<新型タント試乗> 便利、快適、安心の三拍子がそろった高実力モデル

試乗レポート

変わらず好調に推移している軽自動車市場だが、その中で人気はなんといってもスーパーハイト系と呼ばれる背の高いモデルだ。広い室内空間と使い勝手の良いスライドドアの組み合わせが、その人気の理由だろう。

このスーパーハイト系で、ここ数年トップを独走しているのはホンダN-BOXだが、そもそも「スーパーハイト系」というカテゴリーを創出したのは初代タントである。2003年の登場以来、それまで軽市場を代表していたワゴンRやムーヴといったハイトワゴンに替わり、多くのユーザーからの人気を集める格好となった。もちろん他社もこの動きを見逃すはずはなく、スズキはパレット(後にスペーシア)、ホンダはN-BOX、日産からはルークスと次々に同様の新モデルが登場、軽自動車の主力として現在に至っているというわけである。

さて、そんなタントだが、今年7月にフルモデルチェンジされ、4代目モデルとなった。そのポイントは、クルマの骨格であるプラットフォームから一新されたこと。ダイハツでは新世代のクルマ作りである「DNGA」(ダイハツ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)を既に発表しているが、その採用第一弾となったのが、この新型タントである。DNGAは多岐に渡るため、細かな説明はここでは省略するが、将来の電動化やコネクトサービスなども見据えながら、走行安定性や乗り心地、安全性など基本性能を大きく進化させたことが特徴である。

逆にいえば先代のタントは、ここが弱点だったともいえる。「ミラクルオープンドア」や「両側スライドドア」の採用などで優れた使い勝手を実現しながら、土台となるプラットフォームがやや古く、走行安定性や乗り心地の面では不満が残る結果となっていたのが実情だったというわけだ。特にホンダ、スズキが新世代プラットフォームを導入してからはその差が開き、これが販売台数の差にも表れていたといえるだろう。トップ独走中のN-BOX、SUVテイストで人気の「ギア」を擁する「スペーシア」に対し、タントが再びトップの座を奪還できるか、大いに注目されるところである。

タントカスタム(左)とタント(右)特にカスタムは先代に比べてスッキリとしたデザインとなったのが外観上の大きな特徴といえる
タントならではの「ミラクルオープンドア」は新型でも採用

新型タントのシリーズ構成は従来と同じ。標準の「タント」と上級の「タント カスタム」という組み合わせだ。エンジンは両シリーズともNAとターボを搭載している。今回はNAエンジンを搭載する「タント」のXグレード、ターボエンジンを搭載する「カスタム」のRSグレードの順で試乗した。

まず標準のタントに乗って感じたのは、乗りやすさ、運転しやすさが格段に向上したことだ。先代のタントでは気になった足回りの硬さがなく、しなやかな乗り心地だ。また車内の静粛性も大きく向上しており、発進時や急加速時はそれなりにエンジン音が入ってくるものの、巡航域に入ると極めて静か。NAエンジンだが必要なトルクは低回転域からしっかりと出ているので、街中の走りで不満を感じることはないだろう。

また特筆できるのは、シートの出来の良さだ。厚みがたっぷりとしており、ホールド性も良い。座面の長さも十分で、座り心地は抜群。軽自動車とは思えないほど心地よい。後席の座り心地も同様。先代では後席を格納した時に荷室をフラットにするため薄いシートにしていたが、新型では乗り心地を優先したという。どちらが良いかはユーザーによっても異なるが、軽自動車もファーストカーとして利用される割合が高まっていることを考えれば、後席乗員の快適性が高められたことはうれしいポイントといえるだろう。

室内のパッケージでは、ゆとりのある室内空間、足元空間はそのままに、さらに運転席が大きく下がる運転席ロングスライドシートが加わり、これまで以上に室内移動が快適になった。前後席を自由に移動できるので、子供を後席に乗せた時はもちろん、駐車場の形状や荷物の量に合わせて、スムーズに乗り降りすることができる。また半ドアにならない助手席イージークローザー、スライドドアが自動でオープンするウェルカムオープン機能など、便利さはこの上ない。もちろん、タントならではのミラクルオープンドアは新型でも採用されているので、乗り降りのスムーズさではライバルを大きく引き離している。

運転席シートが大きく後ろにスライドするので、移動の自由度が大きく増している
インパネ周りも整然とまとめられている。ルームミラーの位置が高く、頭を上げないと見えないのは、やや気になる

続いてターボエンジンを搭載する「タント カスタム」のRSグレードに試乗。先に試乗したNAエンジンは過不足ない、という印象だったが、こちらは明確に力強い。発進から巡航域までスムーズに加速するが、太いトルクによって通常の範囲ではアクセルをベタ踏みする必要がないため、静粛性でもNAエンジンを上回る。もちろん急坂でも力不足を感じることはない。

乗り心地としては、基本的にNAエンジン車と共通しており、足回りのセッティングも同等となっている。ただし実際に乗り比べてみると、装着しているタイヤによって多少異なる印象だ。今回試乗した車両は、NAのタントが14インチ、ターボのカスタムが15インチを装着していたが、14インチはマイルドで乗り心地に優れ、15インチは路面の接地感が高まることで、ややハード寄りの印象である。

今回は試すことが出来なかったが、全車速追従機能付ACCなど、先進安全・運転支援技術が充実したのも新型タントの大きなポイントだ。特にターボ車との組み合わせなら、長距離ドライブの疲労も軽減され、快適なドライブを楽しむことができる。日常での便利さに加え、週末の楽しさを大きく向上させた、まさに新世代の軽自動車といえるだろう。子育てファミリーはもちろん、幅広いユーザーにオススメできる実力モデルだ。(鞍智誉章)

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