平成を駆け抜けたクルマたち 《トヨタ編》

コラム・特集

元号が令和へ変わり、徐々に平成も過去になりつつある。その平成の時代に生まれ平成のうちに姿を消したクルマも多くある。その中で、忘れられない〝記憶に残る〟モデルを紹介したい(第1弾としてトヨタ編)。平成元年=1989年は、やがてバブル景気でピークを迎える右肩上がりの経済状態の中で幕が開いた。ハイソカーブームから高級車志向、RVブーム、バブル経済崩壊後の失われた20年を経て低燃費競争、世界的なSUVブームと……時代を映す鏡としてさまざまなクルマが誕生した。

現在に比べ、注目されるボディタイプに大きな違いがあった。当時はセダンモデルが多く、デートカーとして2ドアクーペの選択肢も多かった。1BOXバンから1BOXワゴンが派生し、ミニバンへの過渡期にあった。レジャービークルとしてステーションワゴンも豊富だった。

■やっぱり人気はセダン!?

平成の始まりとともに生まれた高級セダンが「セルシオ」だ。海外ではレクサス・LSとして販売されたもので、国内ではクラウンより上位に位置づけられていた。性能、クルマの作り込み等全てにおいて最高品質で、最上級グレード約650万円という価格も当時は破格だったが、飛ぶように売れた。

同じく、レクサス・ESの日本版として「ウィンダム」も1991(平成3)年に発売された。2005年のレクサス国内販売開始以降、ESはなかなか販売されなかったが18年に国内販売開始。セルシオ、ウィンダムともトヨタブランドとしての名前は消えたが、レクサスモデルとして残っている。

現在もクルマの高効率を追求する手法として〝ダウンサイジング〟が採られるが、平成中期にもその考えはあったようだ。小さなセルシオと呼ばれた小型の高級車が「プログレ」「ブレビス」だ。全長4.5m×全幅1.7mと〝ギリギリ〟の3ナンバーサイズ。現行のクラウンの方がはるかに大きい。ボディサイズの大小に品質の優劣は無関係という、現代のクルマづくりを先見したようなクルマだった。

現在、欧州車を中心に、クーペシルエットを持つセダンやSUVが存在するが、平成初期にはクーペシルエットの4ドアセダン(ピラーレスのハードトップ)も多く見られた。

コンパクトサイズではカローラ/スプリンターから派生した「カローラセレス/プリンターマリノ」。ミドルサイズでは「カリーナED」「コロナExiV」など。ずんぐり感が否めないセダンにあって、低くシュっとしたシルエットは多くの人々に歓迎された。

■若者御用達2ドアクーペ

当時も昭和からの考えを受け継いだものかもしれないが、デートとクルマは密接な関係にあり、彼女を乗せるならスタイリッシュな2ドアクーペが好まれ、様々なタイプがあった。

まず、コンパクトサイズでは「サイノス」。1.3リッターと1.5リッターがあり、エントリーカーとしても最適だった。「カレン」はスペシャルティクーペの先駆け、セリカとシャシーを共用したモデルで、マイルドなセリカといった感じか。また、2シーターミッドシップでオープンエアクルージングが楽しめる「MR-S」もあった。

一方、当時日米間の自動車貿易は日本の輸出過多の不均衡状態。これを少しでも緩和するため、アメリカ車のシボレー・キャバリエを国内で販売することになった(キャバリエ クーペ/キャバリエ セダン)。やはり、日米の消費者がクルマに求める価値があまりにも違い過ぎ、残念ながら国内の消費者にあまり響くものがなかった。

何より驚いたのが、モーターショーの参考出品車がそのまま市販? と思えた「セラ」だ。1.5リッターの2ドアクーペだが、キャビン部分はジェット戦闘機の操縦席のように四方がガラス張り(キャノピー)で、しかもドアは跳ね上がって開くガルウィングタイプ。遊び心満載でスーパーカーの気分を十分味わえた。

セラ

■今より個性的? なコンパクトカーたち

コンパクトカーが、初めて購入するクルマの第一候補に挙がるのは、今と変わらないかもしれない。当時も百花繚乱、個性的なクルマがあふれていたといえる。今では当たり前となったスライドドアを持つコンパクトカー「ラウム」が1997(平成9)年に発売された。乗る人への優しさを配慮したクルマで、2代目モデルは随所にユニバーサルデザイン採用を全面に打ち出していた。

