雪道に強いのはどれ?ヤリス・フィット・ノートの4WDシステムを比較

コラム・特集

昨年はコンパクトカーの当たり年で、トヨタ・ヤリス、ホンダ・フィット、日産・ノートが相次いでフルモデルチェンジ。新世代のコンパクトカーらしくどれも高い実力を備えているが、注目は3モデルとも充実した4WDシステムを備えていること。北海道や東北など雪の多いエリアでは4WD車が必須だが、特にハイブリッド車の4WD性能の向上はうれしいところ。そこで今回はこの3モデルの4WDシステムを比較してみた。(編集部)

 

【ヤリス】トヨタのコンパクトHVでは4WDを初搭載

ヤリスにはガソリン車とハイブリッド車があるが、ハイブリッド車はトヨタのコンパクトカーでは初めて「E-Four(電気式4WDシステム)」を搭載したのが特徴だ。アクアやヴィッツハイブリッドには4WDがなかったから、ヤリスの登場でようやくトヨタのハイブリッドでも4WDが選べるようになったというわけである。こんなところも、ヤリスの人気が高い一つの理由といえるだろう。

このヤリスが搭載する4WDシステムは、ガソリン車が「アクティブトルクコントロール4WD」を搭載。ハイブリッドは前述の通り「E-Four(電気式4WD)システムを搭載している。

まずガソリン車が搭載している「アクティブトルクコントロール4WD」は、電子制御カップリングを用いた4WDシステム。90年代後半に登場して以来、多くのFF車に搭載されているオーソドックスなシステムだ。

路面や運転状況から、前輪駆動状態と4輪駆動状態を自動的に制御するもので、トルク配分は前100:後0~前50:後50の間で自動的に可変。メカニズムを小型軽量に出来、必要な時以外はFFに近いため、燃費性能に優れているシステムだ。悪路走行等には向いていないが、日常生活レベルなら十分な機能を持っている。

一方ハイブリッド車が搭載する「E-Four」は、エンジン+前輪モーター+後輪モーターというシステム。通常時はエンジンと前輪モーターで走行し、発進時などトルクが必要な時に後輪モーターも駆動させる方式だ。ヤリスの場合、前輪は80ps・141Nmのモーター、後輪は5.3ps・52Nmのモーターを搭載しており、大トルクが必要になる発進時に強力にアシストする。

トルク配分は発進時は前8:後2、走行中は必要に応じて最大前4:後6まで自動的に前後トルクを可変させる。ただし後輪がアシストするのは時速70キロまで。それ以上の速度では前輪のみの駆動となる。基本的には滑りやすい路面での発進時から一般道での走行時に向いたシステムといえるだろう。

なお、この「E-Four」はプリウスやヤリスクロス、RAV4、ハリアーなど多くのトヨタHVに採用されているが、RAV4やハリアーではトルク配分やアシスト可能な最高速度が異なり、さらに走破性能が高められている。ちなみにRAV4の場合はトルク配分が前10:後0~前2:後8で可変、後輪アシストは時速180キロまで可能だ。

【フィット】発進時から走行時までバランス型の4WDシステム

ヤリス同様、フィットもガソリン車とハイブリッド車を設定するが、ガソリン車とハイブリッド車で異なる4WDシステムを搭載するヤリスに対して、フィットはどちらもプロペラシャフトを用いた「ビスカスカップリング式」の4WDシステムを搭載している。

これは通常時はFFで走行するが、前輪が滑り始めるとこれを検知して駆動力を後輪に伝えて4WDになるというシステム。スタンバイ式4WDの中では古くからある技術で、低コストに出来るのも強みだ。

ちなみにホンダでは、SUVの「ヴェゼル」では高精度に制御された電子制御カップリングを用いて滑る前にこれを予知し、前後の駆動力配分をきめ細かく制御する「リアルタイムAWD」を搭載しているが、フィットではそこまでの性能は必要ないと判断したのだろう。

プロペラシャフトが必要になることもあって、コンパクトクラスのハイブリッド車ではレイアウトの都合で難しく、独立した小型モーターで後輪を駆動させる方式を採用することが多いのだが、ホンダでは独自の技術でこれを解決。ハイブリッド車にもプロペラシャフトを用いた4WDシステムを搭載している。

