公益財団法人 本田財団は、「2020年の本田賞」を、経済的成長と社会的利益を促進するパラダイムシフトを実現するための方策として、現実世界とデジタル世界を結び付ける概念「Industrie 4.0」を提唱し世界に伝えたとして、ドイツ工学アカデミー評議会議長ヘニング・カガーマン博士に授与することを決定した。
1980年に創設された本田賞は、科学技術分野における日本初の国際賞であり、人間環境と自然環境を調和させるエコテクノロジーを実現させ、結果として「人間性あふれる文明の創造」に寄与した功績に対し、毎年1件の表彰を行っている。今回で41回目となる本田賞の授与式は、2020年11月17日に日本とドイツをはじめとした世界各国を中継するオンライン形式で開催され、メダル・賞状とともに副賞として1,000万円がカガーマン博士に贈呈される。
2011年〜2012年にかけて、ドイツではインターネットと実世界を結び付けた議論が盛んに行われていた。カガーマン博士が率いるドイツ工学アカデミーがその議論をリードし、2013年にはヴォルフガング・ヴァルスター博士(ドイツ人工知能研究センター創設者)とヴォルフ・ディーター・ルーカス博士(ドイツ連邦教育研究省国務長官)とともにサイバーフィジカルシステムとIndustrie 4.0の概念を確立・提唱した。また、カガーマン博士は「戦略的イニシアチブIndustrie 4.0実装に向けた提言」の執筆者であり、製造業、流通業、物流業、ヘルスケア、社会基盤、農業などあらゆる産業においてデジタルの力を活用した産業最適化の必要性を提唱した。ドイツ政府が進める「ドイツアクションプランハイテク戦略2020」の将来プロジェクトにIndustrie 4.0が設立されてからは、その代表アドバイザーとしてドイツと世界各国の企業連携を支援し、デジタルトランスフォーメーション(DX)についての国際的な議論を深めることに尽力した。
第4次産業革命ともいわれるIndustrie 4.0は、先進国のノウハウ提供を通した新興国・途上国の発展を促し、持続可能な社会の実現に寄与するもので、現在では Industrie 4.0の発展型としてプラットフォーム型のビジネスモデル「スマート・サービス」や人工知能や機械学習を用いて学習する「自律システム」の作業部会で主導的な立場を担っている。上記のようなカガーマン博士の取り組みが、「本田賞」にふさわしい成果であると認められ、今回の授賞に至った。
【ヘニング・カガーマン博士】
<略歴>
- 1972年:ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン実験物理学部 卒業
- 1973~1982年:ブラウンシュヴァイク工科大学 理論物理学 博士課程&ポスドク課程
- 1985年:ブラウンシュヴァイク工科大学 物理学員外教授
<職歴>
ドイツのソフトウェア会社SAP AGにてプロジェクトマネジメント/コントロールを担当。同社の執行委員に任命された(1991)後、共同CEO(1998~2003)、CEO(2003~2009)を歴任。
<主な活動>
◆2009~2015年
欧州連合(EU)の独立機構であるEIT(欧州イノベーション技術機構:イノベーション・研究・教育の三機能を併せ持つ産学連携機構)の構成組織KIC(知識・イノベーションコミュニティ:分野ごとに複数存在)の一つであるEITデジタル(旧EIT KIC ICT)において、執行運営委員会の初代委員長を務める。
◆2009~2018年
acatech(ドイツ工学アカデミー)会長
◆2010~2018年
リサーチ・ユニオン役員(2006~2013)およびその後身であるハイテク・フォーラム役員(2014~)として、Industrie4.0、スマート・サービス、オートノマスシステムの各プロジェクトを担当。ドイツの研究政策上の課題や、イノベーションシステムのさらなる発展の必要性についての提言を行い、ドイツのハイテク戦略における中枢的役割を果たす。
◆2010~2018年
ドイツ電気モビリティプラットフォーム(NPE)委員長として、電気モビリティの主要マーケット兼主要サプライヤーとしてのドイツの発展および地位の確立を共通目的に掲げ、連邦政府顧問機関として広範な予測・提言・目標の定期報告を行う。
◆2010年~
連邦政府の代表者(ドイツ国首相、連邦教育研究大臣、連邦経済エネルギー大臣、連邦財務大臣、連邦首相府長官)と科学産業分野の代表者間で行われるイノベーション・ダイアログの運営委員長として、ドイツのイノベーション領域およびイノベーション政策のあらゆる側面について、連邦政府に対し第三者エキスパートからのアドバイスを提供。
◆2017年
ドイツ連邦経済エネルギー省および連邦教育研究省より、プラットフォーム・インダストリー4.0国際代表/顧問に任命。Industrie4.0の実現に向け、各国の科学者、関係省庁、関係企業との議論を推進。
◆2018年
連邦交通デジタルインフラ省より、ドイツ次世代モビリティプラットフォーム(NPM)委員長に任命。旅客・貨物輸送の双方における高効率、高品質、高適応、高可用、高安全、高レジリエンス、かつ低価格なモビリティ利用を可能とするほぼカーボンニュートラルな環境配慮型交通システム実現のため、異種交通手段を組み合わせるリンケージ・プラットフォームの構築を推進。
◆2018年~
acatech評議員会会長