ベース車以上にメルセデスの作品らしさが感じられた究極のピュアEV
トランクリッドではなく大きなテールゲートを備えた、いわゆるハッチバック構造のボディの持ち主ではあるものの、それでもセダン・タイプといえる先に登場の『EQS』と共に、メルセデスのピュアEVであるEQシリーズのフラッグシップの座を固めるのが、ここに紹介する『EQS SUV』。
ベースのEQSに対して200㎜強高められた全高は1725㎜という値。逆に全長は90㎜ほど短縮されているものの、100㎜以上ワイドな全幅はもはや2m超え。EQS同様にピュアEV専用のプラットフォームを採用していることは、3210㎜と極めて長いホイールベースにも象徴される。
にも拘わらず、わずかに5.1mとコンパクトカー並みの驚きの最小回転半径を実現させているのは、逆位相方向に最大で10度も切れるリヤ・アクスルステアリングを標準装備としているからだ。
そんなこのモデルのラインナップは、ベーシック・バージョンの『450 4マティック』とハイパフォーマンス版たる『580 4マティック』の2タイプ。今回は前者をテストドライブした。
”4マティック”の名称が示すように、EQS SUVはいずれも前後にモーターを搭載した4WDシステムの持ち主。450の場合その出力は、フロント88kW/260Nm、リヤ178kW/540Nmと、リヤに重きを置いたデータが発表されている。
巨大なボディサイズにWLTCモードで600㎞近い航続距離を実現させる、107.8Kwhという大容量の駆動用バッテリーを搭載することもあって、その車両重量は実に2880㎏という超重量級。それでも、アクセルペダルを踏み込めばそんなデータを忘れさせる軽快な加速力を発揮。フルアクセルでは”爆速”とまでは行かなくても十二分な速さを得ることができる。
ただし、アクセルOFFでの回生減速中にはブレーキペダルが引き込まれるために、さらにここで”追いブレーキ”を行うとそのペダルタッチに違和感を覚えた。また、左足を預けるフットレストがかなり奥まった位置にある点にも同様の印象を受けた。
一方、このモデルの走りで同時に驚かされたのは、「静かで滑らか」という点ではどれもが共通するピュアEV群の中にあっても、「これは別格!」と思わずそう叫びたくなるような圧倒的な静粛性。見た目にも滑らかなスタイリングや、実際に床下整流までを徹底して行ったという空力に配慮をしたボディワークが、それを実現させていることは間違いない。
そんなスタイリングやインテリアの雰囲気はベースのEQSに準じたものだが、SUVらしいのは3列シートのレイアウト。大人7人が乗り込むとさすがに多少の窮屈さは現れそうだが、それでも3列目でも短時間であればさほどの我慢なく移動ができそうなのは、前述した超ロングホイールベースのパッケージングあってこそ。
高額なオプション装備ではあるものの、ダッシュボード全面に広がる例の”MBUX”によるディスプレイ表示も、乗る人全ての心を鷲づかみにすることは間違いナシだ。
サイズ的にも価格的にも、特に日本では「乗る人を選ぶ1台」であることは間違いないが、ベースのEQS以上にメルセデスの作品らしさを感じることができた究極のピュアEVという印象であった。
(河村 康彦)
(車両本体価格:1542万円)