一昨年、昨年と暖冬が続いた日本列島。特に昨シーズンは全国的に記録的な暖冬・少雪となり、スタッドレスタイヤの活躍の場があまりなかった。特に首都圏では、シーズン中、雪道や凍結路をほとんど走らなかったという人も少なくないだろう。
しかし、今年は3年ぶりにラニーニャが発生。このラニーニャ発生年は寒い冬になることが多く、降雪が増える可能性も高い。またラニーニャ発生年は、冬の訪れが早いことも特徴だ。もちろん寒冬=大雪というわけではなく、またラニーニャだからといって必ずしも寒冬になるわけではないのだが、傾向としてはスタッドレスタイヤが活躍する機会が増える可能性が高いと考えてよいだろう。
というわけで、スタッドレスの買い替えを考えている人には、今年はいいタイミングといえるかもしれない。雪が少なかった昨シーズンは、結果的に終わりかけたスタッドレスタイヤでも何とかなったが、今年はそうはいかないかもしれないからだ。
■2019-2020年の新モデル
今シーズンは、ダンロップとトーヨータイヤ、ミシュランが新モデルを投入。
まずダンロップは、新モデル「WINTER MAXX03」を発売。名称からは従来のMAXX02の進化版のようにみえるが、実際には異なる路線となるものだ。
極端にいうと、このMAXX03は「氷上性能」のみに偏重したタイヤだ。氷上性能をMAXX02より大きく向上させるのと引き換えに、雪上、ドライ/ウェット、耐摩耗などは従来のMAXX02よりも性能ダウンという性能特化型モデルである。
この結果、ダンロップは従来の「プレミアムモデル」「標準モデル」の区分けでなく、「氷上特化型」「バランス型」の組み合わせになることに注意したい。
トーヨーは「OBSERVE GIZ2」がデビュー。こちらは従来モデル「OBSERVE GARIT GIZ」の正常進化版だが、コンパウンドとパターンを一新。氷上性能の向上はもちろんだが、ウェット性能の大幅な向上が図られているのが特徴だ。
ミシュランは「X-ICE SNOW」を発売。こちらは従来の「X-ICE3+」の正常進化版といえる。名前はSNOWだが、もちろん雪上性能だけでなく、氷上性能も向上させている。コンパウンドも一新されており、実力が期待されるところだ。
■ブリヂストン
プレミアム:BLIZZAK VRX2
スタンダード:BLIZZAK VRX
ブリヂストンのスタッドレスタイヤは「ブリザック」ブランドで展開中。ゴム内に気泡を持たせ、滑りの原因となる氷上の水膜を吸水して取り除く独自の発泡ゴムの採用が特徴だ。
主力VRX2は17年発売で4シーズン目。従来からのパターンだと、モデルチェンジは来年になることが予想されるから、末期のVRX2を今年買うか、来年に新モデルを買うか、ちょっと迷うところではある。ただし氷上性能の高さでは現在のVRX2でも折り紙付きだから、今購入しても性能面での後悔はないだろう。
・BLIZZAK VRX2
2017年9月発売。最新の発泡ゴム「アクティブ発泡ゴム2」を採用し、氷路面でのブレーキ性能をVRX比で10%短縮したほか、摩耗ライフ22%向上、騒音を31%減少させるなど、大幅に性能を向上させている。
氷上性能はダントツの高性能。その分、実売価格も高めだが、性能の高さを考えれば納得できる範囲だ。前作VRXの課題であった耐摩耗性が大きく向上していることもあり、長く使えることも利点といえる。路面凍結が多い地域のユーザーには、特にお勧めのモデルだが、耐摩耗性の向上によりドライ路面での走行が多いユーザーにもお勧めしやすくなった。またドライ路面での静粛性の高さでも定評がある。
・BLIZZAK VRX
2013年9月発売。現在では価格もこなれてきており、以前よりも買いやすくなった。先代レボGZがバランス型だったのに対し、氷上性能が大きく向上しているのが特徴。「アクティブ発泡ゴム」「新非対称パタン」「新非対称サイド形状」の3つの技術を採用し、氷路面における「ブレーキの効き」だけではなく、ドライ路面やウエット路面での性能も高い。
