欧州市場で先行するEV(電気自動車)化の波。欧州委員会(EU)が2035年の新車販売をすべてEVかFCVにする方針を示したこともあり、欧州メーカーを中心にEV専業化宣言が続いている。25年~30年辺りを目途に、予定通りに進展すればこれからわずか数年で各社のラインアップも様変わりすることになるだろう。このためEVの選択肢が大きく広がることになるのだが、一方でガソリン/ディーゼル車の新型車購入を予定しているならば、今後数年がその最後のチャンスということにもなりそうだ。
ということで、現在EV専業となることを宣言しているブランドを並べてみた。ここに挙げていないブランドも、市場の動向によっては、今後さらに加わることになるかもしれない。特に輸入車の購入を検討している人は、その動向をよくチェックしておきたい。
【ボルボ】2030年までに完全EV化。同時にオンライン販売に
ボルボは2030年までに新車販売のすべてをEVにすると同時に、EVはオンライン販売のみにする。つまり、2030年までにボルボは全車オンライン販売のみになるということだ。商品ラインアップもさることながら、ディーラーの役割も変わるという事になる。
欧州では20年にブランド初のBEVとして「XC40リチャージ」を発売、21年には「C40リチャージ」も投入。国内では「C40リチャージ」から導入が開始されたばかりだが、今後は急速にBEVのラインアップが充実することになる予定だ。25年には日本で販売する新車のうち40%、約1万台をBEVにする計画である。
【ジャガー】2025年から完全EV化
主要ブランドの中で最も早くEV専業化を宣言したのがジャガーで、なおかつEV化する時期も2025年と早い。今から3年後にはガソリン・ディーゼル搭載の新型車はなくなってしまうというわけだ。
なおランドローバーについては24年にEVを投入、順次EVのバリエーションを拡大し、ディーゼルは26年までに撤退。36年までにジャガー・ランドローバー全体でハイブリッド車を含む内燃機関車を廃止する予定としている。
【MINI】2030年代初期までにフルEV
BMWグループ全体では30年までにグローバル販売の5割をEVにする、としているが、その中でMINIが先行。25年に最後のエンジン搭載車を発売し、その後の新型車はすべてEVとなる。
第4世代となる新型MINIは23年から生産を開始し、日本では24年頃登場する予定。エンジン搭載車とBEV仕様が生産される予定で、日本にどの仕様から導入されるのかはまだ不明だが、ここからMINIの電動化が本格スタートすることは間違いないだろう。現行モデルよりもボディサイズは多少小さくなるようだ。
【メルセデスベンツ】2030年完全EV化
世界最古の自動車メーカーであり、かつ販売規模も大きいだけに、EV専業化宣言は衝撃的。以前の計画は2030年に新車販売の半分をEVとPHEVにするというもので、それだけでも驚きだったが、昨夏にはこれを前倒しし、2030年には販売する新車をすべてEVにするというのが現在の計画だ。
30年までにEV関連で400憶ユーロ(約5兆2000億円)を投資し、8つの大型バッテリー工場を設置するなど、目標を実現すべく取り組みを始めている。
22年には航続距離1000km以上のEVを発表、25年にEV専用プラットフォームを3種類導入し、それ以降の新型車はすべてEVになる予定。内燃機関車の販売終了時期は市場によって異なるとしているが、日本でも急速にラインアップの刷新が行われることになりそうだ。
【フィアット】2030年完全EV化
コンパクトモデル「FIAT500(チンクエチェント)」が日本でも大人気のフィアットは、2025年以降、内燃機関搭載モデルを順次廃止。30年までにEV専業メーカーになる。
既に欧州では発売済みの新型500はEV専用モデルとなっており、22年中には日本でも発売予定。しばらくはエンジンを搭載する現行500も併売されるが、今後の主力はEVという事になる。
街中をトコトコ走る500は、EVとの相性も良さそうだ。手頃な普及価格帯のEVとして一定のシェアを獲得するかもしれない。
【アウディ】2026年以降の新型車はすべてEV
EV「e-tron」シリーズの拡充を進めるアウディは、25年までに20車種以上のEVをラインアップ。エンジンを搭載した新型車の投入は25年で、以降の新型車はすべてEVとなる。33年にエンジン搭載車の販売を終了する予定だ。
現在の「e-tron」は上級モデル中心だが、今秋発売予定の「Q4 e-tron」から普及価格帯(アウディとしてはだが)のEV化も本格的にスタートする。
なおグループ本体であるVWもフルEV化を表明しているが、販売地域が広範にまたがるだけに時期は2040年とちょっと先。ただし主力はEVの「ID.」シリーズに移っており、こちらも前倒しになる可能性もある。
【ベントレー】2030年から全車EV化
ロールスロイスと並ぶ超高級ラグジュアリーブランドも、30年までにフルEV化の計画。まずは26年までに全ラインアップをEVとPHEVに切り替え、その後EVのみにするスケジュールだ。
静粛性の高いEVは、超高級ラグジュアリーとの相性も良さそうではある。
【ロータス】2020年代後半に完全EV化
エリーゼ、エキシージ、エヴォーラの3モデルの生産を終了し、昨年登場した「エミーラ」が最後の内燃エンジン搭載車となるロータス。20年代後半にはエミーラも終了し、EV専業になることを公表している。
