【トヨタ・新型アクア試乗】スムーズな加速が心地よい新世代のコンパクトHV

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2011年の登場以来、大ヒットモデルとなったトヨタ「アクア」が7月にフルモデルチェンジし、2代目へと進化した。新型もハイブリッド専用のコンパクトカーという位置付けは変わらず、日常ユースを主眼にした実用ハッチバックという性格も同じだ。しかし、その中身は全くの別物で実力は飛躍的に進化。実際に試乗してみて、そのことを実感させられた。

新型バッテリー搭載で、スムーズで力強い加速

試乗してみて、まず感心させられたのは走りだ。発進から高速域に至るまでパワーに十分過ぎるほどの余裕があるのに加え、その加速のスムーズさはクラストップレベルといえる。その滑らかな加速感は、正直に言って燃費重視の実用コンパクトにしておくにはもったいないほど。トルクの谷もなく、その力強い加速は下手なスポーツカーを凌ぐほどだ。

これは、新たに搭載された「バイポーラ型ニッケル水素電池」の恩恵といえるだろう。先代アクアが搭載していたニッケル水素電池に比べ、バッテリー出力が2倍になったことで、力強く、またアクセル操作へのレスポンスが向上している。モーターのみで走行できる速度域も拡大されたことも大きい。時速40キロを超えるとエンジンも加わるが、その連携もシームレスで体感ではわからない。軽やかに一直線に加速していく。

また、その加速時の静粛性も申し分ない。速度を上げていっても室内は静かなままだ。コンパクトなハイブリッド車の場合、アクセルを踏み込んでエンジンが回転を上げると一気に騒がしくなってしまうことが多いのだが、新型アクアではそのようなシーンでも余計な音や振動はなし。急な坂道などでもストレスを感じさせない。

その一方で、足回りは穏やかなマイルド系。プラットフォームを共用するヤリスハイブリッドはカッチリした足回りでスポーティな味付けだが、アクアは硬めのセッティングが多い最近のトヨタ車では珍しいほどソフトな足回りで、乗り心地優先。ヤリスと比べてまったく異なる性格付けとなっているので、選択に困ることはないだろう。走りを積極的に楽しむのならキビキビ型のヤリス、日常での快適性を優先するならアクアが最適だ。

整然とした配置で使いやすいインパネ周り

外観デザインの基調は先代アクアを踏襲。ただ顔つきはシャープなラインの多かった先代に比べ、カドを丸めた優しいマイルド系に。積極的な走りをアピールするべくエッジの効いたヤリスとは狙う方向性が異なることが一目でわかる。現行フィットなどもそうだが、生活実用型を指向したモデルは、フラットな印象とするのがトレンドといえそうだ。ただそのせいか、デビュー直後の新型車の割に、いささか地味に見えるのはちょっと損している気もする。

フロント周りはカドが取れ、優しい顔つきに
リヤは独特な形状のバンパーで踏んばり感を演出している

一方、室内のデザインはインパネ周りを中心に大きく変わった。

まずメーター周りではセンターメーターを採用していた先代に対し、新型では通常タイプに変更。代わってセンター上部にはディスプレイオーディオが位置し、操作性・視認性とも向上。その画面サイズは上級の「Z」グレードでは大型の10.5インチとなるが、今回試乗した「G」グレードでは7インチ。一回り小さいが、見やすさはこれでも十分だ。前方の視界も広く、運転もしやすい。

シンプルにまとめられた新型アクアのインパネ

またシフトはゲート式から電気式セレクターとすることでコンパクトになり、パーキングブレーキもレバー式から足踏み式にすることで、運転席周りもスッキリ。無駄なスペースがなくなり、整然とした印象だ。シフトレバーはプリウスのものよりやや大きめで、操作がしやすい。さらに、シフトパターンが横に表示されているのもわかりやすい。プリウスの場合、シフトレバー上にパターンが表示されているので、操作する時は手に隠れて見えなくなってしまうからだ。

シフトレバーは操作しやすいサイズ。パターン表示が横にあり、わかりやすくなっている

運転席のメーターは大型で、位置が遠いうえに文字も小さかった先代に比べ視認しやすくなった。誤操作防止のためもあってか、シフトポジションがメーター内に大きく表示されるのも安心できるポイントといえるだろう。カッコよく見せることより、わかりやすさが優先だ。新型アクアでは、誤操作をとにかく減らそうと工夫していることが随所にうかがえる。

メーター内にはシフトポジションと速度が大きく表示される

シートは厚みがあり、しっとりとした座り心地。腰を下ろした際の沈み込みは比較的大きく、優しく体を包み込む感じだ。またステアリングにはチルトとテレスコの両機能が備えられているので、幅広い体格に合わせることが可能となっている。

前席シートは座り心地も良好

後席はもう少し余裕が欲しい

先代アクアのパッケージは明確に前席優先だったが、新型ではホイールベースが延長され、足元空間が広くなったことで、後席の居住空間も改善された。ただし、これは先代アクアや新型ヤリスと比べての話。特等席は新型でもやはり前席だ。

後席は直接のライバルであるフィットやノートに比べ、ややタイトな印象。実際のスペースそのものは決して狭いわけではないのだが、頭上空間にあまり余裕がないことと、後席ドアの後端が持ち上がっていて横の視界を遮るため、閉塞感がある。また後席シートにはリクライニングやスライド機構がないのもちょっと残念なところだ。

後席スペースは先代よりも拡大。ただ窮屈感は残る

一方、荷室は、コンパクトクラスとしては満足できるもの。奥行き、深さともに十分なサイズとなっており、日常で不便を感じることはないだろう。

快感ペダルは今後の発展に期待

新型アクアのアピールポイントの一つが、初採用となった「快感ペダル」だ。これはアクセルペダルの操作だけで加速・減速を行えるというもので、基本的な考え方は日産がノートやセレナに採用している「e-ペダル」と同じもの。新型アクアの場合、ドライブモードから「POWER+」を選択すると、この「快感ペダル」になり、加速時の力強さが増すと同時に、減速が強くなる。

注意したいのは、発進から停止まで、ほぼ「ワンペダル感覚」でこなす日産e-ペダルに比べると、「快感ペダル」は減速が緩やかで、あくまでペダルの踏みかえ頻度を少し減らす程度となっていることだ。運転中アクセルを戻すと瞬時に減速が始まるが、徐々に減速スピードが鈍くなり、その後は空走するような感じになる。感覚的には「Bレンジ」に近い印象だ。

実際に試してみると、低速でのストップ&ゴーが連続するような混雑した街中では、結局ブレーキに踏み変える回数はあまり変わらず、時速50~60キロ以上である程度流れている道路の方が、その恩恵を感じられた。そういうシーンならば、確かに微妙な速度調整は行いやすい。

ただ、一人で乗っている時は強く、同乗者がいるときは弱く等、減速の強さが選択できれば、もう少し活用の幅が広がるかな、というのが正直な感想。今後の発展に期待したいところだ。(鞍智誉章)

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