氷上性能そのものは現在でも高いレベルにある。が、摩耗が早いのが難点。この点はVRX2では大きく改善されているので、冬期間の走行距離が長いユーザーはVRX2の方が満足できるだろう。一方で、走行距離が短いユーザーや、短期間でクルマを乗り換える予定のユーザーならば、VRXで満足できるだろう。
■ヨコハマ
プレミアム:iceGUARD 6
スタンダード:iceGUARD 5PLUS
ブリヂストン「ブリザック」と並ぶスタッドレスの定番がヨコハマの「アイスガード」。ブリザック同様こちらも吸水系だが、ゴム自体を発泡させてスポンジ様の構造とするブリザックに対し、アイスガードはゴムに混ぜ込んだ「マイクロ吸水バルーン」と呼ぶ球状の殻や「エボ吸水ホワイトゲル」によって水膜を取り去る構造としているのが特徴だ。
ブリザックに比肩する高性能ながら、売価は若干安く、コスト的にも選びやすい。
・iceGUARD 6(アイスガード6)
2017年9月発売。キャッチフレーズは「冬の怪物」。スタッドレスタイヤに求められる氷上性能の向上はもちろん、従来のスタッドレスタイヤの弱点であったウェット性能の向上も重視して開発されたタイヤで、結果として「氷上性能」、「性能の持続性」、「低燃費性能」「ウェット性能」「静音性」のバランスに優れたタイヤとなっている。
・iceGUARD 5PLUS(アイスガード5プラス)
2015年8月発売。先代「iceGUARD 5」の改良版。トレッドパターンは継承しつつコンパウンドを変更することで、氷上性能を高めているのが特徴。現在ではスタンダードに位置するが、実力は高くユーザーからの評価も高い。ドライ路面での摩耗性も極端に減るということはないので、雪や凍結の少ない地方でもオススメだ。性能、価格のバランスに優れたタイヤである。
■ダンロップ
氷上性能特化型:WINTER MAXX 03
バランス型:WINTER MAXX02
2012年に登場した「WINTER MAXX」シリーズの発売から評価を大きく上げたのがダンロップ。今シーズンは最新モデル「WINTER MAXX03」が登場したが、従来とはコンセプトを変更したことで、他社とは異なる商品展開となったことは注意が必要だ。
従来のように、予算によって標準かプレミアムを選ぶのではなく、使用するエリアや使い方で選択する形になる。具体的には凍結路での走行が多い人や地域では「03」を、積雪路や乾燥路での走行が多い人や地域は「02」が向いている。
・WINTER MAXX03
2020年8月発売。ダンロップとしては4年ぶりの新作となるスタッドレスタイヤ。特徴は氷上性能を大きく向上させたこと。ナノレベルで施された凹凸構造を持つ特殊なゴム「ナノ凹凸ゴム」を採用することで水膜の除去から氷への密着を素早く行ない、MAXX02比で氷上ブレーキ性能を22%向上、氷上コーナリング性能は11%向上させている。
反面、消耗性やドライ性能、雪上性能は犠牲になっており、MAXX02よりも劣るというのがポイントだ。いわば氷上スペシャルモデルであり、何でもこなす器用さは持ち合わせていないから、選択はよく考えたいところ。特に従来のMAXXシリーズは、ドライ路面での摩耗の少なさで選ばれることも多かったが、そのつもりでこのMAXX03を選ぶと期待外れになるかもしれない。
今シーズン登場ということで、実力が試されるのはこれから。他を犠牲にしてまで追求した氷上性能がどの程度のものか、大いに注目されるところである。
・WINTER MAXX02
2016年8月発売。昨年まではプレミアムの位置付けだったが、MAXX03の登場で「バランス型」の位置付けになる。氷上、雪上、ドライ、ウェット、ライフといった相反する要素を満遍なく追求した正常進化型のスタッドレスタイヤだ。
