【三菱・アウトランダーPHEV試乗】市街地からオフロードまで堂々の走り、完成度の高い上質SUV

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自動車の電動化が急加速で進む中、その究極はBEVやFCVとなるのだろうが、コストや航続距離、インフラ整備など課題はまだ多く、現状はエンジンも備えたPHEVが最適解といえるだろう。その中で注目を集めるのが昨年12月に登場した2代目となる新型アウトランダーPHEV。世界初のSUVプラグインハイブリッド車として初代モデルが登場してから約9年、実績を重ねてきたモデルだけに期待も大きい。今回はその実力を公道とオフロードで試してみた。

「威風堂堂」、フラッグシップらしい風格が備わった

約9年ぶりの一新となったアウトランダーPHEV。新型はプラットフォームから刷新され、基本性能が大きく向上。大型のグリルを採用した外観も風格を備え、まさに三菱のフラッグシップにふさわしい充実したものになった。その開発コンセプトは「威風堂堂」としているが、その言葉通りの仕上がりだ。

シャープな印象の先代に比べ、新型は重厚な風格を感じさせる顔つきになった
少しわかりにくいがリヤハッチのラインは、パジェロの背面タイヤをモチーフにしたという。パジェロに代わる新しいフラッグシップというわけだ

運転席に座ると、先代との違いが一目でわかる。今回試乗したのは上級グレードの「P」だが、オプションのレザーシート(ライトグレー)も装備されており、上質感は抜群。シートはもちろんインパネやドアトリムなど室内の至るところに上質なソフトパッドが用いられ、贅沢な空間が演出されている。シートの厚みもたっぷりとしており、座り心地も良好。ゆったりと座ることが出来るのと同時に、サイドサポートもしっかりとしており、コーナーリングの際のホールド性も満足できる。

座り心地の良いフロントシート。滑りにくいキルティング調のデザインは先代から継承している

インパネは水平基調で前方の視界が良く、同時に室内空間の広さも感じさせる。先代に比べてボディサイズは全幅を60mm拡大、室内幅は10mm拡大しているが、実際の寸法よりも大きくなったように感じられるのは、水平基調デザインを採用したためだろうか。重厚感のある外観のイメージを裏切らない、ゆとりと質感を感じさせる室内だ。

また7種のドライブモードなど多くの機能を備えながら、12.3インチの大画面ディスプレイのメーターを採用するなどして、操作系が整然とまとめられ、スッキリとしているのも特徴といえるだろう。先代のシフトレバーは、操作性はともかく見た目はお世辞にもカッコイイとは言い難かったが、新型では最新の小型タイプとなり、見た目のスマートさも増している。

水平基調のインパネ。操作系も整理され、スッキリとした印象になった
新型シフトレバーの下には走行モードのセレクターを配置。EVモードやワンペダルのボタンは独立してシフト横に配置し、操作を迷わない

パッケージでは、新たに床下格納式の3列シートが選択できるようになった。これも進化によって小型化された新世代のPHEVシステムを搭載した恩恵といえるだろう。3列目シートのスペースは最小限なので、あくまでエマージェンシー的な使い方がおすすめだが、簡単な操作で格納・展開できるので、日頃は3列目を使わないというユーザーでも邪魔にならない。3列目シートを格納するとフラットかつ広大な荷室となるので、日常は広い荷室として使うことができる。

3列目シートはちょっと狭いが、短時間の移動なら十分使える

前後モーターのパワーアップで走りの良さが向上

搭載するPHEVシステムは、2.4Lエンジン+前後2基のモーター+リチウムイオンバッテリーの組み合わせ。構成自体は先代と同じだが、フロントモーターは最大トルクを137Nmから255Nmに大幅アップ、リヤモーターも最高出力を70kWから100kWにパワーアップさせ、駆動力を大きく向上させている。

PHEVシステムは新世代に刷新。バッテリー容量を増やすと同時にガソリンタンクも容量が増し、航続距離が大幅に伸びている

このため発進から極めて力強く、走りは快適そのもの。ごく低速域から高速域に至るまでスムーズにトルクとパワーが出てくるのでストレスがない。今回の試乗ではあえてバッテリーを満充電にせず、走行中にエンジンが掛かる状態であったが、その際のエンジン音もきっちりと抑えこまれており、室内は静かなまま。バッテリーの容量に応じて、モーターのみで走行する「EVモード」からエンジンをモーターがアシストする「パラレルモード」まで自動的に走行モードが切り替わるが、その切り替わりはごく自然で、意識していてもよく分からないほどだ。

座り心地の良いシートのためもあって、乗り心地はゆったりとしており、上級SUVらしい心地よさを感じる。しかし、クルマ全体がふんわりソフトというのではなく、クルマの動きそのものはシャープで動きに無駄がない。ボディは高剛性で無駄な動きがないが、しなやかな足回りを組み合わせることで乗り心地と走行性能のバランスを高次元で成立させている印象だ。このため街中から高速域まで快適。乗り心地重視の長距離ドライブ、スポーティに走りたいワインディング路、そのどちらでも運転を楽しめるだろう。

荒れた路面でも頼りになる本格的な4WD性能

今回の試乗会では、オフロードの特設コースも用意されていた。コースは短いながらも、締まったダートからフカフカの土、水気をたっぷり含んだ泥濘までバラエティに富んでおり、SUVとしての実力を試すには十分な状況だ。

高い走破性を実現したのも大きな特徴。4WD性能でもトップクラスだ

まずはドライブモード「ノーマル」で走行してみる。オフロードに向いたモードではないが、それでも走り切ってしまうのが凄い。ただし、ところどころで足を取られ、安定感にはやや欠ける。

続いてセレクターを回して「グラベル」モードに変更。未舗装路や濡れた路面で使用するモードだけに、コースとの相性が良い。走り始めから安定し、挙動の乱れも少ない。が、さらに良かったのが「MUD」モード。ぬかるんだ路面や深雪などの悪路で使用するモードで、感覚としては昔ながらの直結4WDに一番近い。グラベルモードの場合、泥濘の中では若干足を取られることがあったが、このMUDモードであれば力強く車を押し出し、不安なく前に進むことができる。

もちろん、雪道を除けば日常でこのような4WDモードを常用するケースは少ないだろう。しかし、いざという時でもこれなら安心。大容量のバッテリーを備え非常用電源としても活用できる事に加え、アウトランダーPHEVならではの頼もしさの一つといえるだろう。また山奥でのキャンプやアウトドアレジャーなど、本格的なオフロード性能が必要となるユーザーにもオススメできる。

PHEVとしての環境性能や走行性能に磨きをかけ、さらにSUVとしての4WD性能を充実、フラッグシップに相応しい上質感も備えた新型アウトランダーPHEV。高い人気を集めるのも納得、文句ナシの仕上がりだ。(鞍智誉章)

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