文:渡部 竜生(キャンピングカー・ジャーナリスト)
キャンピングカー人気はまだまだとどまるところを知らない。キャンピングカーショーに足を運ぶ人の数は年々上昇中。人気モデルともなると、申し込みから納車まで1年半待ち、という例も珍しくないのだとか。今や、ネットショッピングで何でも手に入る時代。ワンクリックで、翌日、場合によっては当日中に商品が届くというのに、1年半待ちとは! それほど待ってでも手に入れたいキャンピングカーとは、もはや単なる車ではない。「ライフスタイル」そのものなのだ。
キャンピングカー=高額イメージはもう古い
キャンピングカーのあるライフスタイルとは、どんなものか。それは、本当の意味で「時間が自由に使える」日々だ。
出かける時間も自分の都合次第。仕事終わりの平日深夜に出発したってかまわない。事前の予約も不要だし、突然のキャンセルだって問題なし(宿泊地や食事の予約をしているなら別だが)。小さな子どもやペットのいる家庭ならなおさらだ。大人と同じペースで動けない子どもや動物を連れての移動はなかなかに気を遣うものだが、キャンピングカーならいつでもどこでも、そこは「我が家」。交通ルールや社会一般のマナーを守って行動すれば、車内では気兼ねなく、のびのび過ごせるというわけだ。
さてそんな、なんとも贅沢な遊び道具のキャンピングカーだが、実際に買うとなるとどうだろう?
「高そう」「高級外車やクルーザーみたいに、お金持ちの持つものでしょ?」「家一軒ぐらい建ちそう……」世の中の声を拾っていると、そんなコメントが散見される。だったらなぜ、こんなにも流行ってるのか? 日本がお金持ちだらけの国になったわけではないことは、誰にでもわかるだろう。日本で一番人気のゾーンが400〜600万円だといったら? 普段使いできるサイズだとしたら? そう、今や気軽に手の届く、使い勝手のよいサイズも増えているのだ。
体験宿泊にトライした家族
とはいえ、まったくの初心者にとってはハードルはまだまだ高い。金額や置き場所の問題もさることながら、「そもそも、どんなものなのか」がわからないのだ。「高いお金出して買っても、そんなに使えるかな……」「使ってみないとわからない」「使い方がわからない……」そんな声も聞こえてくる。そこで今、俄然注目を集めているのが「レンタルキャンピングカー」だ。
史上最速で梅雨があけた猛暑の週末、キャンピングカーに宿泊体験するイベントが行われた。応募してこられたのは東京都の松浦さん家族。父親の広幸さん(48)、妻の妙子さん、長男ユウキ君(7)、長女のアミちゃん(5)の4人家族だ。育ちざかりの子供たちのために、アウトドアを始めてみようかと思っていたのだとか。
「育ちざかりの今こそ、アウトドア体験をさせてあげたいなとは思うんですが、僕ら夫婦そろって全く経験がなくて、なかなか踏み出せないんです。あれこれ調べてはみたんですが、テント泊だと揃えなきゃいけないものも多そうだし、身近に相談できる経験者もいないし。買うだけ買って合わなかったらどうしよう……とも。そんなとき、妻がこの宿泊体験イベントを見つけて応募したんです」。
会場になったのは、東京昭島市にあるアウトドア専門のショッピングモール、モリパーク・アウトドアビレッジ。用意されたのは東和モータース販売のキャブコン「ヴォーンD2C」。ベース車両はトヨタ・カムロード。室内レイアウトはダイネット+ソファーでリビングはゆったり。就寝時はバンクベッド(就寝2人)に加え、ダイネットとソファーが完全にフラットになって(就寝4人)、合計6人が寝られる設計なので、4人家族なら荷物があっても余裕だ。さてどんな一泊になったのだろうか……。
思った以上に豪華で快適!
キャンピングカーは見るのも中に入るのも初めて、という松浦さん。車内に入ってみた印象は?