登場時は氷上性能の高さをアピールしていたが、実際にはどちらかというとドライ路面での走行性や摩耗の少なさに定評がある。このため積雪や凍結が少ない地域にも最適なタイヤといえるだろう。昨シーズンまでは価格はやや高めだったが、今季は手頃になったことで、より選びやすくなっている。
■ファルケン
「ダンロップ」を展開する住友ゴムが持つ、もう一つのブランドが「ファルケン」。旧オーツタイヤのブランドとして誕生したが、オーツが住友ゴムに吸収されたことで、現在では住友ゴムの中で特に欧米市場中心に販売されている。
欧州を主戦場とするブランドだけに、スタッドレスタイヤも他の国産メーカーとちょっと異なる性格。スピードレンジが高く欧州ブランドのタイヤに近いのが特徴だ。実売価が手頃なのもうれしい。
・ESPIA W-ACE
2018年8月発売。「エスピア」はオーツ時代から続くスタッドレスタイヤのブランド名。かつては引っ掻きの材料として軽石(ザラメック)や卵の殻など他社にはない素材を混ぜていたのが特徴だったが、現在は混ぜ物ではなく、ゴム素材とパターンでグリップさせるタイプとなっている。
W-ACEは、方向性を持った先進的なトレッドパターン「ラッセルパターン」、サイプを自在に配置した「タテヨコサイプ」、新たに開発した「アイスホールドゴム」などを取り入れることで、氷上ブレーキ性能を7%、氷上コーナリング性能を4%、ウエットブレーキ性能を13%向上させるとともに、スピードレンジ「S」(180km/h)、「H」(210km/h)を実現している。
■グッドイヤー
プレミアム:ICE NAVI7
スタンダード:ICE NAVI6
人気のオールシーズンタイヤ「ベクターフォーシーズンズ」の陰に隠れて目立たないが、もちろんスタッドレスも充実。派手さはないが、トータルバランスに優れた堅実モデルだ。
・ICE NAVI7
2017年8月発売。新パターンデザイン「セブン・エフェクティブ・デザイン」やシリカを細分化し柔軟性を増した[エキストラ・コンタクト・コンパウンド」などの採用で、氷上ブレーキ性能を強化。ICE NAVI6に比べ7%の性能向上を実現しているという。
氷上からドライまで特出した部分はないが、バランスが良く扱いやすいタイヤなので、幅広いユーザーにオススメできる。
・ICE NAVI6
2013年8月発売。雪上・氷上、ロングライフ、ドライ・ウェット性能をバランスよく進化させたスタッドレスタイヤ。後継のNAVI7ほどではないが、トータル性能は高く日常で不満のないレベル。実売価格も安く、経済性も優れている。
■トーヨー
プレミアム:OBSERVE GIZ2
スタンダード:OBSERVE GARIT GIZ
ミニバン専用の「TRANPATH」シリーズが人気のトーヨータイヤだが、乗用車用スタッドレスも着実に進化。今年は6年ぶりに新モデル「OBSERVE GIZ2」が登場した。もちろん新モデルでも同社伝統の「鬼クルミの殻」は健在だ。
・OBSERVE GIZ2
2020年8月発売。氷上性能と性能持続性を高めた新モデル。
コンパウンドには「持続性密着ゲル」を配合した新開発の「吸着クルミゴム」を採用し、吸水・密着・引っ掻きの効果を向上。さらにシリカの増量により高いウェット性能も実現している。これにより先代GIZよりもアイス路面でのブレーキング性能は8%向上、ウェット路面でのブレーキング性能は18%向上しているという。また非対称パターンを採用することで、アイス路面やスノー路面でのトラクションを向上させている。
・OBSERVE GARIT GIZ
2014年8月発売。NEO吸水カーボニックセル、ナノゲル、鬼クルミ殻を配合したNEO吸着ナノゲルゴムと、接地性を高めしっかりとしたグリップ力をもたらすタイヤパターンの組み合わせ。
実売価格は国産スタッドレスの中では最も安いクラスだが、必要十分な実力は備えている。摩耗性も含めてクセがなく、バランスが取れたタイヤだ。
