コンパクトな「レネゲード」からタフなオフロード性能を持つ「ラングラー」まで、幅広いSUVモデルをラインアップするのがジープだ。この人気のジープに新たに加わったのが「グラディエーター」。本格オフローダー「ラングラー・アンリミテッド」をベースに開発されたピックアップトラックで、注目度の高さは抜群。今回はこのグラディエーターなどジープ各モデルに短時間ながら試乗できたので、その魅力を紹介しよう。(本文/写真 武田 隆)
「ジープ+ピックアップトラック」は北米クルマ文化の象徴
6月3日、ジープ・グラディエーターのプレス向けイベント「Jeep Real Grill」が、東京・豊洲にて開催。アメリカンBBQのランチが提供され、試乗の機会が設けられた。
会場ではまずはジープ・グラディエーターの文化・歴史が紹介された。情熱的に語ってくれたのは、ステランティスのインド・アジア太平洋地域担当の上級副社長ビリー・ヘイズ氏。親子三代でジープを乗り継ぐ愛好家であるうえに、BBQの達人でもあり、今回のイベントの立役者だ。
「ジープ」はヘビーデューティー車両として伝説的存在である。第2次大戦後に軍用から民生用に転じ、オフロードが豊富なアメリカで、ジープで遊ぶ文化が育まれてきた。今ではラングラーの名を冠して4代目となっている。いっぽうでピックアップトラックは、古くは、農作物を楽に多く運べる乗り物として、農家で重宝されたのが始まりだが、今ではアメリカのクルマ文化を代表する存在だ。
ジープ・ラングラーをベースに、2018年に登場したのがジープ・グラディエーター。平たくいえば、ラングラーのピックアップ版である。そのルーツは1940年代にさかのぼり、1960年代にはグラディエーターの名を冠したモデルも一度登場したが、今回のグラディエーターはピックアップモデルとして久々の復活となる。
グラディエーターは、ジープとピックアップトラックの資質を、両方併せ持つ、いわばアメリカ文化を象徴する究極のような存在だ。日本では非常に大型な車体といえるが、昨年11月に発表後、3ヵ月の間に予想を上回る400台を受注したという。ちなみに海外ではアメリカを中心にすでに25万台以上が売られ、本場でそれだけ歓迎される存在なのだ。
ボディは大きいが、意外に運転しやすい
試乗は、20分弱で豊洲周辺をひとまわりするというもので、タフな「ジープの世界」を知るには遠く及ばないが、その雰囲気だけでも感じられれば幸いだ。
最初に乗ったのは、今日の主役のグラディエーター。向き合っての第一印象は「ずいぶん長いな」ということ。フォードFトラックとか、ラム・トラックなどのフルサイズピックアップは、日本の路上でたまに見るといかにも巨大に感じるが、ボリューム感としてはそれらよりは幾分スマートに見える。実際、幅広の独立フェンダーを除けば車体本体は意外に幅が広くない。ただ、全長は通常の4ドアのラングラー・アンリミテッドに比べて730mm長い5600mmもある。
走り出して関心したのは、視界の良さ。実直な四角いボディに大きなガラス面積を持ち、とくにリアシートの直後にリアウィンドウが直立するので、バックミラーから覗く後方視界は抜群によく、サイドミラーも見やすい。さらにジープ特有のフェンダーのためにボンネット幅が絞られており、車体前方の路面が見やすい。これら悪路走行に向いた資質が生きて、人通りの多い交差点を曲がるときなど、周囲の確認がしやすい。今回は道幅の広いコースではあったが、街中でもころがしやすいクルマだと思った。
284PS/347Nmの3.6リッターV6エンジンは、2280kgの車体を快調に走らせる。このV6は「トラック」としては拍子抜けするほどスムーズで、自然吸気のDOHCなのである。現在日本ではジープ・ラングラーのカタログ通常モデルは4気筒のみだから、V6は貴重だともいえる。
