その年に日本で発売されたクルマの中から最も優秀な1台を選ぶのが日本カー・オブ・ザ・イヤー(COTY)だ。その中で昨年、輸入車の中で最も高く評価され「インポート・カー・オブ・ザ・イヤー」を受賞したのが、韓国から再上陸を果たしたヒョンデのEV・IONIQ5(アイオニック5)である。
選考結果について何かと言われることも少なくないCOTYだが、アイオニック5に乗ってみると、「これは受賞するのも無理がないな」というのが正直な感想だ。ストレスのまったくない加速、上質で快適な室内空間、充実した安全・快適装備、街中でも滑らかな乗り心地、とどの部分にも不満がない。それが例えば1000万円を超えるプレミアムカーならまだしも、400万円台からという手頃なプライスなのだから文句のつけようがない。EVということに加えてオンライン販売のみ、さらに馴染みのない韓国車だけに、日本市場で最初から爆発的に売れるとは思わないが、フラットな立場で競合することになるグローバル市場では、国産EVはかなり苦戦するのは間違いないだろう。手強過ぎる相手である。
ボディサイズは全長4635×全幅1890×全高1645mm。BYD・ATTO3よりも一回り大きく、日産アリア、トヨタ・bZ4Xに近いサイズ。リヤにモーターを搭載する2WD(RR)と、前後にモーターを搭載するAWDが用意され、またバッテリー容量は58kWhと72.6kWhが選択できる。58kWh仕様の航続距離は498km、72.6kWh仕様は618km(AWDは577km)となっており、今回は短時間の試乗のため正確にはわからなかったが、カタログスペックで見る限り電費性能も優秀だ。
室内空間は、後席も含めてスペースが広い。インパネ上には12.3インチの横長ディスプレイが配置されており、整然とした雰囲気。シフトレバーはステアリング右側にあり、インパネのセンター周りがスッキリとして広さを感じさせるとともに、運転席から助手席に移動して降りることができるなど実用的でもある。なおシフトレバーのステアリング横配置はメルセデスも同様だが、シフトの選択はレバーを上下させるメルセデスに対して、アイオニック5はスイッチを回す方式で誤操作しにい。
またウインカーとワイパーのレバーは、日本車と同じ配置(右ウインカー、左ワイパー)にローカライズされており、国産車からスムーズに乗り換えることが出来る。このレバー配置のローカライズはBYD・ATTO3も同じで、欧州メーカーとの違いを感じるところだ。
実際にドライブしてみると、発進から高速域まで淀みなく直線的に加速し、EVならではの爽快な走りが楽しめる。加速感をややマイルドに抑えたATTO3やトヨタbZ4Xよりも、体感的には日産アリアに近い印象だが、室内の静寂性や乗り心地の滑らかさはアリアをさらに上回っているようにも感じられた。
運転支援・安全装備も充実しているが、中でも感心したのは、ウインカー操作と同時に死角になる右または左斜め後方の映像がディスプレイ内に表示される「ブラインドスポットビューモニター」。テスラ・モデル3にも同様の機能が搭載されているが、インパネ中央のディスプレイに表示されるモデル3と違い、アイオニック5はドライバー正面のメーターディスプレイ内に映像がされるのでより分かりやすい。画像も鮮明なので巻き込み防止に役立つ機能である。EVに限らず最近のクルマは液晶ディスプレイの使い方が一つの大きなテーマとなっているが、これは液晶ディスプレイならではの機能を最大限に活かしたものといえるだろう。全車に標準装備というのもうれしいポイントである。(鞍智誉章)