日産・初代バイオレット試乗記 【アーカイブ】

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最近は各社ともSUVのラインアップ拡充が目覚ましい。大小の基本モデルを揃えた次は中型を、さらに大型と中型、中型と小型のそれぞれの隙間を埋めるモデルを追加するなど、細分化が進展中だ。

一方で現在ではどんどんラインアップが縮小しているのがセダンやクーペだが、隆盛を誇った1970年代は今のSUVと同じく、ラインアップが拡大。各クラスを網羅すべく様々な新型車が登場していた。

1973年に登場した日産・バイオレットもその一つ。ブルーバードが上級移行したことで広がったサニーとの隙間を埋めるべく登場したモデルだ。今回は、その試乗記を見てみよう。

<週刊Car&レジャー 1973年(昭和48年)2月3日号掲載>
バイオレット ハードトップ1600GL試乗記

かつて小型乗用車の主流だった1.6リッタークラスが、ニッサン・バイオレットの登場で、トヨタ・カリーナとともに再び販売戦線が活発化しようとしてきた。バイオレットは510と呼ばれたブルーバードの生産中止のあとを受けた新車種だが、L14型、L16型エンジンは変わらず、旧ブルーバードの後継モデルとみていいだろう。「誰にとっても扱いやすく、気のきいた親しみのもてる車」を完成するというのが設計方針だが、果たしてその狙いどおりにいったかどうか--早速、バイオレット・ハードトップ1600GL(ニッサンマチック付、JKP710HAWT)に試乗してみた。

バイオレットはブルーバードUとサニーとの中間車種。一見したところ、510ブルーバードから大きくはない印象だが、全長で50ミリ、全幅で20ミリ、それぞれ大きくなり、全高で25ミリ(セダンで15ミリ)低くなっている。ブルーバードUと比較すると、全長で95ミリ、全幅で20ミリ(全高はHTで変わらず、セダンで10ミリ)ずつ小さくなっているだけだから、見掛けよりは大きい車だ。車の大きさだけからいっても、510ブルーバードの後継車であることは確かにいえよう。

エンジンはL14型とL16型を踏襲し、公害対策上の細かい変更をしただけだから、パワーやトルクはそのまま、旧ブルーバードのエンジンの感触がそのままバイオレットからも感じられる。

試乗車はニッサンマチック付。トルコン車なので、性能云々を比較するべくもなかったが、L16型のスムーズな回転の上がり方は、十分に手応えのあるフィーリングとして残った。

走行安定性は旧ブルーバードよりも良くなった感じを受ける。2450ミリのロング・ホイールベースに対し、トレッドも前が1310ミリ、後ろが1320ミリとブルーバードUと同じ寸法で、前輪ストラット型、後輪半だ円板バネ式のサスペンションだが、ラフ・ロードでも、両足の踏ん張りはかなり利いている。従って、乗り心地は砂利道・高速道路とも旧ブルーバードよりは良くなり、ブルーバードUに近い感じといえる。

インストルメントはブルーバード系とガラリと変わった。長だ円形のパネルは一見するとセリカのそれを昇華させたようなスポーティムードで、このクラスの車にしては特徴のある形。

三つの大型丸型メーターは、左にタコメーター、中央に速度計、右に水温計と燃料計を組み込み、サイドブレーキ、チャージ、オイルの三つのランプはタコメーター内に組み込んでいる。いずれもステアリング・ハンドル内におさまって、角度もよく、見やすい。

ヘッドライトは点灯してしまえば、あとはスモール、ディマー、パッシングとも一本のレバーで操作でき、シートベルトを装着しても楽に動かせるのは良い。ただし、シートベルトは運転席、助手席とも二点式なのは解せない。安全を考えるのなら、少なくとも三点式を標準装備すべきではないか。

前方視界はまずまず良いが、バックは不便。最近のハードトップ車はどこのメーカーも同じようにバック時の視界に死角が多すぎるが、バイオレットはリヤ・トレイが二段になっていて、嶺線が高い位置にあるため、比較的、背の高い試乗子でも、背伸びしてもリヤ・エンドは見当もつかなかった。慣れの問題かもしれないが、全メーカーとも考えて欲しい問題のひとつ。

スタイルはともかく、走ってみればほとんどクセのない万人向きの車に仕上がっているというフィーリングが強かった。

登場時のキャッチフレーズは「しなやかなクルマ」。コピーには、気取らず、さりげなく使いこなせるクルマとあり、実用的な大衆車であることをアピールしていた

 

【解説】

「ブルーバード」は、かつての日産を代表する人気車種で、中でも3代目「510型」は大ヒットとなったモデルだが、市場の上級移行に対応すべく、その後継の610型は車格を上げ、ボディも大型化。車名も「ブルーバードU」として一新を図った。

これにより広がったサニーとブルーバードの間を埋めるべく登場したのが「バイオレット」である。実質的には510ブルーバードの後継車となるが、日産としては、人間工学的な配慮を加えたインテリア、徹底した安全対策、48年規制を先取りした公害対策などを積極的に取り入れた、新しいファミリーカーとして発売した。

発売時の構成はボディタイプが4ドアセダン、2ドアセダン、2ドアハードトップの3種類で、エンジンは1.4Lと1.6Lの2種類。試乗車は1.6Lの2ドアハードトップだが、スポーツグレードのSSSではなく、量販グレードのGLである。後輪がリーフ式であることがSSSとの大きな差となっている。

スポーティな外観だが、日産としては扱いやすさを主眼としたモデルであり、走りそのものは平凡というのが当時の評価。別号では1.4Lモデルの試乗記も掲載されているが「個性がないのが特徴」などと評されており、市場からの評価はともかく、ある意味、日産の狙い通りの仕上がりであったことは確かである。

日産としてはブルーバードに代わる主力量販モデルと位置付け、打倒トヨタの旗頭として送り出した自信作のバイオレットだったが、ブルーバードUと同様、複雑な曲面で構成されたスタイルは当時としては受けず、販売面では苦戦。77年に登場した2代目モデルでは510ブルーバードを思わせるボクシーなスタイルに一新したが、本家のブルーバードも910型でダウンサイジングし元の車格に戻ったことでバイオレットは存在感が薄れ、迷走が続くこととなった。

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