4月23日に発売となったホンダの新型「ヴェゼル」。事前受注だけで1万7000台と好スタートを決め、正式発売後も絶好調だ。となると気になるのは競合車への影響。激戦区ともいえるコンパクトSUV市場の中で、どのような動きを見せることになるのか、考察してみたい。(編集部)
キックス、ヤリスクロス登場で一気に激戦区に
高い人気を続けているSUVだが、その中でもここ数年でラインナップが充実し、急速に勢いを伸ばしているのがボディサイズの小さいコンパクトSUVだ。19年11月にトヨタ「ライズ」/ダイハツ「ロッキー」が登場するまでは、初代「ヴェゼル」とトヨタ「C-HR」が市場を分け合うような形で推移してきたのだが、ライズ/ロッキーに続いて、20年6月には日産「キックス」が登場、同8月にはトヨタ「ヤリスクロス」が登場し、一気に選択肢が増えることになった。
ヴェゼルから見ると競合車が突然増えた格好になるわけだが、そのタイミングはちょうどモデル末期に重なったことになる。
初代ヴェゼルが登場したのは2013年12月だが、ここ数年の販売台数は、
2017年:6万4332台
2018年:5万9619台
2019年:5万5886台
2020年:3万2931台
と19年まで6万台弱で安定して推移していたのが、20年は約4割減と急減している。20年は新型コロナウイルスの影響で生産が一時滞るなどの影響もあったので一概にはいえないが、他のコンパクトSUVが増えたことも販売台数減の要因の一つとなったことは確かだろう。
ちなみに20年のトヨタ・ライズの販売台数は12万6038台、6月に発売された日産キックスは1万8326台、8月に発売されたトヨタ・ヤリスクロスは3万2810台であった。ヤリスクロスは販売期間実質4カ月でヴェゼルの年間販売台数とほぼ同等の台数を販売したことになる。21年はさらに販売を伸ばしそうだ。またC-HRは3万3676台であった。
新型ヴェゼルはキックスを直撃
現状をざっと見たところで、ここからが本題だ。21年のコンパクトSUV市場は、新型ヴェゼルの登場でどのような様相になるのであろうか。
まず、新型ヴェゼルが登場してもあまり影響を受けそうにないのが、ライズとヤリスクロスだ。ライズはサイズ的にも1クラス下で、直接競合するケースは少ない。またヤリスクロスも厳密にはクラスが異なる。これは前席重視のパーソナルカーという位置付けであり、ファミリーユースに適したヴェゼルとはユーザー層が少し異なっている。競合することはあるものの、数としては多くない。
一方、直接影響を受けそうなのが日産キックスだ。キックスにはe-POWERという他にはない個性があるものの、ボディサイズや室内の広さなどはヴェゼルに近い。となれば、価格やデザイン、e-POWERと2モーターHVの走りの好みで、どちらかを選ぶという人が多そうだ。
ただ絶対的な販売台数という点では、ヴェゼルの方が圧倒的に優位である。先代ヴェゼルの国内累計販売台数は約45万台もあり、膨大な代替需要が見込めるためである。対してまったくのブランニューモデルとして登場したキックスにはこれがない。
さらに販売店の注力度合いもヴェゼル優位だ。ホンダの場合、21年に登場する予定の新型車は少なく、拡販が期待できそうなのはヴェゼルのみ。ということは販売店もヴェゼル販売に全力投球が続くということになる。対して日産は新型ノートが登場した直後ということに加えて、秋には新型エクストレイルが登場予定。こちらは代替需要も多いから、販売活動はキックスよりも優先ということになるだろう。
そんなわけで販売台数としては、ヤリスクロス、ライズが上位に付け、続いて新型ヴェゼルがこれを追うという形になりそうだ。
カローラクロスがヴェゼルを追撃?
ただし、トヨタから噂されている「カローラクロス」が登場すると、話はまた変わってくる。現在のトヨタSUVラインナップで、ヴェゼルと同クラスになるのはC-HRだが、これは変化球みたいなモデルで、まったくキャラクターが異なり、競合することは少ない。トヨタでファミリーユースに使えるSUVを選ぶとするとRAV4かハリアーということになるが、RAV4とヴェゼルではこれまたクラスが全然違うので競合しない。逆にいえばトヨタのSUVラインナップは、このヴェゼルと同等のクラスにオーソドックスなモデルがなかったのが弱点だったといえるが、この穴を埋めるのが「カローラクロス」というわけだ。
このカローラクロスは、ヴェゼルに直接競合する。新型ヴェゼルは充実した内容を持つが、それでもこの強敵にはかなり苦戦しそうだ。コンパクトSUV市場は現在でも激戦区となっているが、今後さらに白熱していくことは間違いないだろう。