ホンダを代表する看板車種の一つがシビックだ。1972年の初代モデル誕生以来、来年で50年を迎えるという長い歴史を誇っている。今年9月にフルモデルチェンジした新型は、その11代目。「爽快シビック」をコンセプトに開発され、親しみやすさと特別な存在感を併せ持ち、乗員全員が「爽快」になることができるクルマを目指したという。この新型シビックを今回は公道で試乗。その高い実力には驚かされた。
見晴らしよく広い視界と熟成された使い勝手が心地いい
まず外観から見てみると、ボディサイズは全長4550×全幅1800×全高1415mmで、先代よりも全長は30mm延長。フロント周りを中心にデザインが整理されたこともあって、全体に伸びやかな印象だ。クリーンかつシンプルなラインで構成されており、上質感も感じさせる。一見して先代と違うのはフロント周りのデザインで、デコレーションが目立った先代に比べて、新型はスッキリ。このため少し落ち着いた雰囲気となった。
室内も一新。特にインパネ周りは直線基調のシンプルなレイアウトとなり、整然とした印象だ。また特筆できるのは視界の広さ。Aピラーの位置を下げたことに加え、インパネの高さを抑えることで前方の視界が広々とし、なるほど「爽快」である。ミニバンの見晴らしの良さをそのままに、目線の位置を下げたような感じで心地よく、また運転もしやすい。全幅1800mmとややワイドなボディだが、この広い視界で車幅の感覚が掴みやすいため、あまり大きさを意識することなく運転することができる。リヤにクォーターウインドウが新設されたこともあり、横や斜め後ろの視界も良好だ。
インパネ周りでは、特徴的なのが横一列に並んだメッシュ状のエアコン吹出口。デザイン的にも面白いが、機能面でも風の流れをうまく制御し、快適な空間を創出するという。その他にもディスプレーオーディオの手前に指を置けるスペースを設けたり、メーター表示を変更するステアリング上のボタンをロータリー式にするなど、細かい工夫が随所に施されているのもポイント。運転中、地味にストレスになるようなところまで配慮されているのが嬉しい。
先代も室内は広かったが、新型ではホイールベースが35mm拡大されたこともあって、より広さが増している。後席の膝周りはもちろん、頭上空間もしっかり確保しているので窮屈感がない。高さを抑えた外観からは想像もできないほどの余裕のスペースで、クラストップレベルの広さだ。シートは前後ともやや張りがあるが座り心地はよく、長時間のドライブにも最適、走行時の静粛性も極めて高く、これも快適なドライブを可能にしている。
「爽快」なクルマとの一体感
新型シビックで、最も進化を感じたのが「走り」だ。クルマとの一体感が実に心地よい。剛性が高くよれないボディにしなやかに動く足回り、リニアに反応するエンジン、無駄な動きのないステアリングによって、ドライバーの意図が忠実に反映されるイメージだ。乗り心地自体はやや硬めだが、少々荒れた路面でもショックを巧みに吸収し、快適さを損なわない。ステアリングの操舵感も軽すぎず重すぎず、バランスの取れたセッティングとなっており、カーブが連続する山道が実に心地よい。
搭載するエンジンは先代と同じ1.5L直4ターボの「L15C」型。最高出力は182ps、最大トルクは240Nmでスペックも先代と同じだが、改良によって加速や応答性が進化している。特に感心したのはアクセル操作に対する忠実な反応で、低回転域から瞬時に踏み量に応じたパワーを発揮。このためごく低速域から高速域まで、ぎくしゃくすることなく運転しやすい。ワインディング路などで積極的に走りを楽しむときはもちろん、ストップ&ゴーの連続する混雑した街中でも気を遣わずに運転することが可能だ。
トランスミッションも、先代と同じくCVTと6速MTを設定するが、どちらも改良が加えられており、こちらの進化も大きい。特に心地よさを感じたのは6MTで、ショートストロークされたこともあって小気味よくシフトが入る。クラッチペダルもつながりにクセがなく、余計な気を遣わずにドライブできるのが嬉しい。ベテランはもちろん、MTは不慣れというドライバーでも安心して運転することができるだろう。
スポーティ感を押し出し、精悍だがアクの強かった先代シビックに比べて、ややおとなしい印象になった新型シビックだが、実際には先代よりも走りのポテンシャルが大きく高められている。スポーティ派はもちろん、上質なハッチバックが欲しいという大人のユーザーにも最適なモデルだ。魅力的なモデルが多いCセグハッチバックだが、その中でもトップクラスの実力といえるだろう。来年にはタイプRの登場も予定されているが、このベースグレードの完成度の高さから見ても、大いに期待できそうだ。(鞍智誉章)