トヨタ・ブリザード試乗記 【アーカイブ】

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昨年、国内復活したRAV4に続き、ライズ、新型ハリアー、RAV4PHV、ヤリスクロスと矢継ぎ早にSUVラインナップを充実させているトヨタ。大中小とニーズに合わせて最適な選択が可能な、まさにSUV王国だ。一方で、より本格派のクロカン4WDも、ランドクルーザー、同プラド、ハイラックスを揃える。が、いずれも大サイズの重量級。選択肢が多いとはいえない。

しかし、かつてはその下に弟分も存在した。それが80年にデビューした「ブリザード」だ。時流とともに姿を消してしまったが、新型ジムニーがヒットとなるなど、本格派が復権しつつある今こそ復活を望みたいモデルである。

そこで今回は、その初代モデルの試乗記をお届けしよう。

<週刊Car&レジャー 1980年(昭和55年)5月17日号掲載>
トヨタ・ブリザード試乗記

トヨタの新販売系列、ビスタ店へ投入のためクレスタと同時に発表されたのがブリザード。近頃の流行であるRV(レジャービークル)にピタリ焦点を合わせている。

ブリザードはジープ型四輪駆動(4WD)だが、より大型で本格派のランドクルーザーはレジャー用にはモノモノし過ぎる。そこで、かねて深い仲にあるダイハツのタフトを、トヨタらしい味付けで、カラフルに登場したのだ。

・トヨタらしい味つけ

試乗はバンだけにあるデラックス(東京地区標準現金価格133.6万円)だが、ほかに幌型、鉄ドアの幌型がある。後席を使わないと250kg積みが許されるが、乗用車としてはバンが定員4名、幌は6名になる。

デラックスはシートがシャレていて、計器がズラッと並んで楽しい。うれしい筆頭は回転計。時計、電流計と充実している。シートは60ミリのスライド量があり、普通型セダンの低いシートに慣れた我々には、低く座った位置が高く感じられるが、この種の車としては、このスバラシイ視界が絶対に必要なことなのだ。悪路では、レンジローバーよりも取り回しがいいのもこのためだ。

背が高いのは16インチタイヤのせいもある。このため217ミリという地上高があり、強力な悪路の踏破性を持つことになった。ラグタイプのタイヤも力強そうだが、素人で注意すべきは、このパターンは横方向に弱い。だから横Gをかけたコーナリングはとんでもない。第一、重心位置が高いから横転する恐れもある。踏破性が強いといっても、別の意味だということをよく理解すべきだ。

四輪リーフスプリング硬めにセット、しかもラグタイヤときては、乗り心地がいいはずがないが、車の性格上、欠点にはならない。例えば47度の坂も登るのだからソフトなスプリングではオッカナイのだ。ついでながら18~22とバリアブルなのにステアリングも重い。こんなことでグチるヤツは、野性味たっぷりのドライブを楽しむ資格などないのだ。

ブリザードの心臓は、クラウンやマークⅡと同じL型2.2Lディーゼルだから、力は余り過ぎている。ボッシュ型分配噴射ポンプ、OHC、渦流室のコンビは最新鋭だから、ディーゼルとしてはレスポンスがいい。ファースト・アイドル付きは作業に便利だ。オプションだが、12ボルトで作動するウインチは3.6トンとガラに似合わず力持ち。

ただ、遮音対策を大幅にはぶいてあるからディーゼル・ノイズは車内、外ともにかなり高い。エンジンが始動したら、ラジオのボリュームは2ひねりアップという感じだが、当然ながら欠点ではない。

この種の車はローギアードだから、各ギアの頭打ちが早い。レッドまで引っ張ると1速から、それぞれ35→50→85キロに達する。そこで試したが、荷を積んでなければ、軽い登坂でも2速で発進すれば簡単だった。クラッチ操作は普通でいい。さすが低速トルクのディーゼルだ。

フルシンクロの四速はダイレクト感があり小気味よくビシッと決まる。ノーマル走行では騒音と燃費にメリットがあるフリーホイール・ハブが役立つ。サブレバーを手前に引くと4WDになる。そのままでも1速18.886、4速5.081だからかなりローギヤードだが、もっと手前に引くとさらにギヤ比が46%低下し、1速は実に34.973になる。これにデフロックが加わると、驚異的な駆動力を生み出すことになる。

