GRヤリスは、マスタードライバーであるモリゾウこと豊田章男社長の「トヨタのスポーツカーを取り戻したい」という想いのもと、「モータースポーツ用の車両を市販化する」という逆転の発想で開発したトヨタ初のモデル。車両パッケージは「空力、軽量、高剛性」を追求。数々のスポーツモデルを生産してきた元町工場に専用ライン「GR FACTORY」を新設して、「匠」の技能を有する従業員が開発で目指した性能を造り込むというこだわりぶりだ。
グレードは3タイプを設定。新開発の直列3気筒1.6Lターボエンジンを搭載し、スポーツ4WD“GR-FOUR”を組み合わせる「RZ」、GRの走りを気軽に楽しめる1.5LエンジンにCVTを組み合わせるFFモデル「RS」、競技ベース用の「RC」のグレードで構成され、最上級グレードモデルとして、より限界性能を高めた「RZ“High performance”」も設定されている。
ボディタイプもベースモデルとは異なり、ヤリスは5ドアハッチバックであるのに対し、GRヤリスは3ドアハッチバックとなっているのは大きな違い。サイズは全長3995mm(ヤリス比+55mm)×全幅1805mm(同+110mm)×全高1455mm(同-45mm)となり、ヤリスよりボディサイズが拡大されている。
■欧州車に比肩する質感の高い乗り味 RS
まずは、エントリーのRSから試乗する。RSに搭載される1.5Lエンジンの最高出力120PS/最大トルク145Nmというスペックは、ヤリスの1.5Lガソリン車と同じだが、RZと同様にボンネット、ドア、テールゲートはアルミ製、ルーフはカーボン製で、ボディ各部も補強されている。
組みあわされるミッションはGRヤリス唯一のCVT。10速シーケンシャルシフトマチックは、日常の速度域ではトルコン式ATのように淀みなくシフトアップしていき、ワインディングなどではMT感覚で運転が楽しめる。
また、ヤリスのサイドブレーキは手動であるのに対し、RSは電動パーキングブレーキが採用されていることもポイントだ。
乗り心地は当然ノーマルヤリスより硬めなのだが、路面からのショックは上手くいなされており、不快さを感じるレベルでは無かった。基本的にはどの速度域でもフラットライド感が高く、スポーティな走りと質感の良い乗り心地を両立する。
シートもホールド性が高く、乗り心地と合わせて長距離のドライブでも疲れにくそう。ベースのヤリスと比較すると100万円以上高いが、欧州車に比肩するドライブフィールの良さを備えたコンパクトカーとしては、265万円という価格は割高には感じなかった。
■エンスージアスト向けのHigh performance
続いて試乗したのは、最上級グレードのRZ“High performance”。エクステリアにグレード毎の差異はなく、インテリアも基本的に同じだ。見た目は明らかにスポーツモデルであるが、屈みこんで乗るようなこともなく、着座位置や運転席からの眺めは一般的な乗用車とそれほど変わりはない。
エンジンを始動してもアイドリング時は静かだが、走り出すとRSで感じられた以上の骨太な乗り心地を体感できる。RSは日常使いでも問題ない乗り味であったが、RZの足回りはかなり引き締められていて、段差や継ぎ目では路面からのインフォメーションが明確にキャビンへ伝わる。街乗りだけを考えると、もう少し穏健なセッティングでも良いと思うが、サーキット走行やモータースポーツユースも視野に入るHigh performanceにおいては、この硬派なセッティングも頷ける。
最高出力272PS/最大トルク370Nmを発揮する1.6Lターボの走りはかなり刺激的。アクセルを少し踏むだけであっという間に高速の制限速度まで達し、高速の合流や追い越し、登坂路では登り坂であることを感じさせないほどの加速を見せ、スペック以上の速さを如実に体感できる。アイドリング中は鳴りを潜めていたエンジンも、3500rpmを超えた当たりからは野太い音を響かせ、速度とともに高まるフラットライド感を合わせて気分を高揚させる。
6速MTのシフトレバーはフロアに配置。シフトフィールは重厚さを感じさせるが繋がりにくくいということも無く、試乗を通じて扱いにくさは感じなかった。足元の窮屈感もなく、クラッチはリッターカーのスポーツカーに比べるとやや重たさを覚えたが、ポイントを掴めばクラッチミートも容易であった。
また、コンピューターがドライバーのクラッチ、シフト操作にあわせて、最適なエンジン回転数になるよう制御を行うiMTも採用しており、シフトダウン時などでブリッピングを行うので、シフトショックのない変速も可能としている。なお、iMTは任意でオン・オフできる。
ドライバーの操作に対してクルマが正確に挙動する一体感の高さはHigh performanceの真骨頂と言えるが、公道の速度域ではその性能の一端しか体験できない。やはりこのモデルが本領を発揮するのはサーキットなどクローズドの環境下であり、走る楽しさをとことん追求したいエンスージアスト向けのモデルと言える。
気軽なスポーツ走行を楽しめるRSから、RZのようにモータースポーツ競技まで広く対応するGRヤリス。CAFEなどの環境対応規制によって、ピュアなガソリンエンジンを搭載したスポーツモデルが減少するなかで、今後こういったモデルを購入できるチャンスはそう多くはないだろう。気になる人はぜひ試乗してみてほしい