三菱・ギャラン ラムダ試乗記【アーカイブ】

週刊Car&レジャー アーカイブ

東京から札幌へ会場が移されることになった東京オリンピックのマラソン・競歩会場。東京の真夏の暑さを考えれば致し方ないところだが、その唐突な変更には驚きだ。二転三転した新国立競技場からパクリロゴ問題等々、波乱続きの五輪である。

さて、突然クローズアップされることになった札幌だが、この「札幌」を名乗るクルマがかつてあった。それが「MITSUBISHI SAPPORO(三菱サッポロ)」。感覚的にはビールかラーメンの名前みたいでクルマはイメージしにくいし、語感もヘンな感じだ。ちなみにこの「サッポロ」は、1972年の札幌オリンピックにちなんで名づけられたのだという。

ただし、この「三菱サッポロ」は輸出名。日本名は「三菱ギャラン ラムダ」だ。今ではほぼSUV専業メーカーとなってしまった三菱だが、かつてはフルラインアップを誇り、数々の名車も輩出。凝ったメカニズムや美しいスタイルのクルマも多く、ファンを唸らせた存在だった。その中の一つがこの車。流麗なスタイルと高い実力は、まさに当時の三菱の力を結集したもの。今回はこのラムダの試乗記をみてみよう。

 

<週刊Car&レジャー 1976年(昭和51年)12月11日号掲載>
ギャラン「ラムダ」2000GSR試乗記

・直進安定性は抜群
長く、低く、幅広いプロポーションとフロントスタイルをきりっと引き締めるスラントノーズ、ラップアラウンドリアウィンドーなど個性あふれるイメージでデビューしたギャランラムダ。そのスポーティモデルである2000GSRに早速試乗した。真紅といいたいような鮮烈なボディカラーに純白なストライプがベルトラインに走っている。室内はボディカラーとコーディネートさせた同系統の赤。バケットタイプのシートとドアの内側は赤と黒のチェック模様で、これまた強烈な印象だ。

試乗期間はそう長くなかったが、ラムダ発売の新聞広告が各新聞に一斉に掲載された翌日ということもあって、行く先、行く先で激しい注目を集めたものだった。今年になって何車種かニューモデルが発売されているとはいうものの、やはり自動車はニューモデルの発売が顧客誘引の最大のポイントと感じさせる一幕であった。

それはさておき、ギャランラムダの走り、とくに直進安定性は抜群の印象だった。ラムダのベースであるシグマも直進安定性、コーナリング性能が優れている点では定評がある車だ。そのシグマに比べてラムダはホイールベースこそ変わっていないが、トレッドが広く、車体がより低く、より広いスタイルになった。しかも、195/70HR14という超幅広のスチールラジアルをはいているのだから悪かろうはずがない。この期待通りの走りをみせてくれたラムダだった。

そのラムダに乗り込んだ第一印象として、やはりアストロン80エンジンの静かさを上げねばならないだろう。カラーコーディネートされたホットな室内の印象とは違って、このエンジン音の静かさは抜群といってもほめ過ぎではないだろう。タコメーターは確かに1000回転弱を指しているのだが、うっかりすると、またキーを回してしまいかねないくらいだ。市中走行ではよほど急な加速を試みない限り、エンジン音はほとんど気にならないといってもいいような静かさだった。

GSRはシグマと同じサスペンション(前輪I型アームのストラットタイプ、後輪アシストリンク付き4リンクタイプ)をやや固めにセットした「スポーツチューンサスペンション」となっているが、乗り心地は意外にソフトだった。その意味ではがっかりするユーザーがいるかもわからないが、今度の試乗は時間の関係もあって急なコーナリング、ラフロードなどに挑戦するチャンスがなかったからこのような印象を受けたのかもわからない。14インチのスチールラジアルも予想以上に音を拾わないのでいっそうスムーズさが心に残ったのかもわからない。

GSRのエンジンはツインキャブの115馬力。その性能についてはいくつかのレポートがある通り、発進、高速時の追越性能などに不満はない。時々、エンジンブレーキの利きが弱いかなあという気がした程度で、実用上に問題はない。

