時代が早すぎた?電動化にいち早く挑んだものの短命に終わった軽自動車3選

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いまや世界各地で「電動車化」への動きが急速に進んでいる。日本でも2030年代半ばには純ガソリン車の新車販売は禁止される方向で進んでおり、もはや電動車化への動きは避けられそうにない。

とはいえ日本の場合、ハイブリッドもこの「電動車」の中に含まれる。“HVは含まず”の欧州と比べれば、かなり現実的かつ緩やか。なにせ20年の時点で登録車の新車のうち約4割は既にHVなのだから、15年後、EV以外全車HVとなったとしても驚きには値しない。

ただし、動向が注目されるのは軽自動車だ。ボディサイズが小さく、コストにも制約がある軽自動車にとって電動化は鬼門といえる。エンジンに加えてモーターやバッテリーを搭載するハイブリッド車、システムはシンプルでもバッテリーが高価なEVは、小型・安価な軽自動車との相性は良くない。

がしかし、だからといって環境問題は避けては通れない大きなテーマではある。メーカーもそこは承知で、かなり以前からトライアルが行われてきた。そこで今回は、この軽自動車の電動化に早くから挑み、実際に商品化された3モデルを紹介しよう。

・スズキ ツイン

軽自動車初のハイブリッド車として2003年に登場したのが、この「ツイン」だ。もともとは地方都市での近距離移動のための手軽なツールとして開発されたもので、全長わずか2735mmの超小型で2人乗り。丸みを帯びた可愛らしいスタイルもユニークで、現在の中国製超小型EVにも似た雰囲気を感じさせる。ハイブリッド仕様の他、通常のガソリン仕様も用意されていた。

スズキ・ツイン。可愛らしい外観で商用車として使われるケースも多かった

発表・発売は2003年1月22日だが、同日には超簡易な異色の原付スクーター「チョイノリ」も発表(発売は2月11日)されており、当時のスズキはチャレンジ精神が旺盛だ。共通するのは近距離移動のゲタ替わりというコンセプトで、原点回帰が当時のスズキ社内ではトレンドだったのだろう。

同時期に登場した超簡易スクーターの「チョイノリ」。リヤサスペンションも省略されるほどシンプルな構造だった

ツインが搭載するハイブリッドシステムは、エンジンとトランスミッション(4AT)の間に薄型モーターを配置したもの。バッテリーは二輪用のMFバッテリーを転用したものを採用したのが、いかにもスズキらしい。システムとしては加速時にモーターがエンジンをアシストするパラレル方式で、アイドリングストップ機構も備え、10・15モード燃費34km/Lを実現。ガソリンモデルは同26km/Lだから、燃費性能としてはなかなかのものだ。

開発は98年頃からスタート。ハイブリッド車の開発にあたってはアルトでも試作したが、主力モデルでコケたら大変ということで、市場性を見るためにツインからの搭載となったという。ということは、もしツインハイブリッドが好調に売れたなら、「アルトハイブリッド」とか「ワゴンRハイブリッド」も登場した可能性が高い。

ツインは特殊な構造のため、設計上ガソリンモデルも含めて大量生産に対応できず、手組ラインでの生産のため発売時の月販販売目標はガソリン仕様も合わせて200台と少ない。そのうちハイブリッドは10台から15台程度であり、そもそもレアな存在だった。

ガソリンモデルはシンプルな「A」が49万円、これにエアコン、パワステ、キーレス&ドアロックなどを装備した「B」が84万円。これに対してハイブリッドはシンプルなAで129万円、上級のBで139万円とちょっと高かった。2005年で販売終了。実質わずか3年の短命に終わった。

結局ツインのハイブリッドシステムは1代限りで終了したが、スズキはその後、ISG(モーター機能付発電機)+リチウムイオンバッテリー方式のマイルドハイブリッド「Sエネチャージ」を開発。2014年より搭載を開始し、現在ではスペーシアやハスラー、ワゴンRに搭載され、同社の主力システムとなっている。

 

・ダイハツ・ハイゼットカーゴ ハイブリッド

2005年9月に発売されたのが軽商用車では初のHVとなった「ハイゼットカーゴ ハイブリッド」だ。発売はツインより2年後だが、02年から地方自治体や一部企業を対象にモニター走行を行っており、開発のタイミングとしてはほぼ同時期といえる。

見た目は普通のハイゼットカーゴと同じだった「ハイゼットカーゴ・ハイブリッド」。乗用車版の「アトレー」には設定されなかった

基本的なシステム構成もツインに似ており、エンジンとトランスミッション(4AT)の間にモーターを搭載する方式。ただしバッテリーはニッケル水素で、こちらの方が少し高性能。発進時にエンジンをモーターがアシストするパラレル方式で、アイドリングストップも搭載し、約20km/Lの低燃費を実現していた。

ハイブリッド車は凝ったメーターを搭載するものが多いが、ハイゼットはとてもシンプル。中央の「Hybrid」の文字が誇らしげだ

ハイブリッドシステムは多くの部品を「エスティマ・ハイブリッド」のものを流用し低コスト化を図っていたが、それでも221万円とガソリンのハイゼットカーゴの倍の価格。“環境にやさしい商用車”へのニーズはあったものの、さすがに軽バンで200万円超の価格では売れず、2010年販売終了。約400台の生産に留まった。

・スバル プラグイン ステラ

軽自動車ベースのEVといえば三菱「アイ・ミーブ」が代表モデル。その発売が発表されたのは2009年6月5日だが、その1日前の6月4日に発表されたのが「スバル プラグイン ステラ」だ。今ではあまりEVのイメージがないスバルだが、その取り組みは早かったのだ。

このプラグインステラのベースになったのは、結果として自社生産最後の軽自動車となった初代ステラ。このエンジンを外し、最高出力47kW、最大トルク170Nmのモーターを搭載、バッテリーは9kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載していた。

2009年の東京モーターショーに参考出品された「スバル・プラグイン ステラ feat. BEAMS」。EVの知名度アップを狙い、人気ブランドとコラボした

が、一充電航続距離は当時の10・15モードでわずか90km。車両価格をできるだけ抑えるために小容量のバッテリーを採用したことが大きな要因だが、近距離移動用としてもさすがに短い。ちなみに車両価格は472万5000円で、138万円の補助金があったが、それを差し引いても約334万円と非常に高価でとても一般向けとはいえず、事実上法人リース販売のみ。2011年にはスバルが軽自動車の開発・生産から撤退したこともあり、短期間で販売を終える結果となった。

結局、スバルのEVはここで一旦ストップしてしまったわけだが、そこで得られたノウハウは現在のe-BOXER開発にもつながっているという。商業的には決してうまくいったとはいえないプラグインステラだったが、無駄にはならなかったようだ。

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