「ヴィッツ」の後継モデルとして登場した新型「ヤリス」。その魅力は、極めて優れた燃費性能と心地よい走りの両立にあるといえるだろう。今回は首都高を含め都内近郊を中心に試乗したが、その高い実力は走り出してすぐに実感することができた。
試乗車はハイブリッドの中間グレード「G」で、パワートレーンは新開発の3気筒1.5Lダイナミックフォースエンジン+モーターの組み合わせ。パワーは実用コンパクトとしては十分過ぎるほどで、低速域から高速域まで力強くかつ滑らかに加速する。アクセル、ブレーキペダルの操作に対して反応が早いのも心地よい。ステアリング操作への反応に無駄な動きがないのも好印象だ。操作感もしっとりとしており、操舵の重さも重すぎず軽すぎず、適度である。
滑らかな加減速と正確な足回りによって、フットワークは機敏だ。この軽快さこそ、コンパクトカーならではの魅力といえるだろう。余計な動きがないから安心感も高い。
また走行時の静粛性も特筆できる。3気筒エンジンということで静粛性では不利になるはずだが、それを感じさせない。特に巡行時での静かさは特筆できるレベルだ。また高速時の直進安定性の高さも素晴らしい。全長が短いコンパクトカーとは思えないほど、しっかりと走ってくれるのでストレスがない。そんなわけで走りに関しては不満はない。
ただし、その他の部分では、もう少し欲が出てくる。まず乗り心地は高速域では不満はないものの、街中では硬く感じられる。足回りの動きがそのまま伝わってくるような印象で、結果、フラットな道路だと非常に心地よいのだが、少し荒れた路面だと細かな凸凹がそのまま伝わってくる。好みもあるが、もう少ししなやかさが欲しいところだ。
室内空間は明確に前席重視。ここは前席と後席のバランス型だったヴィッツとの大きな違いといえるだろう。運転席に座ってみるとシート周りのスペースも広く、自然な運転姿勢を楽にとることができる。シートの形状もよく、座り心地も満足できるところだ。インパネ周りはやや凝縮感のあるデザインで、程よいタイトさがスポーティ感も感じさせる。やや上方にディスプレイオーディオの画面を配置しているため操作性は良いが、若干圧迫感を感じる人もいるかもしれない。
インパネ周りで気になるのは質感で、これはちょっと物足りないのが正直なところ。特にシフトレバー周りはカバーもなく、実用本位とはいえ、なんだか商用車にでも乗った気分になる。またメーターの表示はセンターのディスプレイを挟んだ二眼タイプだが、若干離れすぎていてあまり見やすいとは言えない。ディスプレイの表示も小さい。
後席は広くはないが、乗員を座らせるのに必要なスペース自体は確保されている。足元空間に余裕が無かったり、背面がリクライニングしないので背筋を伸ばしたまま座ることを強いられるのは難点だが、短時間なら許容できるレベルだ。
ただヤリスの後席で最大の難点と言えるのが、乗り降りしにくいこと。その要因は2つある。まず一つ目は後席ドアが小さい上に開口角が狭く、すき間から室内に入り込むような形となることだ。体を無理に曲げて入ることになり、荷物の出し入れもしにくい。軽自動車、特にダイハツ車は90度近くまで開口し、使い勝手に優れているのとは正反対である。
もう一つはサイドシルの長さが短い上に、つま先の当たる部分が高く盛り上がっていること。このため降りる際に足を持ち上げないとうまく外に出られないのだ。特に後席に高齢者を乗せる機会が多いユーザーは要注意である。
そんなわけで、新型ヤリスは全方位にバランスを取ったファミリーユース向けではない。初めからそこは割り切って、2人乗りのパーソナルカーとして無理なく仕上げられたクルマである。が、それだけにドライビングの心地よさは格別。コンパクトカー本来の走りの楽しさが味わえる高実力モデルである。(鞍智誉章)