バリオマチックを知っていますか?

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ヨーロッパの自動車生産国はドイツ、イギリス、フランス、スウェーデン、イタリアなどだが、オランダは?と聞かれても困る人も多いと思う。が、長い歴史の会社がある…バンドルネ社である。

そのルーツは1903(明治36)年創業のスパイカーで、史上初の四輪駆動車開発で知られている。そのスパイカーが、1928(昭和3)年に改名してバンドルネなのである。改名してからはトレーラーの製造、40年からは軍用四輪駆動車、WWⅡ以後はトラックやバスを生産してきた。

1959(昭和34)年、バンドルネは乗用車のDAF=ダフを開発する。初めは水平対向2気筒590cc・22馬力だったが、62年に750cc・30馬力になり、最高速度も時速104㎞になり一人前の乗用車の仲間入りを果たした。

このダフ最大の特徴がバリオマチック。「そりゃ何だ?」という人も多かろうが、独特な変速機である。「自動車はドイツが産んでフランスが育てた」とフランス人は自慢するが、その言を引用すれば「バリオマチックはオランダが産んで日本が育てた」と日本人は自慢しても良いことになる。

バリオマチックは2個の可変径プーリーにVベルトを掛け渡すという構造だが、そのVベルトをスバルが金属ベルトに変えて実用化したのが、お馴染みのCVTなのだ。しかし、バンドルネには特許があり、当初は金属ベルトをバンドルネ支給品に限ると縛られて、日本メーカーは泣いていた。「ウチで造れればもっと良くなるのに」とこぼすのを何度か聞いた。が、現在は特許が切れて、めでたしめでたしとなっている。

CVTをスバルが実用化すると、日産、ホンダ、トヨタ、三菱とCVTファミリーがドンドン広がり、世界にも広がった。スバル時代は軽自動車用だったが、徐々に大きな出力に耐えられるようになり、小型車、中型車へとCVTの輪が広がり、排ガス対策、エコ時代になり、近頃環境志向の優等生でもある。電脳制御で燃焼効率の良い回転数を使えるからだ。

DAF=ダフ600/オランダ/トヨタ博物館蔵: 全長3627×全幅1447×全高1445㎜・車重625㎏・Fサス:リーフジッド/Rサス:スイングアクスル。

30馬力のダフ33型は好評で6万台を販売したが、66(昭和41)年登場の44型は844cc・40馬力になりこれも好評。68年にルノー製水冷直4・1108cc・50馬力を搭載で最高速度は時速140㎞になった。ここまでのダフは順調だったが、75(昭和50)年に営業不振でボルボの傘下に入るが、90年代さらに不振となり、オランダ政府が出資、さらに三菱自動車の出資で元気を取り戻した。

三者出資で新発足したネッドカーのネーミングは、オランダの別称ネダーランドからのもの。設立直後に訪問したが、三菱カリスマとボルボV40が仲良くコンベアーを流れていたが、波乱はさらに続く。

ボルボがフォード傘下に入り、三菱がダイムラーと手を組むという業界編成で、ネッドカーのコンビは解消され、三菱が株を引き取り事業は継続された。スパイカーからネッドカー、ボルボ、三菱と複雑に移行する中の一時期に咲いた花がダフだったのである。

(車屋 四六)

 

車屋四六:1960年頃よりモーターマガジン誌で執筆開始。若年時代は試乗記、近頃は昔の車や飛行機など古道具屋的支離滅裂記事の作者。車、飛行機、その他諸々古い写真と資料多数あり。趣味はゴルフと時計。<資格>元JAFスポーツ資格審査委員・公認審判員計時一級・A級ライセンス・自家用操縦士・小型船舶一級・潜水士等。著書「進駐軍時代と車たち」「懐かしの車アルバム」等々。

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