各メーカーとも人気モデルを揃えるSUVだが、その中でもトヨタのラインアップは非常に充実している。コンパクトモデルでは「ライズ」「ヤリスクロス」、ミドルクラスでは「RAV4」「ハリアー」がある。さらに、それぞれ2WDと4WD、ガソリン車とハイブリッド車が設定されており、幅広いユーザーニーズに応えている。加えて本格オフロード派にはクロカン4WDのプラドやランドクルーザー300もあり、まさに最強の布陣だ。
そんな盤石に見えるトヨタSUVラインアップだが、その中で弱点といえたのが、中間に位置するCセグメント。クラスとしては「C-HR」が相当するのだが、これはSUVとしては変化球のような存在だ。SUV風のスタイルはしているものの、実質的にはオンロード主体のコンパクトスポーツ。SUVに期待される悪路走破性や居住性、積載性などは持ち合わせていない。つまり実用SUVとしてバランスの取れたCセグSUVは、これまで空位だったということだ。
そこで、このラインアップの穴を埋めるべく登場したのが、この「カローラクロス」というわけである。これによりトヨタのSUVラインアップがいよいよ上から下まで完成したといえるだろう。
室内が広くなり、快適性が大きく向上
さて、カローラ初のSUVとして登場した「カローラクロス」は、車名を見ればわかる通り、現行カローラがベース。TNGA・GA-Cプラットフォームに1.8Lのエンジンを組み合わせるなど、基本メカニズムはカローラセダン/ツーリング/スポーツと共通する。現行カローラは走行性能や静粛性、環境性能などのバランスの高さに定評があるから、その基本性能はそのままにSUVスタイルに仕立てたというのは、ユーザー視点から見て嬉しいポイントだ。
試乗して、まず感じたのは室内の快適性の高さ。SUVスタイルとしたことで頭上空間に余裕があり、前席・後席ともゆったりと座ることができる。特にセダン/ツーリング/スポーツでネックだった後席の居住性が大きく向上しているのが嬉しい。ボディが高くなった分、後席ドアの開口面積が増えて乗り降りがしやすくなり、またリクライニング機構も備わったことで楽な姿勢で座ることができるようになった。さらに荷室もクラストップレベルの487Lの大容量を確保しているのもSUVとして重要なところ。荷室の形状も奥行、高さともに余裕があるので大きな荷物も積みやすく、実用性の点でも満足できる。後席を倒せば身長180cmの人でも横になれるだけのスペースを備えているので、車中泊にも最適だ。
走りの良さはカローラシリーズに共通するところだが、このクロスもその例外ではなく、ガソリン、ハイブリッド車ともに非常に心地よい。街中から高速域まで満足できるパワーを備えており、余裕のあるクルージングを楽しむことが可能だ。特にハイブリッド車は静粛性が高く、質感という点でも満足できるだろう。またアクセルへの反応もスムーズで、これもストレスのない走りにつながっている。発進から巡行域までシームレスに加速していくので、運転中に気を遣う必要もない。
乗り心地の良さも特筆できる部分。しっかりとした高剛性のボディにしなやかな足回りの組み合わせで、硬すぎず緩すぎずフラットな乗り心地だ。シートも適度にホールド感があり、体が揺すられることもないので、リラックスして過ごすことができる。長時間ドライブの多いSUVとして満足できる仕上がりだ。着座位置が高いこともあって視界も広く、運転のしやすさという点でも不満はないだろう。
というわけで、このカローラクロス、実用SUVとして欠点らしい欠点が見当たらない。ヤリスクロスは小さすぎ、RAV4では大き過ぎるというユーザーの期待に見事なまでに応えてくれる優秀モデルだ。従来のカローラでは居住性が気になったユーザーでも、これなら満足できるはず。人気が集中するのも納得である。(鞍智誉章)