ホンダ・バラードスポーツCR-X試乗記 【アーカイブ】

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70年代の厳しい排ガス規制を乗り越え、80年代になると多彩なスポーティモデルの登場が相次いだ。ホンダが発売した初代CR-Xもその一つ。軽量ボディと短いホイールベースで抜群の旋回性能を発揮し、まさにライトウェイトスポーツならではの楽しさを具現化したモデルといえるだろう。そこで今回はその試乗記を紹介。軽快な走りが楽しそうだ。

<週刊Car&レジャー 1983年(昭和58年)7月16日号掲載>
「ホンダ・バラードスポーツCR-X」試乗記

ホンダバラードスポーツCR-Xを箱根で試乗した。車種は「1.5iサンルーフ仕様」の5速マニュアル車。電動アウタースライドサンルーフ仕様車で、カラード液晶デジタルメーターとタイムコントロールモジュール付エレクトロニックナビゲータを装備している。

・運転席に心くばり

さっそく乗り込む。ヒップポイントはペダルのレッグポイントと同レベルに下げられ、地上から420mmという低さ。シートはもちろんスポーティなバケットシートで、180mm前後にスライドする。2度ピッチの微調整リクライニングによって的確なドライビングポジションが与えられる。ハンドルは3本スポークの小径でわずかな楕円形状、グリップは太目でしっとりとなじみ、スポーティな走りをするのに確かな手応えも十分。インストルメントパネルは25土に傾斜したスラント・インパネ。カラード液晶デジタルメーターの視認性とともに、前方視界を良好に確保。この運転席まわりの心配りの行き届いたデザイン処理はホンダ車に共通したもの。しかもバラードスポーツCR-Xは、スポーツ心を熱く支える一体感を約束している。なお、人間工学的に追求され設定されたキャビンからの乗り降りは無理なく行なえ、これがレッグポイントと同じレベルに低いヒップポイントのシートかと気づかなかったほどだ。

さて、走りは“軽快”の一語に尽きる。文字通りのライトウエイトスポーツで、しかもFFをさらに前進させた走りを実現している。エンジンは、軽量・コンパクトな新開発の12バルブ・クロスフローエンジン。4バルブ並みの吸・排気効率によるハイパワーと2バルブ並みのコンパクト化を両立させ、さらにホンダ独創の電子燃料噴射装置(PGM-FI)の採用により、小排気量・高出力を実現。最高出力110馬力(5800回転/分)と、まさにSOHCエンジンにおけるパワーを最大に引き出したものとなっている。

アクセルを踏み込めば、その吹き上がりはホンダならではの良さを発揮。またたく間に6500回転のレッドゾーンに到達してしまう。その走りはスムーズでパワフルなレスポンスに満ちたものだ。パワーウエイトレシオ7.4kgの走りは、ドライバーをも一体にした警戒感にひたしてしまうようだ。ちなみに、0-400m発進加速は16.2秒、0-100km/h発進加速は8.8秒をマークしている。直進走行性能はFFとフロント1400mm、リヤ1415mmのワイドトレッド、低重心の基本レイアウトにより、高速安定性にすぐれたものになっている。シートバックをたおし、レーシング・ドライバーのポジションに近づけた格好で高速道路での走行こそ、バラードスポーツCR-Xにふさわしいドライブが楽しめるはずだ。

もちろん曲がりくねった山岳路でも、その軽快な走りをキープする。それを支えるのは、フロントがトーションバー・ストラット式、リヤがトレーリングリンク式ビームのサスペンション本来の機能に加えて、スペース効率を追究したスポルテック・サスペンションと名づけられたもの。低いボンネットラインを実現するために、トーションバー・ストラット式フロントサスペンションを採用しているが、とりわけFF車の走りを支えるのはリヤサスペンション。

しかも、スポーティな走りを求めるには、その接地性やコーナリング時の追従性や剛性が必要不可欠のものとされているが、これを実現したのがホンダ独自のトレーリングリンク式ビーム・リヤサスペンション。ストラット式、トレーリングアーム式、リジットアクスル式、トーションビーム式などの利点を集約したもので、路面に対してタイヤをつねに垂直に保持、コーナリング時のタイヤ接地面積の減少を最小に食い止めることから、安定感のあるコーナリングとすぐれたステアリングの追従性を実現。

