人気のコンパクトミニバン、トヨタ・シエンタが8月にフルモデルチェンジ。3代目となる新型シエンタは、先代シエンタの長所を継承しつつ基本性能を大きく進化させ、これまで以上に魅力的なモデルとなった。これまで以上に多くのユーザーに愛されるモデルとなりそうだ。
頭上空間、シート間隔とも広がり、快適性がアップ
シエンタは、5ナンバーサイズのボディにスライドドアと3列シートを備え、ファミリーユースからアウトドアレジャーユースまで幅広いニーズに応えることができる実用性の高さが、その人気の理由といえるだろう。
モデルラインアップは従来とほぼ同じで、パワートレーンはHVとガソリンが用意され、先代にあった6人乗りの設定はなくなったが、引き続き3列シート7人乗りと2列シート5人乗りを設定。駆動方式はガソリン車は2WD(FF)のみだが、HVには4WD(E-Four)もあり、幅広いニーズに対応することが出来る。この選択肢の豊富さもシエンタの人気の大きな理由といえるだろう。
今回はHV、ガソリンの両方を試乗。試乗車のグレードはどちらも最上級の「Z」で、3列シートの7人乗りだった。
車内に乗り込んでまず感じたのは、空間の広さ。全長、全幅は先代モデルと同じだが、車高が20mm高くなったことで頭上空間のゆとりが広がり、窮屈な感じがないミニバンらしい空間となった。運転席からの視界も開けていて、ボディの先端が見えることで車両感覚も掴みやすい。最新の先進装備を搭載していることも新型シエンタの特徴の一つだが、そういったデバイスに頼らずとも楽に取り回すことができるだろう。大きなミニバンは運転が怖い、という人でも、これなら安心だ。
後席のパッケージも改善。まずミニバンでは特等席となる2列目シートは、前席との間隔が80mm広くなり、足元、頭上とも広々。座り心地はやや硬めだが自分の楽な姿勢で座りやすいので、リラックスして過ごせそうだ。3列目シートは膝周りのスペースが改善され、居心地が良くなったとともに、頭上スペースが拡大されたことで乗り降りしやすくなった。基本的には短時間の移動用であることには変わらないが、それでも快適度は向上している。
インパネ周りは先代モデルから大きく変わった。どちらかというと先進感、上質感を狙ったデザインの先代に対し、新型は使い勝手を優先。インパネ上部にはファブリックを用いてカジュアル感も演出し、親しみやすく使い心地の良いデザインとなっている。収納スペースがとにかく充実しているのが大きな特徴で、ドリンクホルダーの横にはキャップを置く場所まで設けたり、メーターフードの前には箱ティッシュも入るスペースを用意、さらにゴミ袋を掛けられるフックを複数装備するなど、細かな配慮が行き届いている。新型コロナの流行以降、マスクを置いたり、乗車したまま食事をする機会が増えるなど、車内の利用環境の変化に伴って求められる機能も変わりつつあるが、これだけ収納スペースが充実していれば、小物の置き場に困ることはなさそうだ。なおシフトレバー横のスペースはドリンクホルダーではなく、スマホ置き場となっている。
HV、ガソリンとも軽快な走り
走りはHV、ガソリンともに満足できる。トヨタのコンパクトカーの走りはTNGAを初採用したヤリスから大きく変わったが、この新型シエンタも同様。骨格がしっかりとしており、無駄な動きがない。感覚としてはミニバンというよりもコンパクトカーに近く、これも取り回しのしやすさにつながっている。特にHVは車重が重くなることがプラスに働き、乗り心地もしなやか。ガソリンは足回りに硬さをやや感じるが、それでも不快というほどではなく、キビキビ走らせるのに向いている。またアクセルやブレーキ、ステアリングの操作に対しての反応が素直なのも好印象。機敏過ぎずダル過ぎず、イメージ通りの挙動となるので余計な神経を使うことがない。コーナーでもふらつくことがないので、後席でも車酔いしにくいのはファミリーユーザーにとって嬉しいポイントといえるだろう。
パワーはHV、ガソリンとも実用ミニバンとしては十分。特に街中で使う機会の多い時速70~80キロ辺りまでのスムーズさが秀逸で、かなり元気に走ることが出来る。高速道路への合流時など、一気に加速するシーンではやや音が大きくなるが、それも許容範囲。高速でも巡行域に入れば楽にドライブできるから、長距離ドライブでもパワー不足を感じることはない。
滑らかな乗り心地と低速域での力強いトルク感から、フル乗車で移動するファミリーユースならばHVをオススメしたい。一方でコンパクトワゴンとしてパーソナルで使うならばガソリンの方が楽しいかも。乗り味の違いが意外と大きいので、出来れば両方試乗して自分の好みに合った方を選んで欲しい。(鞍智誉章)