R19サイズのタイヤを履く「ラウンジ」グレードだった影響も大きそう。街乗りシーンでの快適性を重視するならば215/60R17を履く「カジュアル」もしくは「ボヤージュ」グレードが有利だろう。
その他、装備の充実度や航続距離などを勘案すればするほどに、内外に数ある現行ピュアEVの中でもコストパフォーマンスの高さが光るのがこのモデルと言えそうだ。
(河村 康彦)
(車両本体価格:399万3000円〜489万5000円)