と同時に、ころがり抵抗を低減してワイドタイヤの性能を最大限に引き出している。試乗車は185/60R14タイヤを装着していたが、そのグリップ力とコーナリング限界の高いことと相まって、安定した走行が楽しめた。

・二人のためのクルマ

このように軽快なキビキビとしたスポーティ走行を満喫させるバラードスポーツCR-Xだが、ガサツな走りは微塵もない。マイルドともいえる走りを味わせてくれる。それは、ひとつにエンジン音の静かさとスムーズなレスポンスにより、いまひとつは空気抵抗を最小限に、しかも路面をなめるように安定した走りを実現したスタイルにあるようだ。

バラードスポーツCR-Xは、原則的には2+2のシートになっているが、このクルマは2人だけのもの。低、中速時のエンジンハミングは静かに心地よく、加速時のビートは熱く高鳴って、2人を包み込んでいくにちがいない。まさに若々しい心で熱いスポーツ心を求める二人だけのクルージング(CR)にふさわしい小型スポーティカーといえる。

当時の新聞広告。「FF」であることを強調しているのは、当時のスポーツ車はFRが当たり前の時代だったから。またスポルティック・サスをアピールしているが、2代目では4輪Wウィッシュボーンに変更。1代限りの採用に終わった。

<解説>

シビック(4ドアセダン)の姉妹車として、ベルノ店で販売されていたのが「バラード」。初代CR-Xはその2代目バラード(3代目シビック:通称ワンダーシビックの姉妹車)の派生モデルとして登場したモデルだ。ちなみに「CR-〇」はバラードのグレード名で、CR-M、CR-i、CR-Uなどが設定されていた。CR-Xは車名でもあるが、その命名規則にも沿った名称である。

初代CR-Xとワンダーシビックは基本メカニズムは共通するが、後席居住性も重視したシビックとは異なり、前席重視のCR-Xでは異なるボディ形状を採用。乗車定員は4名だが、後席はホンダ自ら「1マイルシート」と呼ぶエマージョンシートで、要は1マイル(約1.6㎞)程度なら乗ることができる、というものだった。

ボディスタイルはクーペだが、空力特性を重視し、後端を途中で切り落とした「コーダトロンカ」のスタイルを採用。この形状が空力に優れていることは、後のトヨタ・プリウスやホンダ・インサイトが採用したことでも証明できよう。ただし記事では触れていないが、この形状のため後方視界は非常に悪く、対策として2代目CR-Xでは後端の一部がガラスになっている。

記事中に出てくる「タイムコントロールモジュール付エレクトロニック・ナビゲータ」とは、もちろん現在のカーナビのようなものではなく、燃費や走行距離など運転中の情報を表示するシステムのこと。この初代CR-Xでは、通常はデジタル時計として機能し、キーを押すと消費燃料、平均燃費、平均車速、走行距離の4つの情報が5秒間表示された。なお「タイムコントロールモジュール」とはフロント&リヤワイパーの間けつ、ウォッシャー連動ワイパー、残光式ルームランプなどの作動時間を調整するものだ。

登場時は1.3Lと1.5LのSOHCエンジンのみのラインアップで、軽量ボディを武器にしたCR-Xだったが、翌84年には1.6LのDOHCエンジン・ZC型を搭載する「Si」を追加。走行性能が大きく向上され、スポーティモデルとしてのイメージがより強められた。

なおデザイン面での大きな特徴にもなっていたセミリトラクタブル式のヘッドライトは、85年のマイナーチェンジで固定式に変更された。このため前期モデルと後期モデルは顔つきが異なり、容易に見分けることができる。

CR-Xは87年に2代目にモデルチェンジしたが、その前年に「バラード」が廃止されていたため、車名から「バラードスポーツ」が外れ、単にCR-Xとなった。2代目CR-Xはより強力なVTECエンジンを搭載する「SiR」の追加もあって人気を呼んだが、92年に登場した3代目「CR-Xデルソル」で北米向けに大きくコンセプトを変更。これが国内ではまったく受けず、CR-Xの歴史は3代で幕を閉じることとなった。

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