鮮魚市場とキャンピングカー

& Camping Car Life
食を楽しむキャンピングカーならではのクルマ旅

レジャー キャンピングカー コラム・特集

文:渡部 竜生(キャンピングカー・ジャーナリスト)

食の新たな楽し見つけに出かけよう!

旅の楽しみのひとつが「食」であることに異論のある人はいないだろう。キャンピングカーの旅もそれは同じ。むしろ自由に動けることや、車によっては冷蔵庫があることなど、食を楽しみたい人にこそ、キャンピングカーはうってつけのツールといえるだろう。

いまや道路はもちろん、あらゆるインフラが全国津々浦々に行き渡っている。深夜のサービスエリアでも見知らぬ土地のコンビニでも、ほぼ24時間、何かしら食べ物にありつくことができる。便利な時代になったと思う反面、やはり旅先では、その土地の味を探してみたい。そんな「コアな旅」がかなうのも、キャンピングカーなのだ。

キャンプ場で自炊

旅先やキャンプでの料理もキャンキングカーライフの醍醐味(トイフェスより)

 

仲間の口コミこそ生の情報

未知の土地を旅する楽しみは、情報収集の段階から始まっている。便利なことに、今やネット上にはたくさんの情報があふれている。メジャーな観光地はもちろん、マイナーな土地の隠れた名店、観光客向けではない商店、地元の人しか行かない穴場情報……。正直、情報は玉石混交だが、それもまた楽しい。

確かにネットは便利だが、情報にたどり着くルートは検索ばかりではない。キャンピングカーユーザーが集まるSNSに一言投げかければ、目的地周辺に住む人たちや、その場所を訪れた人たちからさまざまな情報・アドバイスがあっという間に集まって来る。文字通りの「口コミ」、それも経験者からの生の情報となればそれだけ信憑性も高い。私自身、そうした仲間たちの情報で、どれだけおいしい思いができたか計り知れない。

さらに仲間のアドバイスのありがたいところは「車の大きさ」から駐車場情報についても信ぴょう性があるところだ。乗用車よりはるかに大きいサイズのキャンピングカーに乗っていると、どんなに名店でも駐車場のサイズや周辺道路の状況は気になる。その点、同様の車に乗っている仲間の声は非常に貴重なのだ。

地元産の野菜売り場

旅先で知りたい情報のひとつ、地元野菜の即売所

 

知る人ぞ知る店に出会う

旅と食、というと決まって思い出す名店がある。信州の山の中にポツンとある、一軒家レストラン。店の裏口を開けると、そこはいきなり畑なのだ。地産地消どころではない。足りない野菜があると、スタッフが長靴を履いて収穫に行くほどだ。

「14時にはランチ営業が終わるんです。そのあと、夕方の仕込みまでは休憩時間なんですが、スタッフはみんな、野良着に着替えて畑仕事に出ちゃう。手塩にかけた野菜のことが、やっぱり気になるんですね」。

シェフは苦笑いしながら、どこか誇らしげだ。そのコメントだけでも、野菜への愛情が伝わってくる。採れたて野菜を手に、畑の中でポーズを取ってほしいとお願いすると、トウモロコシを2、3本、目の前で手折ってくれた。十分に実ったトウモロコシを収穫するところは初めて見たが、ぱきっと折った瞬間、ざざっ、と音をたてて芯から水が流れ出た。採れたての野菜とはこんなにもみずみずしいものか! 思わずうなったのもよい思い出だ。

肝心の料理は、それはもう、まずいわけがない。気取らないイタリアンで、畑の恵みがそのままパスタソースやスープになってテーブルに並んだ。実はこのレストランも、知人のお勧めで出会った場所だ。

 

海の幸・山の幸を同時に楽しむ

もちろん、旅先で料理をするのも楽しみのひとつだ。

土地勘のない場所で、予定のレシピの材料がすべてそろうとも限らないので、食材を持参することももちろんある。しかし、たとえ1品でもいいからできるだけ地場のものを使いたいと私は思っている。

車内のキッチンを使う派・使わない派、それぞれだろうが、少なくとも料理好きにとって、冷蔵庫はあると助かる装備だ。旅先で料理するもよし、おいしいものを買って帰るもよし、だからだ。

たとえば、那須塩原にお気に入りのキャンプ場がある。都心からなら、普通は東北道で一路北へ、となるのだが、我々は真っ直ぐには向かわない。まずは常磐道で、行きつけの(?)漁港に立ち寄るのだ。

漁港では、その朝揚がった地魚や魚介を仕入れる。そこから那須へと向かうのだが、山へ上がる寸前で、今度は朝採れ野菜を買い込む。山間のキャンプ場で、仲間と囲む海鮮鍋。なんという贅沢だろう。東北から南下してきた友人が、地酒をふるまってくれる。これぞキャンピングカーでなければできない旅、日本に住んでいてよかったと感謝する瞬間だ。

牡蠣を食材にしたバーベキュー

地元で仕入れた食材を使ったバーベキューもキャンピングカーライフの定番だ

 

日本だからこそキャンピングカー!

ショーの会場などで、よく相談を受けることがある。よくあるのが、夫はキャンピングカーが欲しいが、妻は反対している、というパターンだ。

キャンピングカーに反対する側の主な理由は「日本はアメリカみたいに広くないんだから、キャンピングカーなんて必要ない」というもの。いやいやいや、ちょっと待って。そうじゃないんですよ。

「国土が狭いのはむしろラッキーなんですよ」。そう返事すると「何を言っているのだ、この人は」という顔がこちらを向く。アメリカを何度も走った。ヨーロッパのアウトバーンも知っている。その私が言うんだから間違いない。まず、アメリカの広さが半端じゃないのは容易に想像がつくだろう。冗談抜きに、半日走っても大して風景が変わらないこともある。しかも、どこへ行っても食べられるのはハンバーガーかステーキだと思って間違いない。さて、その点日本はどうだろう。

隣の県に行くだけでも食べ物が変わる。半日も走れば、うどんのつゆの味も色もすっかり変わってしまう。山から海へ、海から山へ。ちょっと走るだけで、こんなにバラエティ豊かな旅ができる国はそうそうない。ましてそれだけ食のバリエーションだって豊富なのだ。これを楽しまない手はないだろう。

公共交通機関では行きにくい土地は全国に山ほどある。ツアーも組まれないようなところにこそ、隠れたグルメがある。新たな食の楽しみをみつけに、今日もキャンピングカーのエンジンをかけるのである。

漁港とキャンピングカー

自由きままに旅ができるのがキャンピングカーの魅力

 


プロフィール

渡部 竜生(キャンピングカー・ジャーナリスト)
キャンピングカージャーナリスト。サラリーマンからフリーライターに転身後、キャンピングカーと出会ってこの道へ。専門誌への執筆のほか、各地キャンピングカーショーでのセミナー講師、テレビ出演も多い。旅のお供は猫6匹とヨメさんひとり。著書に『キャンピングカーって本当にいいもんだよ』(キクロス出版/2008年3月)。

《 本稿は新聞「週刊Car&レジャー」2682号(2019年7月)に掲載 》

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