1980年代は、各社から個性的なモデルが相次いで登場した時代だ。この背景としては自動車市場の成熟化が進み、市場全体が頭打ちになってきたことが一つの要因といえるだろう。そこで各社とも需要拡大策として、スペシャリティカーやスタイリッシュなセダンの投入が相次いだ。スバルから登場した「アルシオーネ」もその一つ。特徴あるスタイルをはじめ当時の最新技術がふんだんに盛り込まれ、後のレガシィにもつながる「高速4WD」のコンセプトが具現化されていた。今回はその試乗記を見てみよう。
<週刊Car&レジャー 1985年(昭和60年)6月22日号掲載>
「試乗レポート スバル・アルシオーネ」
スバル・アルシオーネ。名前の由来は、スバル星団の中でひときわ輝く星「アルシオネ」からとられたもの。スバルのイメージリーダーカーにふさわしい名だ。
スタイリングは、これまた“ひときわ輝く”ものだ。Cd値0.30の厚い壁をクリアし、0.29という量産車としては世界最小の数値。ダイナミックなフォルムが、走りを予感させてくれる。
・世界に誇る独創4WD
心臓部はレオーネシリーズに搭載されているEA82型。ターボチャージャーを装備し、そのスタイルにふさわしいものだが、もう少しパワーが欲しいような気もする。
4WD・ATのトランスミッションもレオーネと同じ機構を採用している。スバル独自のマルチ・プレート・トランスファー。トルクコンバーターの油圧を介して、FFと4WDを切り替えるもの。この方法は瞬間的に断接できるうえに、マニュアル式に比べ、無理なく切り離せる。スバルが世界に誇る機構だ。また、オート4WDの機構もあり、路面状況に応じて、自動的に切り替わってくれる。
ワインディングロードから高速走行まで、そつなくこなしてくれるアルシオーネ。その足は、フロントがストラット式、リヤがセミトレ式の4輪独立懸架。試乗前の予想よりもしなやかだった。
・地の果てまで走りたい
イヤなゴツゴツ感もなく、それでいて柔らかすぎるものでもない。高速走行時の直進性の良さは特筆すべきもの。空力特性によるものもあるけれど、サスの良さも光っている。また、車高を二段階調整できるハイトコントロール機構も搭載され、操縦性、安定性を発揮してくれる。
コーナーリング時のステアリングレスポンスはシャープ。タイトコーナーでも思った通りのラインを走ってくれる。が、リヤサスの粘りが、もう少し欲しい。
キャビンは一応4人乗り。しかしリヤシートは、ホンダのCR-Xのようなもので、2人乗りと考えたほうがいい。そう割り切って、サブトランクとして使ってもいいだろう。
ドライバーズシートは、バケットタイプ。ホールド性もまずまず。シートリフターも付いていて、ジャストフィットする。ステアリングはテレスコピック機構で、これもベストポジションが得られる。
装備もスペシャルティカーにふさわしい。パワーウインドー、オーディオはもちろん、クルーズコントロールもついて、快適なキャビンを作り出している。
コクピットに座れば、もうアルシオーネマジック。どこまでも走りたくなる。
<解説>
アルシオーネは、乗用4WD市場をリードしてきたスバルが独創性と国際性をいっそう際立たせるイメージリーダーカーとして開発したスペシャルティカーで、空気力学を追求した個性的なスタイリング、1.8L水平対向OHC・EGIターボエンジン、独創の4WD機構など充実した装備・機構を備え、スバルらしいこだわりに満ちたモデルであった。
メカニズム的にはプラットフォームを共用するレオーネと共通する部分が多いが、航空機メーカーをルーツに持つ富士重工のアイデンティティを表現するものとして空力特性にこだわったデザインを採用。CD値(空気抵抗係数値)の低さを大きくアピールした。現在では0.3を大きく下回る車が多いが、当時アルシオーネの0.29は驚くべき数値であった。これを実現するためにレオーネではエンジンルームに合ったスペアタイヤをリヤのトランクに移すなどのレイアウト変更や、リトラクタブルヘッドライトの採用などによって、エンジンフード面を低く設定するなどの工夫がなされている。
商品としては、乗用車対米輸出自主規制が始まる中でスバルの高付加価値戦略を担うモデルであり、対米輸出に重点、国内に先立って85年2月に米国への輸出が開始されている。
国内での当初月販計画は500台。発売日の85年6月8日と翌9日に行われた発表展示会には、全国800拠点に15万人が来場、373台が成約したとあるから、個性派スペシャルティーカーとしては好調な滑り出しを見せている。ただし個性派ゆえにその後の販売は苦戦。特に主戦場の北米では同年9月のプラザ合意後の急激な円高で競争力を失うなど、タイミングにも恵まれなかったが、6年間で輸出を含め合計9万8918台が生産された。