・“泣き所”も解消
ラムダの特徴の一つとして三菱は視界の良さを上げているが、後方視界はラップアラウンドリアウンドーの威力で、この種のボディタイプ車の泣きどころをほぼ完全に解消している。もっともロールバールーフリアピラーが邪魔にはなるし、設計上もっと細くすることは可能だが、あまり細くすると見た目にも不安を誘いそうなので現在の形におさまったという話だ。しかし、実用上このロールバールーフによる死角はそれほど気にならないという気がしたことも付け加えておこう。前方視界はブルーバードの細いピラーになじんでいるせいか、まあ普通のレベルというところか。

一本スポークのステアリングはデザイン上はともあれ、実際に使ってみた感じを気にする人がいるかもわからない。しかし、スポークに指をかけてハンドルを切るといったクセがある人でない限り普通の感覚で運転できる。メーターパネルが見やすくなっただけメリットがあるようだ。

ヘッドクリアランスは少々座高の高い試乗子の場合でも、握りこぶしが一つ悠々と通る。セダンと比べて狭いことには間違いないが、このタイプの車としては上々の方だろう。

リアシートへの乗り降りはドア幅がかなり大きくなっているようなので(実測はしていないが)比較的らく。足回り、ヘッドクリアランスにもかなり余裕がある。しかし、顔の位置がルーフとリアウインドーのちょうど境目にきてしまうので、日差しの方向によってはかなり気になることも考えられる。

・質の高さを追求
トランクルームは浅いが奥行きは十分。ガソリンタンクを室外に持ち出した結果なのだろうが、スポーティタイプのこの車で大きな荷物を運ぶこともまずないだろうから、これで十分。かえって使い良いという声が出てくるかもわからない。

駆け足の試乗であったが、今まで排出ガス対策に追われっぱなしだった日本の自動車産業も低公害性、経済性などを前提に新しい質の高さを追求した競争が始まる。東洋工業のコスモ、本田のアコードなどもその先鞭ということができるが、ギャランラムダの登場はそのような時代が遠からず本格化することを知らせるファンファーレのような印象を受けたものだった。

ラムダのインパネ周り。1本スポークのステアリングはメーターの視認性が良かった。シフトレバーやウインカーレバーなどの細さに驚く
広告は「Λの日」。意味はよくわからないが、インパクトはある

<解説>

「ギャラン Λ(ラムダ)」は、セダンの「ギャラン Σ(シグマ)」をベースに開発された2ドアスペシャリティで、1976年12月1日に発売された。

なお車名の「Λ」はギリシャ語で英語の「L」にあたり、Luxury(ラグジュアリー)の頭文字を意味している。三菱は「ギャランΛを乗る人の生活を、心を、本当に豊かに満たすクルマとして設計開発した。その三菱の設計思想を象徴するものとして採用した」としている。

当時は、排ガス規制への対応にも一応のメドがつき、モータリゼーションも成熟期に入ろうかという時代。ユーザーのクルマに対するニーズも、実用性や速さだけでなく、上質さやファッション性も求められており、それに対する三菱の回答がこのラムダであったといえる。クルマを持つ事が夢だった時代が終わり、日本全体に余裕が出てきたということだろう。

ボディサイズは全長4510mm×全幅1675mm×全高1330mm。ホイールベースはシグマと同じ2515mmだが、全長は210mm、全幅は20mm拡大、全高は30mm低く、ワイド&ローのスタイルを採用。エンジンは三菱が「4気筒で8気筒の静粛性を確保した」というアストロン80エンジンで、GSL、スーパーツーリングは最高出力105馬力のシングルキャブ、GSRはツインキャブで115馬力を搭載していた。

また装備面では、角型4灯ヘッドランプ、サイドに周りこむラップアラウンドのリアウィンドウ、一本スポークのステアリングホイールなどが国産車初採用。リアウィンドウやステアリングはデザイン面とともに機能面も考慮されて採用されたものだが、斬新な印象を与えた。

広告のキャッチコピーは「Λの日。」と意味不明だが、「ハードトップでもない、クーペでもない、まったく新しい2ドア・ファッショナブルカーの登場」とした通り、新鮮なスタイルは人気を呼び、ヒットモデルとなった。

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