名前以外はすべて変わったとも受け取れる変りぶり
クルマに興味が無い人でもきっとその名前くらいは知っていると思われるのが、初代誕生が1955年にまで遡り純国産でつくられた乗用車として第一号と紹介できる内容の持ち主の『クラウン』。
かつてごく限定的に輸出が行われた時期はあったものの、基本的には「日本のユーザーと共に育ってきた」と表現しても過言ではないこれまでの長い歴史に、ついにひと区切りをつけたと思われるのが、2022年7月に発表された実に16代目となる最新モデルだ。
一気に4タイプが披露されたボディは、いずれも歴代クラウンとは何の関わりもなく見えるデザインで、これまでのモデルでは外すことのできなかった官公庁や営業車(タクシー/ハイヤー)向けのイメージが抱けないもの。そのほかにも、日本以外の市場も重要視したグローバル・モデルであることや、歴代で初のFFレイアウト・ベースの骨格を用いることなど、まさに「名前以外は全てを変えた」と受け取れる内容の持ち主となる。
前出4タイプのボディの中から当初発売をされたのは、”クロスオーバー”と称する独立したトランクルームを備えるクーペSUV風ルックスのモデル。ちなみに、トヨタのWEBサイト上でもこのモデルは『SUV』としてカテゴライズをされている。
搭載するパワーユニットは、システム内に最高186PSを発する2.5リッターの自然吸気もしくは、同じく272PSを発する2.4リッターのターボ付きガソリン・エンジンを組み合わせた2タイプのハイブリッド・システム。いずれも4気筒に限られるのは、今という時代を象徴すると言えそう。前述のようにシャシーはFWDベースだが、全モデルで後輪もモーターで駆動されるプロペラシャフト・レスの4WD方式を採用する。
今回テストドライブを行ったのはターボ無しエンジンを積む前者。Bピラー付近を頂点にリヤエンドに向けて下降が続くルーフラインゆえ、後席着座位置はやや落ち込んだ印象。足元にも頭上にも余裕は残るものの、前席優遇のイメージが強いのはやはりこれまでとは一線を画すスタンスだ。
一方、走りはじめてまず印象に残ったステアリングの軽い操作感には”クラウンらしさ”を抱くことにもなった。ロードノイズの小ささが際立つ静粛性の高さも同様。加速の能力は日常の走行シーンには十二分だが、アクセル踏み込み量が増えてエンジン回転数が高まった際、耳に届くのが4気筒エンジンならではという音色である点には、一抹の寂しさを感じたのも事実だった。
インテリアの仕上がりは基本的には上質だが、その中で一部材質がハードパッドであったり、フロントフードを支えるのがダンパーではなく”つっかえ棒”であったりと、細かな点に「クラウンなのに」という思いを抱く点が見受けられたのも、歴代のモデルに親しんで来た人にとっては物足りないと感じられる可能性はありそう。
新たな世界へと果敢に挑んだ一方で、もしかすると歴代のユーザーを裏切った(?)とも受け取られかねない、そんな新型がどのように評価をされて行くことになるのか、まさに興味津々である。
(河村 康彦)
(車両本体価格〈クロスオーバー、2.5リッター・ハイブリッド〉:435万円~570万円)