乗り味も快適で、トラックのような粗野な感じはない。脱着式ハードトップルーフながら、ボディがガタピシすることもない。フレーム式シャシーの頑強さが安心感をもたらしている。基本的に室内は十分静かで文化的だが、スピードを少し上げるとタイヤの共鳴音が聞こえるのは、本格オフロードタイヤを履いているから。「ジープらしさ」を感じられる部分といえそうだ。車線変更時にハンドルの応答性に少しあいまいさが感じられたが、本格クロカン車両特有のもので、タイヤの影響もあると思うが、ボール循環式ステアリングゆえの感触だろうと思う。
短い試乗中、舗装工事中の荒れた路面を走ったときだけは、路面の凹凸を拾い、細かい上下動が目立った。やはりふつうの乗用車よりは、タフな乗り味の部分はあるようだ。とはいえ、基本はまったくふつうに走れるし、長いホイールベースのおかげもあり、ゆったりした乗り味だ。
カタログモデル化を期待したいショートホイールベースのラングラー
次に乗ったのは、ラングラーのショートホイールベース、ルビコン・ソフトトップと呼ばれるモデル。ショートボディは日本では、以前に限定で販売されているが、現在カタログモデルとしてはない。車体の大きいアンリミテッドのほうが受け入れられやすいが、悪路を走るという「ジープ」の本分からすれば、ショートボディが正統派だといえる。
車重は1880kgで、アンリミテッドと劇的には違わないが、ホイールベースが2460mmと、550mmも短い。全長も同じだけ短く、4320mmだ。
軽くて短いので、動きがキビキビとしていて、街中をちょい乗りしただけでも、身軽で活発な感じが伝わってきた。橋の上のうねった目地段差超えでは、前後のピッチングが目立ったが、動きがアクティブで楽しそうだ。特別なのはルーフがソフトトップなことで、ちょうど大粒の雨が降っていて、幌をたたく音がポツポツと聞こえたが、いかにも生地が厚くて丈夫そうな感じがした。
洗練された乗り味のラングラー「アンリミテッド・サハラ」
3番目に乗ったのが、ラングラーの4ドア、アンリミテッド・サハラで、2リッター4気筒搭載車である。先代ラングラーではガソリンはV6だけだったから、4気筒なのはいわばダウンサイジングの流れともいえるが、そもそもの元祖ジープは4気筒だったから、先祖帰りだともいえる。
車重はカタログ上で1960kgあるが、この4気筒エンジンは272PSとV6にわずかしか劣らないどころか、トルクは400Nmと上回っている。ターボの威力で、力不足はなく、そのうえフィーリングが現代の4気筒エンジンとしてふつうにかなり洗練されている。変速機は8速ATで、MT操作はシフトレバーの前後操作で行える。それはどのモデルも共通だ。
このクルマは、よりオンロード志向のタイヤを履いており、共鳴音も小さい。乗り味は、ショートよりはゆったりしている。もっとも最初に乗ったグラディエーターからはだいぶ時間がたって、間にBBQランチもとっていたので、その差ははっきりは認識できなかった。
実は意外に繊細?な「アメリカンBBQ」
イベントの「メイン」がBBQ。本格アメリカンBBQとのことで、その特徴は、前日から仕込みをして長時間肉を漬け込み、焼くのも低温でじっくりというもの。その焼いた肉は、さすが味がふかく染み込んでいて、とくにプルドポークの柔らかさには驚いた。ワイルドに焼くのがアメリカのBBQと思っていたが、ホストが腕によりをかけて仕込む心意気も、アメリカ流なのかもしれない。
イベント中に2回も雷雨に見舞われ、ある意味大荒れの天気だった。高層ビルが林立する「大都会」の野外で、「大自然」の洗練を受けながら本格BBQランチを楽しんで、現代のジープ体験を満喫した一日であった。(武田 隆)