トヨタ・セラ試乗記 【アーカイブ】

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80年代後半から90年代初頭の日本は超が付く好景気。いわゆる「バブル期」だが、そういう時代にはチャレンジングな冒険も許されるもの。今なら発売されないだろうなぁと思える個性的でユニークな車も数多く登場した。その一つがトヨタが発売した「セラ」。スーパーカーの代名詞でもあったガルウィングをコンパクトカーに採用、そしてガラス張りのボディは技術的にも贅沢なもので、余裕のある時代ならではの1台といえる。今回は、その試乗記を紹介しよう。

登場時のキャッチコピーは「とんでるセラ」。スーパーカーのものだったガルウイングが量産車に採用されたのは衝撃的だった

 

<週刊Car&レジャー 1990年(平成2年)7月30日号掲載>
「トヨタ・セラ試乗記」

まず、セラの乗り込みのイージーさに驚かされる。それは、ガルウイングとしては異例に低いサイドシル、そして低い車高をカバーするようにハネ上がるドアから生み出される、といっても過言ではないだろう。裾を気にせずにコクピットに滑り込めるスポーティ・シルエットのクルマなんて、そうざらにない。

エンジンは新開発の5E-FHE。例のシザースギヤのハイメカツインカムで、EFI電子制御燃料噴射装置付。

シザースギヤ型は、トヨタのエンジン系列では経済志向タイプだが、自然吸気でリッターあたりの出力が73馬力というのはさすがだ。当然、かなり回転馬力指向に振ってあり、セラの意図するところがうかがえるような気がする。しかし、セラのスポーティな姿から連想して、セラを高性能スポーツカーと受け取ってはいけない。実際には、可愛い姿をした乗り心地のいい乗用車なのである。

ステアリングに、シャープな切れ味は期待しない方がいい。しかし、癖がなく扱いやすいハンドリングは、抜群といえる。ハードなコーナリングでは、ミッドシップを操縦しているようだ。適度にロールしながら、不安感のないコーナリングをみせる。

試乗車のタイヤはオプションの60タイヤ。ファッション性にこだわらなければ、標準仕様の65タイヤの方が、よりマイルドな乗り心地を楽しめる。このクラスにABSがあるのがうれしいが、4輪ディスクブレーキだったら言うことなしだ。

外からあまり見えすぎるキャビンというのは、なんとなく照れくさいものだが、それさえ気にしなければ、セラは乗りやすく小回りが効くクルマだ。

<解説>

1987年の東京モーターショーに出品された「AXV-Ⅱ」を市販化したのが「セラ」だ。“ライブ&パフォーマンス”をコンセプトに「もっと自由で感動できるような臨場感と演出性を持ったクルマの実現」を開発テーマに、新しいカーライフを提案するニューコンパクトビークルとして登場したモデルである。発売はバブル真っ最中の1990年(平成2年)3月8日であり、いかにもこの時代ならではのモデルといえるだろう。

最大の特徴はガルウィングドアと、オールガラス製のキャビンを採用したこと。ガルウィングドアは、メルセデス300SLやランボルギーニ・カウンタックなどの例があるが、それとはまったく異なるタイプで、基本的には2つのヒンジとロック、開閉をアシストするガスダンパー1本で構成されていた。

またグラッシーキャビンは、大型3次曲面ガラスで構成。外からの視線を意識せずにはいられないパフォーマンス感と、ガラス1枚隔てた外界とのライブ感が味わえる、と当時の記事には紹介されている。ただ、そこからも想像される通り、車内はとにかく「暑い」のが難点であった。

装備面では、車載では世界で初めてDSP(デジタル・シグナル・プロセッサー)を採用した「セラ・スーパーライブサウンドシステム」を搭載。自然でバランスのとれた「カジュアルモード」、エキサイティングな「ファンキーモード」の2モードをワンタッチで切り替えることができた。

グレードは1グレードで、発売当時の価格は5MT車が160.5万円、4AT車が168万円。スーパーライブサウンド装着車は5MTが180.6万円、4AT車は188.1万円であった。

個性のカタマリのようなクルマだけに注目度は高かったものの、やはり「外から丸見えのクルマ」を実際に購入する強者は当時としても少なく、総生産台数は5年間で約1万6000台弱。1代限りで終了となった。

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