2017年から発売されている現行モデルで、初のマイナーチェンジを実施したホンダ・シビックタイプR。デザインの刷新だけでなく、冷却性やブレーキ制動力、サスペンションのセッティングなどを見直し、ホンダのスポーツモデルの象徴である“タイプR”を冠するにふさわしい走行性能に、さらなる磨きがかけられた。
エクステリアは、フロントグリルの開口面積を従来のモデルから大きくすることによる冷却性能の向上と、フロントバンパーエアスポイラーの形状変更などで、従来モデル以上のダウンフォースレベルを実現。一見するとマイナーチェンジ前と大きな変化を感じないが、サーキット性能の進化を目指し細部までこだわり抜いているポイントだ。
スポーツカーに乗るという“特別な時間”を充実させるため、インテリアの質感向上も図られた。ステアリングはホンダ初のフルアルカンターラ表皮とし、握りの質感とフィット感を向上させ、車両の挙動をよりダイレクトに感じられるようにした。アルカンターラ表皮は本革より生地の肉厚が薄く、グリップ径が細くなることから裏地を2枚重ね、グリップ径を維持。素材に合わせた弾力性をチューニングすることで、質感と機能性を大幅に高めた。
直列4気筒2.0Lターボに6速MTを組み合わせるパワートレーンは不変。ワイド&ローのスタイルや存在感のあるリヤスポイラーなど、外観はいかにもスポーツモデルであるが、乗り降りでは屈み込むようなこともなく、着座位置や運転席からの眺めも極端に低くないのが印象的だ。
■乗り手を選ばないスポーツカー
エンジンの始動やアイドリングも思いのほか静かで、走り出してみると乗り心地も望外に良好である。もちろん一般的な乗用車と比べれば硬いのだが、搭載する可変ダンパーは路面からの入力をと柔らく吸収し、一発で収束するので身体に響くようなショックはほぼ感じなかった。低速域での乗り心地は明らかにマイナーチェンジで進化を果たしており、これなら同乗者から不興を買うことは少なそうだ。
シートはスポーツカーらしくホールド性が高く、今回の試乗では500kmほど運転したが、長距離のドライブでも良好な乗り心地と合わせて疲れを感じにくかった。サーキット走行も可能な性能を持ちながらコンフォート性も十分に備えており、ひたすらスパルタンだった以前のタイプRと比べ、乗り手を選ばないスポーツカーとして熟成されてきた感がある。
走行モードは3種類あり、コンフォート、スポーツ、+Rのうち、+Rは実質的にサーキット専用と言える。コンフォートでも基本的にフラットライド感が高く不満はないが、足回りが引き締められるスポーツは、特にワインディングなどコーナーが連続する場面でその真価を発揮。コーナーインでは吸い付くような操縦追従性、旋回からの加速ではよりスムーズで収まりの良い車両姿勢を実現していて、クルマとの一体感あふれるハンドリングは出色の出来栄えだ。
最高出力320PS/最大トルク400Nmを発揮する2.0Lターボの走りは刺激に満ちていて、特に中間加速から高速域ではスペック以上の速さを如実に体感できる。アイドリング中は鳴りを潜めていたエンジンも、4000pmを超えた当たりからは野太い音を響かせ、ターボならではの強烈な加速を見せてくれる。
6速MTのシフトレバーはフロアに配置。足元の窮屈感もなく、クラッチはリッターカーのスポーツカーに比べるとやや重たさは感じるが、ペダルの動きはスムーズなので扱いにくさは無くミートポイントもわかりやすい。
さらに特筆すべきは、ショートストロークでダイレクト感のあるシフトフィールだ。1速に入れた時から引っ掛かりが一切ない滑らかさと、適度な節度感を手のひらに伝える。シフトノブを握るというよりは、手のひらを添え左の手首を返すというシフトの操作感は非常に気持ち良い。先日試乗したGRヤリスのシフトフィールはやや渋く重厚感があり、シビックタイプRとは対象的なフィーリングであった。
また、マイナーチェンジでホンダセンシングを採用し、衝突被害軽減ブレーキや車線維持支援をはじめ、ACCといった先進装備も搭載された。乗り心地を含めて幅広い人におすすめできるのだが、残念なことにすでに新規受注は終了しているとのこと。タイプRを生産する英国の工場が2021年中に閉鎖予定となっており、後継モデルなどは現時点で不透明であるが、このDNAが何らかのクルマに受け継がれることを切に願うばかりだ。