2月に発売となった新型フィット。今回はその中で快適性重視のLUXE(リュクス)に試乗した。試乗車のパワートレーンは「e:HEV」と呼ばれるHVで、駆動方式はFF。
この新型フィットで、まず目を引く大きな変更点はエクステリアのデザインだ。アグレッシブな勇ましいデザインを採用した先代モデルから一転、新型ではおとなしい印象になった。少々眠そうにも見えるヘッドランプ周りなど、優しくかわいらしい雰囲気である。好き嫌いは分かれるところだが、実用コンパクトカーとして、長く保有されることが多いことを考えれば、こちらの方が好ましい気がする。インパクトのある派手なデザインは、飽きが来るのも早い。
一方、室内のデザインも大きく変更。特にフロント席周りはドライビングプレジャー感を優先させた先代に比べ、新型では快適性や機能性を重視。特に前方視界の良さは大きなポイントといえる。インパネの高さを抑えた上で、助手席側までフラットになり、視界が遮られることがない。またそのおかげか室内が非常に広く感じられる。Aピラーが2本で形成されるのは先代と同様だが、前側が太かった先代に比べ、新型では前方側が細くなったのもポイントだ。このため斜め前の視界が非常に良い。
先代のHVモデルはプリウスと同じようなスイッチ風のシフトレバーを装備していたが、これも通常タイプに改められた。先代HVはホンダ量産車では初のシフト・バイ・ワイヤを採用したモデルであったから、これをアピールしたかったこともあったのかもしれない。新型では普通のクルマと同じように直線的に操作できるので、まごつくこともないだろう。シフトブーツも装備しているので、安っぽさがないのも好印象である。ただPから手前に引いてDに入れる際、Dを通り越して一番手前側のBまで行きやすいのは注意が必要だ。
車の骨格であるプラットフォームは先代のものを改良しつつ継承しているので、室内のパッケージは大きな変更はない。クラストップとなる室内の広さは相変わらずで、前席はもとより後席の広さも申し分ない。加えて後席シートは厚みが増したことで、座り心地もより改善されている。荷室も十分な容量を備えており、1台で何役もこなすファミリーカーとして最適といえるだろう。
続いて走りを見てみよう。試乗車は1.5エンジン+2モーターのe:HEVモデル。先代モデルでは1モーター+7速DCTの「i-DCD」を採用したが、これに代わって新たに搭載されたものだ。新たにとはいっても、このe:HEVのシステム自体はアコードやステップワゴン、インサイトなどにすでに搭載されているもの。信頼性は実証済みだから、発売直後からリコールを連発するハメになった先代のようなことはなく、安心して購入することができるはずだ。
さて、このe:HEVはモーター走行を中心としているのが大きな特徴。高速巡行時などエンジンの方が効率が良い時はエンジンで走行するが、それ以外はエンジンは発電に徹する。つまり大半の日常域はモーターのみで走行するというわけだ。したがって日常域では日産のe-POWERと同じタイプに属する。ちなみにe-POWERの場合は、高速域も含め、すべてモーターのみでの駆動するのがe:HEVとの大きな違いだ。
となれば、新型フィットも同クラスとなるノートe-POWERに近い運転感覚になってもおかしくないのだが、実際に試乗してみるとまったく異なる印象であった。e-POWERの場合、踏み始めた瞬間に力強いトルクを発生し、一直線に軽快な加速をみせる。ガソリン車とは明らかに違う乗り味で「電動車ならではの走り」を強調するようなセッティングになっているのに対し、新型フィットのモータードライブ感はほぼ皆無。ごくごく普通のガソリン車といった感じのセッティングである。モーター駆動ならではの立ち上がりの力強い加速は抑えられ、極めてマイルド。速度を上げていってもその感覚はあまり変わらず、緩やかに加速していく。高速道路でも同様で、加速そのものには不満はないものの、アクセルを踏んだ瞬間にパワーが勢いよく発揮されるということもなく、走りは穏やかだ。
ただし、それ故に扱いやすさは抜群である。ごく低速域から高速域まで、アクセルワークにヘンに気を使うことなく、誰でも安心して運転することができる。ステアリング操作への反応も含めて過敏なところがないので、長距離ドライブにも向いている。
乗り心地はややソフト。全体にしっとりしていてリラックスできる。最近のコンパクトカーは、コツコツしたやや固めの乗り味のものが多いが、新型フィットは角が取れたしなやか系である。このため荒れた路面でも不快さはない。足回りがうまくショックを吸収してくれる印象だ。積極的にドライブを楽しませるという方向ではなく、日常の中での快適性を重視したセッティングといえる。
結論としていえば、この新型フィットはファミリーカーとして高い完成度を誇っている。突出したところはないから趣味性は薄いが、すべてにおいて無難にこなせる実力派。じっくりと長年付き合うのに最適なモデルといえるだろう。(鞍智誉章)