【河村康彦 試乗チェック】メルセデス・ベンツ・EQS 450+ EVのフラッグシップを新定義

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極めて高い静粛性とフラットな乗り味、大容量バッテリーゆえ充電に苦心しそう

”EQ”の記号が与えられるメルセデス・ベンツのピュアEV。その頂点に立つ『EQS』をテストドライブした。

全長が5mを超え全幅も1.9mをオーバーという堂々たるサイズから「SクラスのEV版」と紹介されることもあるこのモデルだが、実はそのボディは後部に大型のテールゲートを備えた5ドア・ハッチバックの形態だ。

堂々のサイズと空気抵抗を徹底低減させた滑らかなボディ
トランクではなくテールゲートを持つハッチバックタイプ

一方、ほぼ同等のサイズを持つSクラス・セダンと比べると、3210㎜というホイールベースの値が10㎝以上も長いことは大きな特徴。フロアに駆動用バッテリーを敷き詰めるEVの場合、ホイールベースの長短は、すなわち搭載できるバッテリーの量に直結。すなわち、かくもホイールベースの長いプロポーションは「EVならではの姿」と言うこともできそうだ。

ホイールベースの長さに注目。室内の広さと多量のバッテリーを搭載可能であることを示す

ボディ後端部のデッキ部分を無くしたいわゆる”1モーション”のルーフラインや、前述したハッチバック方式の採用に関しては、既存のSクラスとの共通性を意図的に廃した結果とも受け取れるもの。ピュアEVという特徴は持つものの、このモデルは「SクラスのEV版」を模索したものではなく、むしろ「新たなる価値観によるフラッグシップとして開発されたのがEQS」なのだろうと、個人的にはそのような印象を受けることになった。

今回の試乗モデル

最高245kW≒333PSを発するモーターで後輪を駆動する『450+』と、同じく174kW≒237PSを発するモーターで前輪、310kW≒421PSを発するモーターで後輪を駆動する、4輪駆動方式を備えた『AMG 53 4マティック+』の2タイプが設定されるEQSだが、今回テストを行ったのは前者。

インストルメントパネル全幅にわたるディスプレイを持つ(但しオプション)

乗り込むと左右幅全面に広がるディスプレイに目を奪われるが、圧倒的な先進性を印象づけるこのアイテムは、実は”デジタルインテリアパッケージ”と名付けられた100万円を超えるオプション。物理スイッチの類は徹底して排除されているが、基本的な装備の操作法は既存モデルのそれを受け継いでいるので、メルセデス・ベンツに慣れた人ならば、「何がなんだか分からない」という事にはならずに済みそうだ。

物理スイッチが極力少ないがメルセデス・ベンツに慣れた方は戸惑うこともなさそう
大容量バッテリーにより長い航続距離を実現

当然静粛性は極めて高いものの、それはフラッグシップだからというよりも「ピュアEVゆえの特徴」という印象。ただし、速度が高まった際の風切り音の小ささは特筆レベル。わずかに0.20という驚愕のCd値は伊達ではなさそうだ。加速力は十二分だが、”爆速”と驚くほどではないのは、先に紹介のようにバリエーション中に別途AMGモデルを用意しているからでもあるだろう。

フラット感の高い乗り味はいかにもメルセデス・ベンツらしいが、路面によって時にばね下の重さを意識させられることがあったのは、恐らくは実利面だけではなく見た目の逞しさも意識して21インチというサイズになったのであろう巨大なシューズによる弊害か。

ホイールは21インチ!

大容量のバッテリーを搭載するという”力技”を用いて700㎞という長い航続距離を謳う一方で、それにかまけて走ってしまうと大出力充電器のインフラが乏しい日本では、充電量を回復させるのがなかなかに大変。テスラが好評を博しているのは、このあたりの整備を自前で充実させていることが大きな理由のひとつに違いないし、最近ではポルシェ/アウディ/フォルクスワーゲンの連合軍が、やはりアライアンスを活用して自前で整備することを発表して話題になったもの。

一方、メルセデス・ベンツやBMWで同様の話題が聞こえないのは大いに残念。大容量バッテリー搭載のピュアEVは、自宅に充電設備があり、かつ大出力充電器のインフラ整備が進まない限りなかなかお勧めができそうにない存在だ。

(河村 康彦)

(車両本体価格:1570万円)

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