「想像していたより広いですね! それにインテリアが豪華なのも予想外でした。網戸やシェードなど細かなところまで気配りされていて、快適に過ごせるように、すごく考えられてるんだな、というのが最初の印象です」(広幸さん)
「アウトドアというより、なんだかホテルみたい。野山に快適なホテルを持ち出すイメージですね」(妙子さん)
「車の中に階段(ハシゴ)があるなんてびっくり!」(ユウキくん)
「車なのにおうち? おうちなのに走るの?そう考えたら楽しいです」(アミちゃん)
車の中で立てる! 歩ける! というのが新鮮だった様子。子どもたちはバンクベッドやキッチンに興味津々。
一通りの説明を聞いて、使い方を伝授されると「家と同じなので難しいことはないんですね」(妙子さん)と安心した様子。夏の暑い盛り、まずは会場近くの日帰り温泉までドライブしてみることに。
「シートが高くて見晴らしがいいのは、新鮮な感覚ですね。乗用車のようにキビキビ走る印象ではありませんけど、加速やパワーに不満、というほどでもない。家族旅行の移動手段としては十分なのかなと思います」(広幸さん)。
温泉施設での車庫入れもバックモニターですんなりこなせた、とか。ゆっくりお風呂を楽しみ、帰りは近くのスーパーで晩御飯の買い出しをして会場へリターン。
「車の中でこんなにゆったり過ごせるなんて! これだったら野山へアウトドアしに行ってもいいし、温泉巡りをしたりもできる。遠くへ行かなくても非日常が味わえますね」。夜も更けて、子どもたちはさっそく、バンクベッド(運転席上部の常設ベッド)の取り合いをはじめた。秘密基地感覚のバンクベッドは子ども心をくすぐる装備。ユウキ君、アミちゃんも我さきにと梯子をよじ登っていった。
レンタカーだからできること
一夜明けて……感想を聞いてみた。
「バンクベッドで寝ていた子どもたちですが、熱帯夜で暑かったみたいです(笑)。結局クーラーの冷たい風が降りてくる、下のベッドに降りてきて、親子4人で雑魚寝でした」と広幸さん。子どもがごろごろ寝返りするので何度も起きた、と苦笑するが「それもきっといい思い出です。なにより、安心安全に、快適に眠れるのが親としては嬉しい。テントだったらどんなに暑くても他へ逃げ場もないですし」。
「冷蔵庫もついているし、食事についてもまったくストレスありませんでした。飲み物も冷やして置けるし、食べ物の保存も安心。暑い時期は熱中症対策も必要だし、安心なのがなによりうれしいです」(妙子さん)。初めてのキャンピングカー体験は、何より「安心」と「快適」を実感できて終わった様子。
こんな風にキャンピングカーを「試してみたい」人に人気なのがレンタルキャンピングカーなのだ。「どんなものかわからない」という初心者はもちろん、「必要な時だけ欲しい」人にとってもうってつけ。「好きなアーティストのライブを追っかけてる」という女性数人で、レンタルを利用しているという話も聞いた。有名タレントともなると、ライブの日、地方都市のホテルは一杯になってしまうのだとか。そのほか、「欲しいけれど、どんな車がいいのかわからない」人が、装備や「間取り」を吟味するために借りるケースも。
今回、宿泊体験に用意された車両も、東和モータース販売がレンタル用に用意している車両。「いきなり大きい車はイメージが沸かない」「運転や宿泊を試してみたい」という人に好評だという。「キャンピングカーに泊まるまんて、どんなに大変なことかと思ったけれど、やってみたら楽しかった。自分には縁のない世界だと思っていたけれど、身近なんですね」と広幸さん。「買っちゃおうかな…」と思わず漏らしたパパの一言に、子どもたちもテンションマックス!
「夏休み、もう一度借りて、どこかへ出かけてみたいですね」(妙子さん)。今年は特別な夏休になりそうだ。
プロフィール
渡部 竜生(キャンピングカー・ジャーナリスト)
キャンピングカージャーナリスト。サラリーマンからフリーライターに転身後、キャンピングカーと出会ってこの道へ。専門誌への執筆のほか、各地キャンピングカーショーでのセミナー講師、テレビ出演も多い。旅のお供は猫6匹とヨメさんひとり。著書に『キャンピングカーって本当にいいもんだよ』(キクロス出版/2008年3月)。
《 本稿は新聞「週刊Car&レジャー」2624号(2018年7月)に掲載 》