「人の噂も75日」と云うが、日本人は忘れる事が特技のようだ。もっとも幕府が倒れた維新後、太平洋戦争前の良き習慣を忘れ「追いつけ追い越せ」と大発展を遂げたのだから、古い習慣を捨てるのは良いことなのかもしれない…時には官民癒着、由緒ある建物を壊し、海を埋め、森を壊した後の経済効果が高いのも事実だが、将来を見据えた時、その善悪が如何なものかは歴史家が判断するだろう。
物を大切にする習慣は、私の子供頃には未だ有ったが、今では失せて「断捨離」などと得意げな日本だが、欧米、特に欧州は物や歴史を大切にする習慣が未だ残っているし、残そうとしている。
その一例が博物館や資料館で、自動車業界に目を向けると、博物館を持つトヨタでも1935年の大型量産乗用車AA型はレプリカで、いすゞの歴代を動態保存するのは下請け業者、という始末だが、欧米の会社は大量に保管し、時には公開している。
博物館と云えば、米国スミソニアンは世界最大規模で世界の文化遺産を収蔵していると云われているが、1998年の訪問時には、私は飛行機乗りらしく、航空部門を駆け足で見て回った。
先ず驚きは、世界初、世界一がゴロゴロとあり、それがレプリカでないこと。また兵器では敵味方関係なし…日本は嫌な物、敵の物は出したがらないが。で、WWⅡ初頭世界最強だったゼロ戦や欧州戦線で最強だったメッサーシュミット戦闘機も同じ部屋に。
飛行機乗りとして最上の感激は、世界初飛行のライト機、世界初大西洋横断のリンドバーグのスピリットofセントルイス号が、同じドームの天井からブラ下がっているのを見つけた時だった。
聞けば、博物館経営者の心構えが先ず違うようだ…着くか着かないか判らぬライアン機が大西洋上を飛行中に、パリのアメリカ大使館気付けでリンドバーグ宛に電報が届く{素晴らしい飛行に成功した貴方の飛行機を当館所有のライト機や歴史的飛行機に合流することを望んでおります}という内容だったという。困難を克服しホッとしたばかりの飛行場で、この電報を受け取ったリンドバーグは、さぞかし感激したことと思われる。
そのスミソニアンの同じ部屋には、米国初有人宇宙船カプセル、月面着陸船、世界初ラムジェット型ミサイルV1/独、世界初ロケット型ミサイルV2/独、宇宙を往復するスペースシャトル、シュナイダー杯トロフィーを米国にもたらしたカーチスR32-2水上競争機、米国初のジェット戦闘機マクダネルFH-1等々、世界初、米国初がゴロゴロとブラ下がり展示されているのだから、私のような珍しもの好きには、感激この上なしだった。
米国ではスミソニアンの他、ポールガーバー、海軍博物館、デイトン、チノなど歴訪し、アジアではニュージーランド、中国は北京と上海など。またフランスではリンドバーグが降りたブルージェ博物館の所有機は350機と云われ、英国ではロンドン近郊四カ所ほどを廻ったが、それぞれが充実し、また個々に特色を出しているのが勉強になった。
最後に日本はと云えば、過去に執着が無く将来予測をせず投資もせずでは、飛行機に限らず、どの分野でもこのような博物館が生まれることの予測が出来ないのが残念である。
車屋四六:1960年頃よりモーターマガジン誌で執筆開始。若年時代は試乗記、近頃は昔の車や飛行機など古道具屋的支離滅裂記事の作者。車、飛行機、その他諸々古い写真と資料多数あり。趣味はゴルフと時計。<資格>元JAFスポーツ資格審査委員・公認審判員計時一級・A級ライセンス・自家用操縦士・小型船舶一級・潜水士等。著書「進駐軍時代と車たち」「懐かしの車アルバム」等々。