【アーカイブ】いすゞ・ピアッツァ試乗記(週刊Car&レジャー・1981年6月掲載)

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現在ではトラック・バス専業メーカーとなってしまった「いすゞ」だが、かつては数々の特徴ある乗用車を送り出していた。今回紹介する初代「ピアッツァ」もその一つ。近未来感溢れるエクステリア&インテリアデザインの採用で独特の魅力を備えていたモデルであった。ではこのピアッツァの走りはどのようなものだったのか、当時の試乗記をみてみよう。


<週刊Car&レジャー 昭和56年6月6日発行号より>

ツインカムの切れ味

・XE5M/T
いすゞの新型乗用車「ピアッツァ」を箱根で試乗した。試乗車は最上級グレードのXE5M/Tはじめ、XF4A/T、XJ5M/Tの3台。今回はとくに急登坂でのパワー、曲線路でのコーナリング、直線での加速性を中心にチェックしてみた。

最初にハンドルを握ったのはツインカムエンジンでのマニュアル車“XE”だった。初体験の印象は静かで出足がよいということ。計器盤は国産初のサテライトスイッチ。最初は扱いなれないためにまごついたが、要領がのみ込めてくると、きわめて便利なことがわかってくる。ステアリングホイールをにぎったまま操作ができるのだ。とくに頻繁に使うウインカースイッチが指一本で軽くできるのがよい。

メーター類は中央に大きめのスピードメーターが、グリーンのデジタルで表示され、1キロ単位で出てくるからわかりやすい。ただ回転計の文字が小さすぎ、わかりにくいという点が気になる。

ツインカムの切れ味をためすために急登坂のコースを選び上方に登りつめてみた。フルスロットルで思い切り踏み込んでみると、グングン力が出て急な坂でも楽にあがれるフィーリングがよい。ただツインカムらしい力というより、多少マイルド感があり、素人受けのするフィーリングと表現できるだろう。したがって、逆にハード走行を好むユーザーだったら物足りなさを感じるかも知れない。

音は静かだ。フルスロットルでウインドウを開閉したが、あまり変化はなく、静粛性を保っているのには驚かされた。

1速から5速までスピードに合わせてシフトさせてみると、カチッカチッときれいに軽いタッチで決まるのが小気味よい。バックは押し込んでシフトさせる方式だが、そんなに力を入れなくても操作ができるので、やりやすい。シフトノブの形が前方に凸にした変形タイプなのが操作のしやすさを助けている。にぎりやすいし、2速や4速など後ろにシフトする時のフィーリングがよい。

ドライブポジションもステアリングのチルト、シートの上下と組み合わせで適当にセットできるので運転しやすい。視界は広いウインドウ面積のため明るく、箱根の山の上から下界が見下ろせる感じだ。

シートは固めで、ボディにフィットしているのがよい。ソフトタッチよりもこの方がポジションを安定化するのに役立っている。これなら長距離にチャレンジしても疲労は少ないだろう。

コーナリングは低い車高、ワイドトレッドに固めのサス・セッティングで安定感がよく、ガッチリ路面に食い込んでくれる。多少の急カーブでも80キロ/時のスピードで曲がり切りタイヤがなくこともない。

・XF4速AT
次に乗ったのは同じツインカムのXF4速ATだ。いすゞが今回初めて採用した4速ATであり、どんなフィーリングか興味があったのだが、これまたグッドフィーリングだ。DレンジですべてOK、急登坂コースで2ないし1とチャレンジしてみたが、いずれもOKだ。加速はマニュアル車とそれほど変わりないくらいの力を感じる。

こちらはダッシュボードがアナログの2眼メーターだが、デジタルに慣れてしまうと、わずらわしさを感じるほど。

・XJ5M/T
最後のXJは5速マニュアルでパワーユニットはSOHCだ。ツインカムと比べてそれほど力の差が感じられないほどよい吹き上がりだ。マキシマムパワーは120PSでツインカムとは15PSもの開きがあるのだが、この差は高速道路あたりでないとハッキリしないのかも知れない。最高トルクはSOHCの16.5kg-mに対し、ツインカムは17.0kg-mとわずか0.5kg-mの差だから、この辺が差のなさを感じる要因となっているのかも。

スタイリングの極端なスラントノーズ&ウェッジシェイプの2ボックスは、さすがにイタルデザインのジウジアーロの手によるものだけに、ユニークさと美しさは見事なものだ。クルマから離れ、撮影するためにレンズからのぞくとその良さが改めて理解できる。ボディカラーはイメージカラーのマッターホーンシルバーはじめサンライズレッド、キャノンメタリック、シャモニホワイト、カフェオレ、セルリアンブルーの6色配置で、今回試乗したのはマッターホンシルバー、カフェオレ、セルリアンブルーの3つ。いずれも箱根の緑とマッチングして美しいシルエットをきわだたせている感じだ。

ハンドルを握っていると、行きかうドライバーたちがスピードをゆるめ熱い視線を送ってくるのがはっきりわかる。何気なく得意な気分になってしまう。

ただ、装備を充実させたこともあり、車重が多少重い感じがする。高速道路ではむしろ安定感がよくなるかもしれないが…。

 

 

<解説>
ピアッツァはロングセラーとなった「117クーペ」の実質的な後継車として登場した2ドアクーペ。流麗なスタイルを魅力とした117クーペに対して、ピアッツァは近未来感を具現化したようなスタイルを採用していたのが大きな特徴といえる。いすゞ販売店の他、ヤナセとも提携し「ピアッツァネロ」としても販売された。

ピアッツァが登場した80年代初頭は、排ガス規制によるパワーダウンから、再びパワーを取り戻しつつあった時代。ターボvsツインカム(DOHC)論争真っ盛りの頃だ。このため試乗記事でもツインカムエンジンのパワーについて多く言及している。現在ではツインカムエンジンは珍しいものではないが、当時はツインカム=スポーツエンジンの代名詞でもあった。ただしピアッツァが搭載していたツインカムエンジンはジェミニZZからのキャリーオーバーで基本設計は古く、パワーではライバルの後塵を拝していた。試乗記では「ハード走行を好むユーザーには物足りない」と評している。

華々しく登場したピアッツァであったが、好みが分かれる個性的なスタイルもあって商業的には不発に終わり、117クーペほどの人気を得ることは出来なかった。装備を充実させたことで価格が高めだったことに加え、同年は初代ソアラがデビューした年でもあり、タイミングにも恵まれなかったといえる。91年には2代目モデルが登場するが、こちらはさらに不人気で、わずか2年後の93年にはいすゞが乗用車から撤退したために国内販売を終了。その歴史の幕を閉じることとなった。

登場時のキャッチコピーは「シニアな時代」。今だと高齢者向けと取られかねないが、もちろんそうではなく、大人の上級車という意味だ
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