【JEEP コマンダー試乗】ほどよく洗練されたジャストサイズの3列シートSUV

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日本ではジープ初となるディーゼルエンジンを搭載

ジープのラインナップに新しいモデル、コマンダーが加わった。ミッドサイズSUVながら3列シートを持つのが特徴。日本市場にちょうどいいサイズの、シティ派のジープだ。

コマンダーは、昨年末に日本での販売が終了したチェロキーとだいたい同じ大きさで、その穴を埋めるモデルだが、3列シートであるのが違う。2000年代後半にも、コマンダーというモデルが販売されていて、やはり3列シートだったが、今回の新型はそれとは別物と考えたほうがよさそう。

車体のベースは、既存モデルのコンパスと同じで、内外装を見ると共通の部分が見てとれる。けれども、単にロングホイールベース版というわけではなく、フロントマスクも独自だし、車格的に上に仕立てられており、印象はかなり違う。

サイズは全長4770×全幅1860×全幅1730mmで、ホイールベースは2780mm。コンパスは4420×1810×1640mm、2635mmだから、すべてにおいてひとまわり大きい。車重も1870kgとなる。サスペンションはコンパスが前後ストラットのところ、リアには荷重増やスペース上の理由か、マルチリンクを採用する。

エンジンは、日本市場のジープとして初となるディーゼル。2.4リッター4気筒ターボで、同じステランティス内のフィアット系由来のエンジンである。最高出力は170psで、最大トルクの350Nmを1750~2250rpmで発生する。

これに組み合わせるのは9速ATで、駆動は電子制御でオンデマンドの4WD。当然クロカンのラングラーよりもオンロードでの洗練を重視しているが、セレクテレインシステムによって、SAND/MUD、SNOW、AUTOの4つのモードを切り替えて、滑りやすい路面に対応するなど、ジープ・ブランドらしくオフロード性能はぬかりなさそう。

内外装はグランドチェロキーに近い雰囲気

コマンダーは南米とインドを主体に販売されており、日本仕様は同じ右ハンドルであるインドで生産される。米本国では販売されていないが、もちろんれっきとしたジープの一員だ。

実際にクルマに接すると、雰囲気としては下位のコンパスよりも、上級のグランドチェロキーに近い印象。とくにフロントマスクなどはグランドチェロキーのイメージでデザインされているし、ボディサイドも直線基調で、高品質感のあるデザインだ。ジープはデザインの革新を進めているようで、昨年まであったチェロキーがドイツプレミアムブランドのように、凝ったプレスラインやスマートなライトデザインが採用されていたのに対し、新型コマンダーはよりシンプル。シティ派のSUV系モデルとはいえ、質実剛健なジープ・ブランドとして納得しやすいデザインだと感じられる。

フロントマスクや車体後半部はコンパスとは異なるデザイン。上級モデルらしさが感じられる
水平の線が目立つデザイン。台形のホイールアーチはジープの伝統

内装は、トリム類にはソフトパッドを使用し、適度に上質感がある。10.1インチのモニターパネルをセンターに据えたダッシュボードのデザインも、シンプルで洗練されており、好ましい。シート形状はコンパスと共通に見えるが、表皮はより上級な仕立て。座った感触はむやみにソフトではなく、しっかりしている。

シンプルな水平基調のダッシュパネル。兄貴分のグランドチェロキーとも雰囲気が近いデザイン
シートにはレザーを使い、表皮には凝ったデザインが施される。電動式でメモリー機能も備わる

3列目シートは、基本的には短距離用といった趣。小柄な女性や子供であれば、2人が比較的ちゃんと座れそうだが、少し大柄な男性だと膝を抱えた体育座り的になる。全長4.7m台というのは、ミニバンも含めて、日本市場における3列シート車で、最も売れているサイズであるらしい。ふだんは3列目シートを倒しておけば、後部の荷室はコンパスよりはるかに広く、役に立つクルマだ。

3列目シートは男性だと長距離は少しつらいが、短距離なら7人乗れるのはたしか
3列目シートを倒した状態だと、荷室はじゅうぶんに広い。2列目を倒せばさらに奥行きは広がる

日本におけるジープの、シティ派SUVモデルの系統は、これで上からグランドチェロキーL/グランドチェロキー、コマンダー、コンパスと揃うことになった。どれもデザインの基本哲学が統一され、大中小のヒエラルキーができた感がある。たとえばメルセデスのかつてのセダンで上から、S、E、Cクラスが揃っていたような感じである。コマンダーはこのラインナップのちょうど中間に位置する。

パワーは必要十分、落ち着いた走り

走りについては、街中を走っただけなので、ダイナミック性能や、オフロードの走りについては確認できなかったが、SUVとしては十分洗練された印象。これもグランドチェロキーとコンパスの中間の洗練度なのだが、コンパスがベースでありながら、グランドチェロキーのほうに近い印象だった。ホイールベースが長く、車重が重いことも影響しているのだろう。コンパスには軽快にキビキビ走るよさがあるが、ファミリーカーとしてコマンダーは落ち着いている。グランドチェロキーと比べれば少し劣るが、SUVであり、ましてジープなのだから、あまり洗練されてもどうかとも思う。やりすぎないで、基本に忠実な感じなのが、好ましい。

2リッター・ディーゼルは、今どきのディーゼルにしては、比較的ディーゼルらしさが感じられ、ガソリンと区別がつかないほど静かではない。とはいえ昔のディーゼルみたいにカラカラと鳴って、振動が伝わるわけではない。最大出力は3750rpmで発生し、メーター表記では4000rpm台後半でレッドゾーンが始まるが、比較的よく回るエンジンという感触だった。パワーはそれほどあるとは感じないが、低回転からトルクが出る特性もあり、まさに必要十分のパワーという印象。

エンジンは日本のジープ初となるディーゼル。価格は税込で597万円

ミッドサイズSUVのコマンダーは、デザインも走りも、SUVのスタンダードのクルマ、という印象だった。世界中に増えたSUVの中には、走りがすごく洗練されていたり、デザインが個性的なものもあるが、コマンダーはそんな中で、ほどよく洗練されつつ、SUVの元祖ブランドらしい実直さ、素朴さも残しており、クルマとして安心感がある。SUVの3列シート車はまだ選択肢が多くない中、とくにジープ好きでない人でも、興味を持つのではないかと思う。(武田 隆)

同時に試乗したコンパスは、軽快感が好ましかった。フロントマスクはコマンダーと異なる
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