26年には新しいEV2シーター・スポーツカーが登場予定。さらにSUVタイプやクロスオーバー、4ドアクーペなどの登場も予想されており、これまでよりも幅広いラインアップとなりそうだ。
【アルピーヌ】2026年全車EV化
ルノーは、欧州市場においては30年までに100%電動化するという目標を掲げているが、グローバルではまだ複数の選択肢を残している。一方で傘下のアルピーヌはEV専用のブランドとすることを決定しており、これはトヨタ/レクサスと同じ手法といえるだろう。
アルピーヌでは24年からEV化をスタート予定。3車種のEVを予定しており、2車種はルノー・日産・三菱アライアンスのEVプラットフォームをベース、1車種はロータスと共同開発するEVプラットフォームを採用する。A110の後継車は、後者となる予定。
【アルファロメオ】2027年全車EV化
イタリアを代表するメーカーの一つ、アルファロメオは2027年以降、EVのみを販売すると宣言。現在はプジョー、シトロエン、ジープ、フィアットなど14ブランドを擁するステランティスの傘下にあるが、その中で最も早くEV専業ブランドとなる予定だ。
アルファロメオは現時点でEVは発売していないが、24年にブランド初のEVを投入、25年以降は発売するすべての新型車をEVにするというのだから、猛烈な勢いでラインアップが刷新されていくことになる。ほとんど新ブランドの立ち上げに近い状態となるだけに、その動きが注目される。
【フォード】2030年に欧州向け乗用車をフルEV化
日本市場からは既に撤退しているので、国内では直接関係するわけではないが、欧州市場では100%、米国市場でもEV比率を高めていくと公表している。
23年末までに年間60万台のEVをグローバルで生産する計画。最終的には年間200万台以上のEVをグローバルで販売し、世界最大のEVメーカーを目指すとしている。
米国でもマスタングのEV「マスタング・マッハE」に続き、電動ピックアップトラック「F-150ライトニング」を発表済み。マッハE、F-150ライトニングともに注文が殺到しているというから、米国市場も急速にEV化が進みそうだ。
欧州市場は、24年までにEV乗用車3モデルとEV商用車4モデルを投入。26年までに欧州で60万台以上のEV販売を目指す。30年には欧州で販売する乗用車をEVのみとし、商用車も3分の2をEVかPHEVにする。フォードの強みは独フォルクスワーゲンと提携していることで、VWのEV専用プラットフォームも活用し、EV生産を進めていく。
【GM(シボレー/キャデラック)】2035年までに全乗用車をゼロ・エミッション車に
25年までに米国でのEVシェアでリーダーになることを目標に掲げているGM。EVと自動運転技術に350億ドル(約4兆円)を投資し、世界で30車種以上のEVの発売を予定するなど積極的だ。
ちなみに21年に米国で売れたテスラ車は約35万台。これに対して同年のGM製BEVは約2.5万台と大きく差が開いている。トップシェアのテスラを追い越すために、今後、怒涛の攻勢が続くこととなりそうだ。
新型車は、フォード・F-150ライトニングに対抗すべく、23年には大型ピックアップのシボレー「シルバラードEV」を発売、さらにシボレーやビュイックのクロスオーバー、キャデラックのEVなど続々と新型EVの登場を予定している。
フォードもそうだが、米国ブランドは大型乗用車のEV化に積極的。どちらかというと小型車から進める日本メーカーと若干戦略が異なっている。
【レクサス】2035年に完全EV化
現在は20年に発売した「UX300e」のみだが、今後、ラインアップのEV化を進め、30年までに全カテゴリーでEVをフルラインアップし、欧州・北米・中国で100%EVにする。日本を含めその他地域はやや遅れるものの、35年にはグローバルで100%とする計画だ。
まずは22年登場予定のEV専用車「RZ450e」から本格的な攻勢開始。モーター駆動ならではの高い走りのパフォーマンスが期待できそうだ。
【ホンダ】2040年ZEV専業
2040年にグローバルでエンジン全廃の目標を掲げるホンダ。EV+FCVでの展開としているが、現実的にはEVが中心になることが予想される。また欧州での規制もあり、全体としては計画が前倒しになる可能性が高い。
販売に占めるEV+FCVの割合は、北米と中国は30年に40%、35年に80%、40年に100%という計画。欧州市場はこれより先行し、35年時点で大部分がEVとなっていそうだ。
日本では30年20%とスタートが遅れるが、35年以降は北米・中国と同じ比率としている。つまり30年20%→35年80%となるわけで、5年間で急激にEVシフトが進むことになる。30年まではハイブリッドが主力となるが、以降は徐々にEVに置き換わっていきそうだ。
現在のEVは「Honda e」のみだが、これは実験作の性格が強い。本格的な拡販は、GMとの共同開発車を北米で投入し、日本でも軽EVを発売する24年からスタートすることになる。20年代後半にはホンダの「e:アーキテクチャー」を採用したEVを順次投入するとしているから、30年に向けて加速度的にEVラインアップが充実することになりそうだ。25年にはソニーとの共同開発車も登場する予定で、こちらも注目されるところである。