文・写真:吉田直志(automobile columnist)
民主党政権時代の公共事業仕分けといえば、まず思い出すのが群馬県にある八ッ場(やんば)ダム建設中止だろうか。それが正しかったのか誤っていたのかはさておき、やがてダムの建設は再開され、2020年の完成を目指して着々と工事が進み、今では大規模な人工物と大自然が織りなす不可思議な景色が広がっている。その八ッ場ダム建設現場を巡るドライブに連れ出したのはトヨタ「アクア G “GR SPORT”」。このモデル、レギュラーモデルではなく、ボディを硬め、シャシーチューンを行うことで、アクアが持つスポーティさを引き出したパフォーマンスモデルだ。
あまり知られていなかった八ッ場ダムを一躍有名にした民主党政権時代の事業仕分け。もはや、その読み方を知らぬ人はいないほどの話題となったが、一時中止されていた工事は再開され、あと2年足らずで完成となる。現在、工事は最終段階にさしかかっており、完成前の景色、つまり沈み往く景色と完成途中のダムがどのようなものか、を目にしたくて出掛けることにした。
八ッ場ダム周辺へは、関越自動車道・渋川伊香保ICから吾妻川沿いの国道を走っていくことになる。ICを下りた時にはバイパスに大型店舗が建ち並んでいた風景も、やがて、険しい風景が見られるようになり、いつしかコーナーが続く山道になる。
ダムまで行くのだからさぞかし険しい道だろうと思われるかもしれないが、草津温泉や菅平へと抜ける道でもあり、交通量も多い。とはいえ、ところどころ新たにバイパスをイメージさせるような整備された道があり、調べてみたところ、渋川市から八ッ場ダムがある長野原町まで地域高規格道路の上信自動車道(つまりバイパス)が建設予定とのこと。時に旧道、時にバイパスといったルートは、まさにアクア G “GR SPORT”の真価を存分に楽しむことができる道だった。
ちなみに、こうした特別なモデルは一般的にレンタカーとして貸し出されることは少ない。しかし、トヨタモビリティサービスではそのパフォーマンスを多くの人に体験して欲しいと貸し出しを行っているのだ。もちろん、スポーティな走りを目指してチューニングされたモデルゆえに、低速域ではゴトゴトとした堅さを感じる。しかし、タイトコーナーではハンドリングの正確性が際立ち、バイパスルートでは少し速度を上げた際のコーナリングの安定感がすこぶる高く、先に感じた硬さなどはいつしか気にならなくなっていた。
ダム周辺には二つの道の駅がある。ダム手前に位置する「道の駅 あがつま峡」は、広々とした芝生広場とそばにある渓谷のコントラストが美しく、また温泉も併設。一方、完成するとダム湖畔に位置することになる「道の駅 八ッ場ふるさと館」も施設が充実しており、湖畔となっていない現在でも多くの人で賑わっていた。いずれもここ4、5年に完成した道の駅だが、それぞれにオリジナリティがあり、ぜひとも両方ともに訪れることをオススメしたい。
建設途中のダムを見学できるスポットについては、あちこちに用意されており、無料駐車場に停めて少し歩くだけで壮大な景色を目にすることができる。ただし、クルマとともにダムを撮影できるスポットはない。ちなみに、将来ダム湖にかかる橋はすでに完成しており、将来の湖畔を想像しながらダム湖周辺を走ってみるといい。
今回はアクア G “GR SPORT”を存分に楽しむことができたドライブとなったが、実用燃費は驚いたことに30.0km/Lをオーバーし、31.7km/Lを記録した。ルート中、高速道路が多くを占めたこともあるが、それにしても、あれほどのパフォーマンスをもちながら、ここまで燃費がいいとは、まさに驚きだった。
ドライブデータ
試乗車=トヨタ アクア G “GR SPORT”
パワーユニット=ガソリンエンジン(1496cc)+モーター、電気式無段変速機、FF
乗車定員=5名
全行程走行距離約=約359km
立ち寄りスポット[マップコード]
・川原湯展望スペース[295 490 089*43]
・八ッ場大橋[295 490 031*03]
・道の駅 あがつま峡[295 553 049*65]
※「マップコード」および「MAP CODE」は、株式会社デンソーの登録商標です。
※ナビの機種によっては、高分解能マップコードに対応していない場合があります。
プロフィール
吉田直志/automobile columnist
四輪駆動車専門誌、デジタルカルチャー誌の編集部を経て、フリーライターに。現在は新型モデルの評価を軸に、自動車雑誌のほか、ファッション誌にも寄稿。
(本稿は2018年11月に新聞「週刊Car&レジャー」に掲載)