欧州では2011年に登場し、国内へは12年から導入されたDS5。シトロエン「DS」ラインのフラッグシップとして登場したモデルだが、昨年「DS」がブランドとして独立したのに合わせ、フェイスリフトが行われた。
主な変更点はDSロゴの配されたフロントグリルの採用やLEDランプの採用など。ダブルシェブロン時代はいささかノンビリした雰囲気の顔つきだったが、新グリルとなってメリハリが強くなり、精悍さも感じられる印象だ。エンジンは1.6Lターボで変更はないが、最高出力が5psアップされ、より力強さを増している。
さてDS5の最大の特徴は、その個性的なデザインである。まずスタイルは、ハッチバックをそのまま引き伸ばし、ステーションワゴン、そしてセダンの性格も併せ持ったもの。大きなくくりでいえばクロスオーバーということになるが、その言葉から連想されるSUV的な要素はなく、DS5という独自のカテゴリーとしか言いようがない。しかし、このスタイルは見た目がユニークなだけではなく、なかなか合理的でもある。居住空間は広く、荷室の使い勝手も良好。全高が低いためタワーパーキングも余裕だ。
室内のデザインも、航空機のコクピットから発想したという運転席周り、腕時計のベルトをイメージしたというシートのデザインなど、すべてに渡ってこだわりと独創性に満ちている。見た目の面白さだけでなく機能性もなかなかで、特にトグルスイッチを多用した操作系のレイアウトはわかりやすい。また厚みのあるシートはサイズも大きく、体をしっかりと包み込んで極上の座り心地だ。ただ飛行機の操縦桿をイメージして下部を直線状にしたステアリングは、膝上のゆとりをもたらす一方、連続するカーブなどで忙しく左右に回すような場面では若干の違和感があるのが正直なところである。
一方、個性的なスタイルとは反対に、走りはクセがなく自然な乗り味。搭載する1.6Lエンジンは決してパワフルではないが、低回転域からトルクがしっかりと出てくるので、発進時のもたつきもなく、スムーズに加速していく。足回りはDS伝統のハイドロニューマチックではなく一般的なバネを採用するが、しっとり滑らかで乗り心地の良さは抜群。ゆったりと体を包み込むシートの座り心地とも併せ、前席はもちろん後席もリラックスしてドライブを楽しむことが可能だ。また室内の静粛性が高いのも特筆できる。
ドイツ車流の重厚なプレミアム感とはまた一味違う、フランス車ならではの軽快な上質感、高級感に満ちた一台といえるだろう。乗り心地の良い欧州セダンを探しているユーザーにも試乗して欲しいクルマだ。(鞍智誉章)