女性向けのクルマといえばカワイイものが多いが、80年代にはスポーティなモデルにも女性仕様が用意されていたことがあった。80系トレノもその一つ。XLリセという女性仕様車が設定されていた。今回はその試乗記を見てみよう。
<週刊Car&レジャー 昭和58年7月9日発行号>
●イメージは小悪魔
トレノという名はスプリンターのホットバージョンのみに与えられたネーミングであったが、新型スプリンターからはFRのバージョンには全てトレノの名が付けられた。
試乗したのはスプリンタートレノXL-Lisse。Lisseの名でおわかりの通り、女性仕様車であり、トレノの妹である。
アニキをボーイズレーサーと呼ぶならこれはギャルズレーサーと呼べるだろう。スタイルは2ドアクーペのみだが、このノッチバックスタイルはテールがややヒップアップしていてトヨタのいうセクシーなプロポーションとなっている。
フロントは急なスラントとリトラクタブルライト。バンパー一体のエアダムスカートでスポーティに仕上げている。美しいフォルムの中に小悪魔的なイメージを漂わせている車だ。
●抜群のホールド性
シートの柄はいかにも女性向と思わせるデザイン。ホールド性は意外に良く、あまり長距離を走るのでなければ十分であろう。リアシートは＋2と考えた方が無難である。
インパネの周りは、そつなくまとめられていて、メーターの上にある左右の送風口、右のライトスイッチ、左のワイパースイッチとデザイン的にはすっきりとしている。ワイパーは、やはりマルチユースレバーの方が使いやすいだろう。トレノの名を与えた以上はタコメーターが欲しいものだ。
クラッチやブレーキのペダル類は軽く踏み易くなっていて、クラッチのつながりはスムーズで、ブレーキの効きも良好である。パワーステアリングが標準装備となっているのは女性にとっては嬉しいことである。
さてエンジンであるが、1452㏄、83馬力の３A－U型エンジンは、街中での走行では十分なパワーを持っている。思ったより騒音レベルが高いエンジンである。
高速走行性能を調べるために東北自動車道を選んだ。タコメーターがないためオーバーレブが気になって、思い切ってアクセルを踏めないが、2速、3速での吹き上がりはなかなかシャープ。4速、5速とすばやくシフトアップして流れに乗るが、5速でもエンジン音が気になる。それでも、巡航速度を120㎞/hまでに抑えての走行は実にスムーズで快適である。
●パワステが嬉しい
150㎞/hあたりから多少のブレを感じるが、フロントのエアダムの効果が出ているのか安定した走りを見せる。高速でのコーナリングは、しっかりと踏ん張ってくれて頼もしいし、回転数感応型パワーステアリングが適度な操舵感覚を与えてくれる。
リトラクタグルライトを上げると多少の抵抗と、風切り音が出てくるが、それ程気になるものでもなく、クルージングを続行できるし、フットレストのおかげでコーナリングと長時間運転が楽になっている。多少無理な運転をしたが燃費は19・58㎞/ℓとすこぶる良いものであった。
スタイリング、性能ともに十分なものであり、多くの女性は満足するだろう。オバサンには乗ってもらいたくない車である。最後に一つだけ欲を言わせてもらえれば半ドア警告灯がぜひ欲しいものだ。
＜解説＞
今回紹介した試乗車は5代目スプリンター（80系）の2ドア「トレノ」（トレノとしては4代目になる）に設定された女性仕様の「リセ」。型式でいうと新型の1.6L・DOHCの4A-GEエンジンを搭載するAE86ではなく、先代からキャリーオーバーされた実用型の1.5Ｌ・SOHCの3A-U型エンジンを搭載した「AE85」になる。なお、この「リセ」はトレノだけでなくセダンの「スプリンター」にも設定されていた。
リセは女性仕様として快適装備が充実していたのが特徴で、「パワステ」、「チルトステアリング」、「リモコン式ドアミラー」、「バニティミラー」、「助手席アンダートレイ」、「運転席ドアポケット」などが標準装備されていた。女性仕様としてシート柄など見た目だけでなく、機能面でも充実させていたことは評価できるだろう。現在では女性仕様に限らず装備されているのが当たり前なものばかりだが、当時のこのクラスの車としては、贅沢装備の部類であった。なお試乗車は5速MTだが、4速ATも用意されていた。
ちなみにステアリングは、先代70系まではボール＆ナット式で重かったのが、この80系からラック＆ピニオンに変わり軽くなった。その上でパワステが標準で付いたのだから、女性には喜ばれたものと思われる。70系では駐車場での切り返しなど、力の弱い女性にはなかなか厳しいものであった。