後輪モーター式との大きな違いは、全速度域で後輪を駆動できること。モーター式の場合、車速が上がるとアシストが切れるが、ホンダの方式は車速が上がってもトルクが途切れず、安定して走行することが可能だから、雪道でのカーブなどでも安心できる。

また2モーターのe:HEVになってトルクが向上しているため、後輪に伝えられるトルクも向上しているのも安心できるポイントだ。

【ノート】高精度・高出力な後輪モーターで高いパフォーマンスを実現

20年12月に発売された新型ノート。登場時はFFのみだったが、21年3月には4WDも追加された。

ヤリス、フィットと異なり、前輪、後輪ともモーターで駆動するのがノートの4WDの大きな特徴だ。この前後輪モーター駆動という方式は、先代ノートe-POWERの4WD車と同様。しかし、モーター出力がまったく異なっているため、システムはまったくの別物となっている。

参考までに先代ノートe-POWERの後輪モーターは最高出力4.8ps、最大トルク15Nm。滑りやすい路面での発進時に少しアシストしてくれるが、車速が上がるとキャンセルされ、普通のFFになるタイプだ。ヤリスのE-Fourと同じく、いわゆる生活四駆である。

これに対して新型ノートの4WD車が搭載する後輪モーターは最高出力68ps/100Nmと超強力。出力は14倍、トルクは6.6倍も上回り、全車速に対応する。

トルク配分は、状況に応じて前52:後48から前70:後30まで最適に制御。高精度で幅広い領域でトルク配分を制御できるのは強力なモーター駆動ならではの大きな強みといえるだろう。

結果として、通常の雪道での安定した走りはもちろん、深雪や凍結路でも安心感は高い。さらにドライ路面でも前後のピッチングが抑えられ、常にフラットな姿勢を保つことができるのも特徴。コーナーリングでの安定性も大きく高まっており、上質な乗り心地を実現している。単に「雪道でも安心」というレベルを大きく超越しているのが、新型ノートの4WDといえるだろう。

街中での雪道走行ならどれも十分。+αをどう考えるか

ほぼ同時期に登場したコンパクトカー3モデルだが、4WDシステムは3モデルでまったく異なっており、方向性にも違いが感じられる。

まず、本格的なフルタイム4WDに近いのがノートだ。全車速域で高精度かつ緻密な制御を行い、優れた走行安定性と乗り味を実現している。従来の生活四駆の域を超えたシステムといえるだろう。逆にいえば、雪がそれほど深くない地域で、街中でしか走らないというのであれば少々オーバースペック気味。高性能だけに価格はやや高く、FF仕様と比べ25万8500円高。燃費もFFの34.8km/Lに対し、4WDは28.2km/L(Xグレードの場合・WLTCモード)と若干悪くなる。

生活四駆として過不足ないのはヤリス。ガソリン車、ハイブリッド車とも、通常の雪道走行なら満足できる実力を備えている。FF仕様との価格差は約20万円、燃費はFFの35.4km/Lに対し、4WDは30.2km/L(ハイブリッドZグレードの場合・WLTCモード)だ。しかし、もしももっと悪路を走りたい、雪深いところでも安心したいというのであれば、カテゴリーは異なるが上級の「ダイナミックトルクコントロール4WD」+「マルチテレインセレクト」を装備するヤリスクロスのガソリン車を選択したい。こういう選択が可能なのもトヨタ車の強みだ。

フィットは、ノートとヤリスの中間。滑り出しの感知はヤリスが早いが、車速が上がっても作動する点ではフィットが上回る。ただし制御そのものはノートほど緻密ではなく、必要十分なバランス型といえるだろう。FF仕様との価格差は約20万円、燃費はFFの29.4km/Lに対し、4WDは25.6km/L(ハイブリッドBASICの場合・WLTCモード)となっている。

結果として、街中での雪道走行なら、どのモデルでも十分満足できるはずだ。後はそこに価格や燃費も考慮しながら、高速域での走りや乗り心地をどの程度重視するか、ということになる。これは住んでいるエリアや使い方によっても異なるから、何を優先するか、じっくりと考慮したいところである。

Tagged