断熱圧縮で発熱点火するディーゼルは別物だが、ガソリンエンジンでは、吸い込まれたシリンダー内のガスに、何らかの手段で点火しなければ燃焼が始まらないことは、誰もが知っている。
その点火システムにも多種類の方式が発明され進化してきたものだが、現時点での主流は、コンピュータで制御される、電子システムによる着火である。
電子制御着火になって、各部の調整整備が不要になり、白金やイリジュームなどレアメタル使用のスパークプラグと相まって、メンテナンスフリーも実現したが、現在のユーザーにはそれが当たり前、昔の苦労を知らないユーザーには、有難いなどという気持ちなどさらさらなさそうだ。
19世紀末、オットー・ダイムラーやカール・ベンツがガソリンエンジンを発明した頃の点火システムは、ホットチューブだった。こいつは、シリンダー壁を貫通する金属棒を外から加熱して、その熱を燃焼室に伝導、燃焼ガスに点火という方式だ。
何故かマグネットではなく、マグネトーと呼ぶ点火方式は、1876年に、フランス人のルノアルールが発明した。高電圧を極間に飛ばすスパークプラグの発明の特許、商用化に成功したのがドイツ人ボッシュ。現在でも使われているボッシュのマークは、そのマグネットのイラストだ。
このエンジンと共に回転する磁石で、高電圧を発生してスパークを飛ばす方式は、WWⅡ以後もバイクやボート用エンジンで使われ、現在でもセスナなど軽飛行機用エンジンは全てマグネトー点火だ。
そんなマグネトー方式に対抗して誕生したのが、バッテリー点火方式。エンジン回転に同期して断続する電気接点と昇圧コイルで、バッテリー電圧を数万ボルトに昇圧してプラグに送り放電着火する方式である。
20世紀は自動車発達の世紀だが、その期間内でもっとも長期にわたって活躍したのがこの方式だ。が、高回転になるにつれ電圧低下、最大のウイークポイントは、電気接点=ブレーカーポイントの放電による焼損、また各気筒へ高電圧を分配するディストリビューターも故障の原因だった。
給油所や修理屋任せでなく、私は自分でやったが、走行1500㎞ごとのエンジンオイル交換&グリースアップのついでに、焼けたポイントをオイルストンで平らに磨いてから回転部に注油、カーボンが付着したスパークプラグの清掃とギャップ調整など、大変ではあるがマニアには楽しい作業だった。
1960年代に入ると、日常生活に溶け込んできたトランジスタなどの電子部品を使って、WWⅡ前後を挟んで主流だった旧態依然とした前記点火システムの改良が始まった。目標は、性能向上とメンテナンスフリーである。
ポイントの焼損を防止するダイオード組み込みのコンデンサー〝ボンファイア〟などが記憶にあるが、とくに活躍したのが、今回紹介する永井電子の〝ウルトラ〟シリーズである。
当時の宣伝を受け売りすると“高回転時に従来方式では得られない強力スパークで、最高速度、加速力が20~30%アップ、燃費10~15%向上。ポイント焼損ディストリビューター故障など点火系トラブルが皆無になる”と。
強力トランジスタ2個組み込んだ放熱フィン付きアルミケース、専用高圧コイル、高圧コードなどのセットが、1万数千円だったと記憶する。
この手の機器には宣伝文句ほどの効果が期待できない物が多いが、永井のウルトラはレースカーやラリーカーにも愛用された数少ない本物の性能向上キットだった。
もっとも、永井電子のスタートは点火装置ではなく、エンジン回転計だった。
その話は、又の機会とする。