■ミシュラン
プレミアム:X-ICE SNOW
スタンダード:X-ICE XI3
ドライバーによって評価が大きく分かれることが多いミシュランのスタッドレスだが、今シーズンは新モデル「X-ICE SNOW」が登場。コンパウンド、トレッドパターンともに変更され、氷上、雪上性能を向上したとしているが、リアルワールドでどのような実力を見せるか期待されるところだ。
・X-ICE SNOW
2020年8月発売。先代X-ICE3+から3年ぶりと、やや早めの登場となった最新モデル。コンパウンドから溝形状、サイプの数や深さなど全面的に一新され、氷上・雪上・ドライ・ウェットなどあらゆる路面状況に対応するスタッドレスとして開発されている。特にアイスブレーキング性能はX-ICE3+比で9%向上、雪上ブレーキング性能は同4%向上したとしており、よりオールラウンダーとしての性格を強めている。
定評のあるドライ路面での走行性能の高さはそのままに、謡い文句通りトップクラスのアイス性能が加われば、文句のつけようがないが、果たして実際のところはどうか?今冬での評価に注目したい。
・X-ICE XI3+
2017年8月発売。「X-ICE3」の改良モデルで、基本構造はX-ICE3を踏襲しながらコンパウンドを一新。表面再生ゴムの中に「Mチップ」を加えることで、タイヤが摩耗しても氷上性能を保つのが大きな特徴。
夏タイヤにも比肩するドライ性能の高さでは定評がある一方で、氷上性能はユーザーによって評価が分かれるタイヤで、大中型車などある程度重量のあるクルマとの相性が良い印象だ。X-ICE SNOWの登場で価格も手頃になったこともあり、ドライ路面での走行が大半だが、たまに雪道を走るというユーザーには最適なタイヤといえるだろう。
■ピレリ
圧倒的な低価格ながら、高い実力で人気を集めた「アイス・アシンメトリコ」。その改良・進化版の「アイス・アシンメトリコ プラス」が現在の主力。先代モデルの性能を向上させつつ、特にロングライフ性能が高められており、さらなるハイCPを実現している。
・アイス・アシンメトリコ プラス(ICE ASIMMETRICO PLUS)
2018年9月発売。高いコストパフォーマンスで人気の「アイス・アシンメトリコ」の改良版。コンパウンドを改善することによって性能の持続性を高めているのが特徴だ。
手頃な価格に加えてドライ性能も高いため、あまり雪の降らない地域で走行距離が多いユーザーにもオススメだ。ドライ路面重視だけど、ミシュランはちょっと高いし…という人にも最適。
■コンチネンタル
プレミアム:バイキング・コンタクト7
スタンダード:ノース・コンタクトNC6
コンチネンタルは、ドイツが誇る老舗のタイヤメーカー。乗用車用スタッドレスはコンタクト7、コンタクトNC6の2種類をリリースしている。
・バイキング・コンタクト7(VikingContact 7)
2018年9月発売のプレミアム・スタッドレスタイヤ。
新コンセプトのパターンデザインとコンパウンドテクノロジーの採用により、相反するウィンター性能とウェット性能を高次元で両立。バイキング・コンタクトシリーズの優れたウィンター性能とドライ路面でのハンドリング性能に加えて、シリーズでは初となる「左右対称パターン」を採用することで、ウェットおよびシャーベット路面での排水性を大幅に高め、冬の様々な路面状況下で安全で快適なドライビングを可能にしている。
・ノース・コンタクトNC6(NorthContact NC6)
2019年9月発売。昨年登場した新モデル。従来の「コンチ・バイキング・コンタクト6」の後継となる。日本の凍結路面に合わせ、氷上性能に注力しているのが大きな特徴。低温化でもゴムを柔軟に保ち、高性能を長く維持する「ノルディック・コンパウンド+」、凍結路面でのグリップとブレーキ性能を高める「ゲッコー・グラブ・パターン」などの最新テクノロジーを採用している。