「良いモノ感」に特筆すべき快速性も上乗せ
ホットハッチという名で紹介されるカテゴリーが、本来は合理性優先でデザインされたハッチバック・ボディの持ち主に”必要以上”に強力な心臓を搭載し、足回りにも専用のチューニングを施してスポーツカー並の運動性能を持たせたモデルたち。
これもまさにそんな1台! と紹介できるのが、8年ぶりのフルチェンジが行われ日本では5月に発売されたアウディ S3である。
もっとも、A3シリーズの頂点に立つというエクスクルーシブを際立たせる目論見もあってか従来同様に名称も独立したこのモデルには、こちらも従来と同様に4ドア・セダンも展開される。
とはいえ、主流となるのはもちろん前者。テストドライブも、アウディが”スポーツバック”と紹介をするこちらで行っている。
ベースはもちろんA3でサイズもそれに準じるが、そこは”見せ方”の上手いアウディのこと。専用デザインのボディキットなどで「S3ならでは」というスポーティさを強調。加えて、取材車が本来はオプション設定される様々なアイテムを標準装備化した、発売を記念する『ファーストエディション』だったこともあり、内外装に漂う”特別仕立て感”はすこぶる高いものだった。
7速DCTとの組み合わせで搭載する心臓は、ターボ付き直噴4気筒ユニット。310PSという最高出力は、同じ2リッターの排気量でもA3用に比べて120PSもの上乗せ。最大トルク値も320Nmに対して400Nmだから、これで遅いはずがない。
実際、4WDシステムの採用などもあって1560㎏と見た目ほど軽くはない重量にも拘わらず、威勢の良い加速には驚くほど。前述のように、本来であればオプションの電子制御式可変減衰力ダンパー”ダンピングコントロールサスペンション”を標準採用することもあり、こちらも本来より大きな19インチのシューズを専用のスポーツサスペンションに組み合わせるにも関わらず、思いのほかジェントルな乗り味を提供してくれることにも感心した。
アウディ車らしく上質なインテリアは従来型に比べると”デジタル化”が一気に進んだが、それでも空調やオーディオなど操作頻度の高いものには物理スイッチが与えられ、姉妹車である新型ゴルフよりもブラインドタッチが行いやすいのは、安全性面からも歓迎のできるポイント。
ベース車であるA3にあふれる「良いモノ感」に加え、特筆すべき快速性も上乗せした、何とも心に残る最新プレミアム・ホットハッチであった。
(河村 康彦)
〈車両本体価格:642万円/ファーストエディションは711万円〉