トヨタ・初代コルサ/ターセル試乗記 【アーカイブ】

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新型ヤリス、新型フィット、そして年内にはノートもフルモデルチェンジを予定するなど、2020年はコンパクトカーの話題が多い年だ。さて、コンパクトカーと言えば、今やFFが当たり前だが、70年代まではまだまだFR車も多かった。特にトヨタはFR駆動へのこだわりが強かった。

そのトヨタが初のFFを発売したのは1978年、初代コルサ/ターセルが第1号だ。今回はその試乗記を紹介しよう。記事は、長年週刊Car&レジャー紙上でメカニズム解説記事を連載していた故・鈴木五郎氏によるものである。

<週刊Car&レジャー 1978年(昭和53年)8月26日号掲載>
「試乗レポート トヨタ・コルサ/ターセル」

噂が長らく先行していた「トヨタのFF(フロントエンジン・フロントドライブ)車コルサ/ターセル」が発表された。

ボディのシルエットは、2ボックスタイプの3ドアと、ノッチバックスタイルの2ドア・4ドア車とがある。

エンジンは1.5L(1452cc)。直列4気筒OHCの1A-U型。このたび新たに開発されたエンジン。圧縮比は9.0で、最高出力は80ps/5600rpm、最大トルクは11.5kgm/3600rpmを発揮する。

車格としてはスターレットとカローラの間に位置するものとして設計されている。トヨタは「新大衆車の出現」と称している。カローラなどとともに新しいユーザー層を広げようとする車種である。

早速試乗してみる。広い室内空間が印象的だ。特にリヤシートは予想以上に広い。2500mmという長い寸法にとったホイールベースのおかげで、リヤシートの両端にタイヤハウスの突き出しがなくなった。そのことから、車体幅一杯にリヤシートを置くことができるようになった。

車室の前後方向も広くなっているため前席、後席ともにレッグスペースも大きくとれている。このクラスの大衆車としては予想以上の広さだといえる。「小柄な車体に広い居住空間」の思想が良く発揮されている。

・メーター類も整然

運転席に座ると、正面のメーター類がスッキリ見える。運転席とハンドル、ペダル類との関連寸法はカローラのそれとよく似ている。地球的Mサイズとして、名車の誉れ高いモデルのそれと酷似させることで、違和感を持たせないように配慮したものであろう。

クラッチペダル、ブレーキペダル、スロットルペダルともに操作力は軽い。特にクラッチのそれは軽い。どちらかというとハンドルのそれも据え切り時の操作力がやや重いという程度で、どの操作も軽くできる。これも大衆車という設計思想を具現化したものといえよう。

運転席からの視界もいい。広い範囲が一目で見える。ピラー類が死角にならないような設計になっているのだ。

コルサとターセルはFFだが、エンジンをタテ向きに搭載している。FRと同じように乗せているわけ。トヨタの技術者は「サービス性の良さ、シフトフィーリングの良さ等の理由で」タテ置きのレイアウトにしたと説明している。

その説明通り、チェンジレバーのシフトフィーリングもいい。ローギヤにシフトして軽いクラッチを着易く離すと車はスーッと走り出す。力強さを感じるというより、スムーズさで走るという感じ。力強さはエンジン回転を3000rpm以上に保った時にあらわれるという方が当たっているだろう。

エンジンの吹き上がりは極めてスムーズ。3000rpmを超えるとグンと力強さを増し、加速感も一段と強くなる。100km/hの時、5速に入れるとエンジンは3000rpm弱でしか回っていない。それだけ静かさと、経済性を重視した設計になっているわけ。

特に5速ギヤはエンジン回転を下げ、経済性を高めるためのギヤになっている。この5速ギヤは、敏速に走るためのものというより、低回転で一定速度で走り続けるためのものと考えた方がいい。

サスペンションはフロントがストラット、リヤはフルトレーリングアームの四輪独立懸架方式。クッションストロークもフロントで190mm、リヤで200mmとこのクラスのものとしては長い。このクッションと四輪独立懸架とが相まって、良い乗り心地の車になっている。

このあたりの仕上がりもファミリーカーとしての資質の高さを秘めているといえよう。柔らかい乗り味はややアメリカ車のそれと雰囲気が通じているように思える。

車そのものは、走りっぷりを楽しむというより、スムーズに走るための車という性格が濃い。確かに「大衆車」として、誰でも運転できる性格を打ち出した車になっている。トヨタ車に共通している「違和感のない運転感覚」はこの車にも十分に取り入れられている。

FFだというが、よほど気にして乗らない限り、FFだとわかるくせは出てこない。これも万人向きの性格といえるだろう。

4ドア車は予想以上に容積の大きいトランクスペースも持っている。このあたりもファミリーカーとして使いやすそうな新しい車の登場といえる。

【解説】

60年代後半から70年代に入ると、各メーカーとも小型車のFF化が進んだが、トヨタはFFに対しては慎重で導入は若干遅く、このコルサ/ターセルが初のFF車となった。コルサとターセルは姉妹車で、コルサはトヨペット店、ターセルはカローラ店から販売された。発売当初の月販目標はターセル7000台、コルサ5000台で合計1万2000台。うちターセルは3ドアHBが3500台、2/4ドアセダンが3500台、コルサは3ドア2000台、2/4ドア3000台であった。

当時のFF車は既にスペース効率に優れるエンジン横置きレイアウトが一般的だったが、コルサ/ターセルはエンジン縦置き方式を採用しているのが特徴といえる。縦置き方式は4WD化しやすく、現在でもスバルやアウディが採用しているが、コルサ/ターセルの場合はそうではなく、乗り心地の良さに加えて、整備のしやすさを採用の理由としている。このためエンジン縦置きのFR車の整備に慣れたサービススタッフでも容易に扱うことができるのは大きな利点であった。整備面まで考慮してメカニズムを決めるというのはいかにもトヨタらしく、これもトヨタの強みの一つといえるだろう。

4mを切る小型ボディながらホイールベースを延長することで広い室内空間を実現するなど、優れたパッケージで実用性の高いモデルとして試乗記では評価。当時のFF車は運転感覚にクセがあるクルマも少なくなかったが、コルサ/ターセルでは目立った悪癖はなく、その点でも高く評価されている。

しかし、期待に反して販売面では苦戦。デビュー翌年にはCMに山口百恵を起用するなどテコ入れが図られたが、人気の面では今一つのままだった。

デビュー時のキャッチフレーズは「クルマ維新」。室内の広さをホイールベースの長さでアピールしている
登場翌年、1.2L車及びAT車の追加に合わせて広告もテコ入れ。当時人気絶頂の山口百恵を起用し女性ユーザーの獲得を図ったが、盛り上がりはイマイチだった
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