それでも登れない時にも、まだ手はある。ウインチのロープを引き出し、坂の上に固定し、4WD低速+電動ウインチで登るのだ。もう、こうなると自動車らしく走っているなんてものじゃないが、とにかく登ることは登るのだ。

・一考を要すブレーキ

ブレーキでたったひとつ希望がある。四輪ドラムブレーキの効きは満足できるものだった。だが、ドラムブレーキというのは、深い水から上がった時に困る。ドラム内に水が入り当分効かないからだ。

熟練者なら、ブレーキを踏みながら走って乾かすようなテクニックもあるが、RVブームにつられた連中では難しい。そうなると、水から上がっても効くディスクブレーキの方がいいと思う。

道路でないところを走るから、オフロードと呼ぶ。オフロード車というと、まともな道路で具合の悪いのもある。ブリザードは、町の中でもまことに快調。また高速道路を、時速100キロで走ってもストレスがたまるようなことはなかった。

エンジンに余裕があるから、クーラーを付けてもビクともしないだろうが、走っているかぎり、前方のベンチレーターは具合がいい。原始的このうえないが、ストレートに入ってくる涼風は抜群だった。

4WDなんてものは、進駐軍が持ってきたものだった。それが石段を登るのを見て感心したものだった。その需要は土木工事とか山林業者とか、特殊な分野だったが、とうとう若者のレジャーにまで進出した。日本も豊かになったものだと感心せざるを得ない。

だが、その面白さも乗ってみなければ判らない。こうした車が何種類かある中で、ブリザードはまことに快調。ワイルドでパンチが効いたヤツだった。

当時の新聞広告 タフな4WD性能で、アウトドアレジャーの頼もしい相棒としてアピールしていた

[解説]

現在のクロカン4WD市場は、軽自動車のジムニーの次が大型のランクルという状況で中間サイズがまったくないが、この状況は70年代も同じで、軽のジムニーの上はトヨタ・ランドクルーザー、日産パトロール、三菱ジープというラインナップであった。

そこで、この隙間を埋めるべく、中間サイズのクロカン4WDとして1974年に発売されたのがダイハツ・タフトである。現在のタフトは都市型の軽クロスオーバーSUVであるが、この初代タフトは頑丈なラダーフレームとリジットアクスル、パートタイム式4WDを備えた本格クロカン4WDで、1Lガソリンエンジンから始まり、最終的には2.8Lディーゼルエンジンまで搭載、1984年にフルモデルチェンジして車名が「ラガー」に変更されるまで販売されたモデルである。

トヨタ・ブリザードは、このタフトのOEMモデル。ただし搭載エンジンは異なっており、1980年当時のタフトは2.5Lディーゼルとトヨタ製1.6Lガソリンだったのに対し、ブリザードはトヨタ製2.2Lディーゼルを搭載していた。

記事中にもあるように、ブリザードは1980年に誕生したトヨタ・ビスタ店(現在のネッツ店)の専売車種としてクレスタとともに誕生した。今見ると武骨な実用クロカンだが、当時はレジャー用途をメインに訴求。RV流行の兆しをいち早く捉え、一般ユーザー用の4WD車として発売したのは、先見の明があったといえるだろう。

ボディサイズは全長3485mm×全幅1460mm×全高1870mmと非常に小さく、現在のジムニー(全長3395mm×全幅1475mm×全高1725mm)と比べてもほぼ同サイズ。これにトルクフルな2.2Lのディーゼルエンジンの組み合わせは、今見ても魅力的である。

84年にはOEM元のタフトのフルモデルチェンジに伴い、ブリザードも2代目にチェンジ。しかし三菱パジェロやトヨタ・ハイラックスサーフ、日産テラノなど、乗用車ライクで豪華絢爛なモデルが人気を集めた80年代後半のRVブームの頃には、野性味あふれるブリザードは人気を得られず苦戦、90年に販売を終了している。

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