ヴィッツの派生モデルとして1999(平成11)年に誕生したのが「ファンカーゴ」。ハイルーフで、後席を床下に格納することができ前席から後方に広い空間を作り出せた。異業種とのコラボレーションで生まれたのがWiLL(ウィル)シリーズで、同じロゴを付けた家電や文房具、パック旅行などがあり、クルマで参加したのがトヨタだった。3モデル目の「WiLLサイファ」は、トヨタ初のテレマティクスサービス〝G-BOOK〟を搭載し、元祖コネクティッドカーともいえる。

軽自動車より短い全長(約3m)というマイクロコンパクトカーもあった。その「iQ」は4シーターだが実際は大人3人乗り。ガズーレーシングからチューニングカーも発売された。コンパクトカーより大ぶりなサイズの2BOXとしては「ナディア」「オーリス」「ブレイド」があった。

ナディアはハイルーフで天井が滑らかなアーチのようなラインを描き、ミニバンのようにゆとりある室内空間が身上だった。オーリスはヴィッツ同様世界戦略車に位置づけられ、海外では多くのパワーユニットが用意された。車名は消滅したがカローラスポーツとして国内でも販売されている。ブレイドはオーリスの姉妹車だが、こちらは国内専用モデル。オーリスとの差別化を図りプレミアム感を打ち出し、V型6気筒3.5リッターエンジン搭載モデルもあった。

■RVブームと呼ばれた時代

現在は、全世界的にSUV(スポーツ・ユーティリティ・ビークル)がブームであるが、90年代初頭(=平成初期)日本を席捲していたのがRVブームだったのだ。

RVとはレクリエーショナル・ビークルの略で、1BOXワゴン(ミニバン)やステーションワゴン、クロスカントリーといった、広い意味でレジャーに使いやすいクルマを指していた。今のミニバンの祖先にあたる1BOXワゴンは、エンジンを車両前方に搭載せず、運転席のシート下に搭載したいわゆるキャブオーバータイプ(ライトエースノア/タウンエースノア)が中心で、主に平成中期以降はミニバンが主流となり、当時誕生したアルファード/ヴェルファイア、ノア/ヴォクシーは今も健在だ。

ミニバンの中で、一際乗り降りのしやすさを示したのが「アイシス」だった。センターピラー(柱)をドア内蔵にしたことで、前後のドアを同時に開くとぽっかり広い空間が生まれる。同じ構造はダイハツの軽自動車、タントに採用されている。

一方、ミニバンでありながらスライドドアを持たず、ステーションワゴンのようなヒンジタイプのドアを持つ「ウイッシュ」もあった。多人数乗車と利便性、スタイリッシュなスタイリングを兼ね備えたミニバンとして長く人気を集めた。

平成初期はミニバンも少なく、セダンより荷物も多く積めるステーションワゴンが栄華を極めた頃。ミドルサイズの「カルディナ」は、4ドアセダンのコロナから派生し、当時の人気を誇ったスバル・レガシィツーリングワゴンの対抗として、2.0リッターターボのスポーティエンジンも搭載された。

カルディナ

アッパーミドルサイズの「セプター」は、北米仕様のカムリを国内で販売したモデル。北米仕様だけにゆとりある室内空間を持ち、RVブームの影響でステーションワゴンは人気を集めた。

クロスカントリーモデルでは、陸上自衛隊の人員輸送車(高機動車)を民間転用したという生い立ちを持つ「メガクルーザー」が異色の存在。〝メガ〟と名乗るだけにボディは大きく、全長5m×全幅2.17m×全高2.105m。ホイールベースは3.39m、最低地上高42㎝とすべてが〝規格外〟。だが4WSを装備することで巨体の割には最小回転半径が通常乗用車レベルに収まる。さらに、ドライブシャフトと車軸の間にギヤを介すことで、ドライブシャフトをタイヤの中心より上に上げることで42㎝の最低地上高を稼ぎ出した。

メガクルーザー
Tagged