車が好きなら自動車ショーは楽しいもの。新しい車、未来の車、夢の車など目白押しだからだ。が、仕事柄、私の一番はクラシックカーに巡り会えた時である。
で、想い出すのは97年の第32回東京モーターショー。“想い出の名画を彩ったくるまたち”というテーマで、懐かしの車がたくさん並んでいたからである。
その中の一台を紹介しよう。日本自動車博物館所蔵のシトロエン11Bだが、WWⅡ前後を通じて姿をほとんど変えずに、長寿命54年まで活躍した名車である。
全長4450㎜、全幅1680㎜、全高1540㎜と扁平で低いシルエットが特徴だった。直列四気筒エンジンは、当時としては斬新なOHVで1911cc59馬力という性能だった。
さて今回の話題は映画だが、フランス映画“現金(ゲンナマ)に手を出すな”主演がフランスの大スター、ジャンギャバン御大で、これでベネチア映画祭主演男優賞を。相方の女優もスターのジャンヌモロー、そしてリノバンチューラという蒼々たる顔ぶれだった。
内容は、年老いたギャングの「これが最後の仕事」とオルリー空港で5000万フランの金塊略奪に成功するが、別のギャングに拉致された相棒との友情が断ち切れずに救出作戦。
最後は、卑劣なギャングと対決。マシンガンで大暴れ、その劇中を走り回るのがシトロエンというすんぽうだった。
実際のシトロエンも、低い車高の低重心にワイドトレッド、加えて前輪駆動独特な高い操安性で、警察御用達、その警察から逃れるギャング御用達でもあったのである。
評判がよい車で、イギリスでもライセンス生産されたほど。
映画完成は54年。日本では美空ひばりの“ひよどり草子”共演で中村錦之介(後の萬屋)映画デビュー、東映“雪之丞変化”で東千代之介デビュー、更に体重1万トン、身長50メートルのゴジラのデビューも54年のことだった。
戦前戦後と長寿命のシトロエンには、多くのバリエーションが生まれたが、ワイパーが上からというのが戦前、下からが戦後だと、パリのシャンゼリゼ通りのショップで聞いた。
トラクションアバン(前輪駆動)のネーミングでシトロエン11型が登場したのは34年。現在80才の私が誕生の1年前のこと。
アメリカでは、無慈悲な銀行に財産を取られた腹いせに銀行強盗を続け、大衆から拍手喝采を浴びた有名な男女二人組。ボニとクライドが警察に射殺され、一件落着が34年だった。
67年に“俺たちに明日はない”で映画化されたから、想い出す人もいることだろう
もう一つ有名事件も同じ年の出来事。FBIと対決しながら暴れ回った、アメリカ犯罪史上最も有名なギャング、デリンジャーが射殺されたのも34年。こちらは73年に映画化されている。
映画の話しばかり続いてすみません。もう消えてしまった日比谷映画が定員1700を自慢に開館したのも34年。当事「50銭均一てぇのが話題だった」とオヤジが云っていた。
そこで上演されたかどうかどうか知らないが、日本でも人気の“会議は踊る/リリアンハーベイ”“街の灯/チャップリン”“若草物語/キャサリンヘップバーン”なども34年生まれの名画である。
自動車ショーで見た、たった一台のシトロエンで、これほどに想い出が甦る、楽しいものだし、たいしたものである。